夕食後
「べっ、別に面白くなんかないわよ。ただ貴方が、あまりにも感情を表に出さないから、イライラしただけ」
つんとセシリアが答えると「何故君が?」とカイルが答えた。こいつら、見てると案外面白いな、とモーリスが思っていると料理が次々と運ばれて来る。
不思議な店だった。料理名はなく、メニューに説明書きが記されているだけ。まるで料理名を書いても伝わらないだろう、とはなから諦めているような感じさえする。モーリスは「鶏肉の様々な部位を串に刺して炭火で炙った一品」と言う物を目の前にしてその一串を口にした。旨かった。恐らく他のどの料理も美味しいのだろう。ジュディスが「豚の薄切り肉を生姜と秘伝のソースで味付け炒めた一品」を口にして目を見張っている。
「な!旨いだろ!?」
ミッシェルが自分の手柄の事のように胸を張って言った。
「うん、初めての味でとても美味しい。揚げ物だけれど、ミッシェルのオーダーもきっと美味しいんだろうね」
ジュディスがそう言うと、ミッシェルが勢い込んで重ねた。「あ!だったらさ!全部少しずつ食べてみてよ。小ぶりの所にするからそんなに負担じゃないと思う」
そう言って、ジュディスのお皿に自分のオーダーした品を少しずつ載せて行く。「肉が食べたい少年」を地で行っているジュュディスは目を輝かせた。一口ずつ味をみながらほお、とため息を漏らした。
………………………俺が肉で餌付けをする予定だったのに…………
アレクサンダーから、ずももももと音がするような黒いオーラが吹き出し、モーリスとセシリアは頭を抱えた。ミッシェルも大概肉相手だと理性が吹っ飛ぶ。
「ジュディ?」
ん?とジュディスが顔を上げた。
「俺のオーダーも良かったら。揚げ物じゃないしフィレだから良いタンパク質になると思う」
アレクサンダーは、まだ口を着けていない牛肉を切り分けた。何となく牛をオーダーしたい気分だったのだ。何となく。
「牛フィレの炙り、香辛野菜と玉ねぎのソース、レアで提供の逸品」だそうである。
「凄いね、今日はまるで肉祭りだ」
ジュディスが嬉しそうに言った。「うん、これもとても美味しい。ミッシェル、素敵な店に案内をしてくれてどうもありがとう」
だからどうしてどいつもこいつも最後は1番美味しい所を持って行って、自分達の思い出作ってんだよ!と、アレクサンダーの胸中はハリケーンである。
「そうだわ、私とカイルで寮の食事も改善させるように計らうから、それももう心配しなくても大丈夫よ」
と、セシリアが留めを刺した。
店を出るともう辺りは暗くなっていた。
自家発電の安っぽい灯りに照らされて、夕方にはなかった露店が並んでいる。昼間の明るさの中では恐らくちゃちな品物にしか見えないだろうアクセサリーや小物を並べた店が、キラキラと輝く商品を並べている。
ジュディスは、その中の一店に目を留めた。アレクサンダーがその視線の先を追う。それは、リボンの量り売りをしている小さな屋台だった。
「………リボンが欲しい?」
掠れるな、俺の声。とアレクサンダーは腹に力を込めた。
「いや」とジュディスが首を振る。
「そろそろ、邪魔になって来たから髪を切ろうかと、あの店を見て思った。そうだね、肩口くらいの長さに」
ダメ!絶対!!
と、アレクサンダーは心の中で叫んだ。
「そう言えば、アレクにリボンをあげた事があったね。もう覚えていないだろうけれど」
アレクサンダーがうっと呻いて胸を抑えた。大丈夫?どうしたの?とジュディスが思案気に尋ねる。
「…………処分をした覚えがないから、きっとまだ部屋にあると思う」
アレクサンダーとジュディス以外の全員が遠い目をした。
「そうなの?……それは、ちょっと嬉しいかな」
アレクのヘタれもとにかく、ジュディもさあ、天然にも程があるよな、とモーリスは思った。
「………あの日のリボンはともかく!だな。あの日、俺の驕りを打ち砕いたのはその、その綺麗な長い髪のジュディだった。だから………もしあの日の思い出を少しでも懐かしいと思っていてくれるのなら、髪は…………切らないでいて欲しい」
そうなの?とジュュディスが首を傾げて微笑んだ。
あざとい。自覚がないだけ性質が悪い、とミッシェルが思う。でもアレク、ヘタれなりに頑張ったわね、とセシリアがうんうん、と頷いていた。
「今日も、とても楽しかった。良ければリボンを一本。俺からはジュディに何もしてやれなかったから。………贈らせて欲しい」
アレクサンダーの言葉にジュュディス目を見開いた。
「十分だよ!今日だって、アレクが色々考えてくれたんでしょう?フィレ肉も美味しかったし」と、ジュディスが少し顔を赤らめた。それに…………書店でのひと時は、とても楽しかった。
今だ!押せ!と全員の思念がアレクサンダーに向かって飛んだ。
「だったらなおのこと。是非今日の事も覚えておいて欲しいから。その記念に」
…………しょうがないなあ、とジュディスが照れたように笑った。
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