リボン
アレクサンダーとジュディスが店頭で楽しそうに話す様子を、4人は少し離れた場所から眺めていた。アレクサンダーがいくつかの商品を指差すと、店主がトレイに選ばれたリボンを並べて行く。
「おっ!アレクがジュディの髪にリボンを当てている!」とミッシェルが叫んだ。「も…………もう少し近くで見たいわね……」とセシリア。モーリスがちっちっち、と指先を振った。「野暮な事を仰るものじゃありませんよ、お嬢さん」
「それにしても、全員で出かけてアレクがどれだけジュディを知る事が出来るだろうかと思っていたけれど」とミッシェルが呟いた。「うん、それなりに楽しんで、思い出出来てるよね」とモーリスが感慨深げに答えた。
30分程経った頃だろうか、漸く2人が戻って来た。ジュディスは手に小さな紙袋を持っている。
「見てもいい!?何色のリボンにしたの?」
セシリアが意気込んで尋ねると、紙袋を留めていた細いリボンを丁寧に解きながらジュディスが口を開いた。
「グレイのリボンを新調して貰おうと思って。アレクが色々選んでくれた。それでね、こういう光ったグレイも式典の折に相応しいんじゃないか、って」
そう言って手のひらの上に載せられたリボンを見て、全員が一瞬黙った。
「ひかったぐれい………………」とミッシェルが呆然とジュディスの言葉を繰り返した。アレクサンダーが言った事を素で受け取っているのか。それはな「銀色」って言うんだ。ため息が漏れる。モーリスは報われないアレクサンダーの思いに嘆息した。自分の髪色のリボンを勇気を振り絞って贈ったのだろう。けれどジュディスには全く通じていない。
まあ、俺もジュディスの瞳の色の石を贈ったしな、とモーリスは思う。水色のリボンじゃ二番煎じにしかならない。アレクサンダーの瞳の色、緑を贈らなかっただけでも自制したのだろう。「………光ったグレイ、ねえ」そう呟いてモーリスはくくっと笑った。
「ご自分の髪色………」
セシリアはセシリアで複雑な感情を抱いていた。色味は多少違えども、自分とジュディスの髪は同じ金髪である。お揃いの………金のリボンを………私も!と、露天に向かって大きく一歩踏み出した。が、その腕を後ろから優しく引かれる。怪訝に思って振り返ると、そこにはカイルがいた。「やめておいてあげて」おっとりと微笑まれてセシリアは躊躇った。「…………お見通しって訳ね」今日1日で、セシリアにとってカイルへの評価は「何故か腹が立つ憎たらしい男」に爆下がりしていた。
「ま………まあいいわ。今日はアレクがジュディを知る日ですものね。他にいくらでも機会はあってよ」
セシリアはふん!とカイルから顔を背けた。すると天を仰いで現れ始めた星を眺めるアレクサンダーが目に入る。贈ったリボンが自分の髪色だと気付かれていない事を気にもしない、満たされた表情の彼がそこにいた。
俺は、ジュディのリボンを持っている。そして今日からはジュディも俺が贈ったリボンを持ち続けてくれるだろう。
そう考えるだけでアレクサンダーは十分幸せだった。
「………来週はリス公園と薬草園に行こう………」
アレクサンダーは誰にともなく呟いた。
やがて、4人に送られてジュディスとセシリアは女子寮に到着した。目敏い女生徒が気付いたのか、どんどん女生徒達が窓際に集まって来る。中にははしたなくも窓を開けて身を乗り出すようにしている女生徒までいる。それぞれの推しの王子様に黄色い声が飛んで手が大きく振られる。
代表をするようにアレクサンダーが軽く手を上げ、柔らかく微笑んでその手を振った。きゃあきゃあと熱に浮かされたような歓声が舞った。
「…………分かってないわね、娘っ子達が」
とセシリアが呟いた。この中で至高の存在、それはジュディスである。一度でいいからジュディスにエスコートされてみるがいい。直ぐに分かるから。と思ったが、在学中にその場を他の娘に譲る気は一切ない。
「今日は本当にありがとう。とても楽しかった」ジュディスがそう言えばアレクサンダーも「こちらこそ」と軽く返して、やがて彼らは去って行った。
「ジュディス、ちょっと貴女のお部屋に伺っても良くて?」
セシリアに問われてジュディスは勿論、と答えた。自室のドアを開けると、ルシアンナが「ジュディス様!お帰りなさい!」と笑顔で迎えた。
「ルシアンナ!」
セシリアはルシアンナの両手をがっしりと握った。
「貴女は『ジュディス様ファンクラブ』の会長だと伺いましたわ!」
「ええ!」とルシアンナもその手を握り返す。
「今日1日で、セシリア様もお分かりになりまして!?」
「なりましてよ!是非私もそのクラブの一員に!」
何なの?そのクラブ、と言ってジュディスが苦笑していた。「あんまり私で遊ばないようにね」そう言って「お茶を貰って来るね」と部屋から出て行った。
「台詞の一つ一つが!」とセシリアが悶えた。「イケメンで色気があり過ぎますよね!」とルシアンナ。
「そうですわ!セシリア様が入って下さるなら、是非名誉総裁になって下さいませ。侯爵令嬢が総裁でいらしたら、いずれこのクラブも学校公認になるかもしれません!」
…………3年間しか存在しない奇跡のクラブ。
ならばその総裁の地位を十分に堪能させて頂きましょう、とセシリアは黒く笑った。
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