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ヘタれ王子の求婚物語  作者: えるぜ


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セシリアの慟哭

「ジュディス様ファンクラブ」と言う存在は、今まではどちらかと言うとアンダーグラウンドな立ち位置であった。しかしここに来て、侯爵令嬢セシリアが名誉総裁として頂かれるに当たって、その規模はぐんと増した。毎週金曜日の放課後、ファンクラブの会合が行われる。


「良くって、皆様」


セシリアが厳かに告げる。


「ジュディスの好きな物、それは…………お肉ですわ」


おお!と王都に自宅、もしくはタウンハウスを構える令嬢達が色めき立った。


「で、では…………例えば『3時のお肉』の差し入れとかも………」1人が意を決したように尋ね、セシリアが頷いた。

「ジュディスの負担にならないように交代で」代わりにがっくりと肩を落としたのは寮生達である。料理人に作らせて3時に届ける事など出来はしない。


「大丈夫、貴女達には別のお願いがあってよ」


何でしょう、と寮組が身を乗り出す。


「ジュディスはね………小動物が好きなの。だから、ジュディスの持ち物、ハンカチや、寮内だからこそ出来るパジャマの襟やピローケースへの刺繍、それを私達で致しましょう」


おお。と令嬢達がよろめいた。


「あんなに綺麗でお強いのに…………」


「小動物が、お好き……」


こうして「ジュディスファンクラブ」は静かに、そして確実に動き出した。


そんなある日の「王子部屋」でのひととき。「あのさあ」とアレクサンダーがセシリアに問うた。


「このあいだのリス公園も薬草園も、何でジュディが女子学生に囲まれてんの!?セシリア、何か情報流してない?元々、俺が!『ジュディを知ろう大作戦』だって事、忘れてない?」


ネーミング、とカイルの言葉が蘇る。


「勿論忘れてなどいませんわ!」


反射的にセシリアが答えた。


「貴方方は馬鹿馬鹿しいと思われるでしょうね。それは分かっております。同じ女子生徒に憧れる女学生の気持ちなんて、分かる訳ありません」


うん、そら分からんな、と全員が思った。


「ジュディスのきりりとした眉が好き。アクアマリンの瞳が好き。綺麗な顎の線が好き。強いのに細い首が好き。しなやかで長い手足が好き」


お、おう………とアレクサンダーが心の中で合いの手を打った。それは自分もとても好きだ。


「だけれど、この学院にいる間だけなんです!私も侯爵家の一人娘。幸い父は、学院内で身分の釣り合う好ましい相手が見つかるように、と猶予してくれていますけれど、ジュュディスより好ましい相手なんて見つかりません!私の意思を尊重してくれていても、時が来れば父が見繕った男性を婿養子に迎え、侯爵家を継がなければなりません。一人娘ですから………それは仕方ないと分かっています」


カイルがそっとハンカチを渡してくれるまで、セシリアは自分が涙ぐんでいる事に気付かなかった。


「寮で…………ジュディスの好きなリスの刺繍を、皆で…………食堂に集まって……ハンカチや色々、そんな時間は今しか持てないのです。このまま卒業して、父が選んだ相手を入り婿として迎える。そんな将来しか私にはないのです」


セシリアの慟哭とも言える訴えに、アレクサンダーは言葉を失った。


「そうだ!」


とアレクサンダーが閃いたように言った。


「セシリア、君はジュディの侍女になればいい!そうすればずっとジュディと一緒にいられるし、王宮で働いている間には、好ましい男性も見つかるだろう」


何言ってるんだろうこのすっとこどっこいは、とセシリアは嘆息した。どうしてこの完全無欠の王子様が、ジュディスに関してだけはこんなにも夢見がちな乙女になってしまうのだろう。自分ですら己の置かれた境遇、何を諦めるか、何を選べば良いか分かるというのに、あんた王子様なんだよ!?何お花畑展開してんだよ。

さっさと求婚しろ、そしてさっさと鼻で笑われて振られやがれ、とセシリアはやさぐれて思った。


「とにかく!今だけなんです!アレクサンダー様といえども譲れません」


セシリアの剣幕にアレクサンダーが押された。まあ、今だけだと言うのなら、セシリアに時間を与えても良いだろう…………そう思っていた頃が俺にもありました!!それからわずか2年も経たないうちに、アレクサンダーはセシリアへの譲歩を心から後悔する事になるのだけれど、それはまたおいおい語られる話である。


学期末の試験が終わった。

座学は全員一緒、実技はそれぞれの履修科目での順位が総合的に順位付けられる。座学はアレクサンダー、モーリス、ジュディスが競い、実技はアレクサンダー、ミッシェル、ジュディスが競う。


「…………全くもって気に入らないわ」


セシリアは順位表を見て思わず爪を噛みそうになった。自分は必死に勉強をした。その上で90人中座学30位。そして、狙い澄ましたかのようにカイルが31位に着けていた。「……………あの野郎」最近、セシリアは自分の言葉がどんどん汚くなっている事には気づいていた。カイルは全ての試験を45位から30台に抑えている。


「むかつくわ」と、セシリアは独りごちた。


期末試験も終わり、アレクサンダーはジュディスに尋ねた。


「夏季休暇、自領に帰るのか?」


ジュディスは笑って答えた。


「セシリアに招かれている。夏季休暇は暫く王都のタウンハウスへ。それからノーザンカレント領へ招待されている」


へ、へえ、そう、とアレクサンダーは間抜けな声を出した。







間が空いてしまって申し訳ありません

読んで下さってありがとうございます^_^

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