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ヘタれ王子の求婚物語  作者: えるぜ


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18/22

書店を後に

至福の時間だった。確かに最後はカイルに持って行かれたけれど、ジュディスと2人きりで2時間過ごせた。ジュディスが、上の書庫の本の表題を教えて欲しいと言って、端から読み上げる。少し沈黙があった時はジュディスの興味のある本なのだろう、そう思った。


「選び易いように、少しでも興味がある本だったら言って。少し、本を引き出しておく。そうすれば後で選び易いだろうし」


そう言うと、それでは他の客人達の迷惑になるから、とジュディスが躊躇った。


「大丈夫」


書店入ってすぐの閲覧席にはカイルがいる。閲覧料を払った時に、店主に何事かを呟いた事、慌てたように店主が扉の外に出て何かしらの動きをした事、アレクサンダーは目の端で全てを追っていた。恐らく自分の身分を明かしたのだろうけれど、誰にも邪魔されない空間をお膳立てしてくれたカイルには感謝しかない。


「何がどう大丈夫なのか全然分からないね」とジュディスがくすりと笑った。でも、じゃあお言葉に甘えて、そう言われてアレクサンダーの胸が鳴った。


梯子に登らないと読めない本の表題を端から読んで行く。興味がある本のタイトルを読むとジュディスが少し黙る。ジュュディスが躊躇った本をアレクサンダーの綺麗な指が少しずつ引き出して行く。

まあ、剣術、対魔法、その辺りは予想通りだったけれど、リスの生態、で止まった時には驚いた。それからうさぎの生態、薬草、鉱物、ジュディスの知識欲は限りがない。

それにしても、一撃必殺のジュディスが、まさかリスの生態に興味があるとは思わなかった。


「…………可愛いな」


思わず言葉が漏れて、ジュディスが不思議そうに梯子の上にいるアレクサンダーを見つめた。


「あ、いや。リスやうさぎは可愛いな、と思って」


そうなんだよね、とジュディスが柔らかく笑った。「田舎育ちだから、リスやうさぎはしょっちゅう見かけた。仲良くなれたら良いな、ってずっと思っていたから」


いや、可愛いのは貴女です、とここからここまでを全部、と大人買いしたくなる。

やがて、梯子上段の本の選別は終わった。


「あ、じゃあ下の段は自分で選べるから」


そう言ったジュディスにアレクサンダーが言った。


「指差して、先に進んで。俺が引き出しておくから。その方が効率的でしょう?」


ああ、そうだね、助かる。そう言ってジュディスに微笑まれてアレクサンダーは再び心の中でもんどりを打った。

そして選びに選んだ3冊をカイルに見て貰い、まあ結局はカイルに撃沈された訳だけれど、訳だけれど!

アレクサンダー打たれ強い。今日の2時間でジュディスの興味、関心が随分と理解出来た。それに関わる事ならば、いずれ誘って2人で出かける事も出来るだろう。


一行は、ミッシェルお勧めと言う店に向かっている。けれどアレクサンダーは、先程の書店での甘い、いや、アレクサンダーだけが甘いと思っているひと時を反芻していた。


「………反芻」


牛はいいな、毎日こんな甘酸っぱい思いを体験しているのか、とアレクサンダーは思った。いや、それただの消化器官の動きだから。美味しかったとか思い出していないから!とアレクサンダーの心持ちを突っ込む相手もいない。

牛を羨む王子様、まっこともって世も末である。


「ああ!ここ!絶対旨いからジュディも気にいるよ!俺の横に座って!説明するから!」


脳筋なミッシェルにモーリスとセシリアが頭を抱えた。せっかくカイルが良い雰囲気に持って行ってくれたのに、せめてぶち壊さないで欲しい、と切実に願う。


「これはねえ、厚切りに豚肉にパン粉まぶして揚げたやつ。こっちはねえ、鶏肉のぶつ切りにした味付けて揚げたやつ。それからこっちは挽肉と玉ねぎの塊にパン粉着けて揚げたやつー、それから………」


ミッシェルにこっちこっち、と横に座らせられたジュディスは頬杖を突きながらミッシェルの説明にこにこと聞いていた。


「……揚げた物ばかりなんだね」


くすりとジュディスが笑う。


「いや!それはまあ俺の好みを薦めてしまったけれど、揚げてない旨いものも山ほどあるから聞いて?」


だめだこりゃ、とモーリス、カイル、セシリアはこめかみを抑えた。これではアレクサンダーの立ち位置がない。分かってんのか!今日は「ジュディスを知ろう大作戦」の初日だって事。おめーが好きな肉料理を披露する場所じゃねえんだよ、とセシリアの胸中を荒れすさんだ言葉が舞う。


「………ジュディの好みが分かればそれで」


牛並に反芻を重ねたアレクサンダーが穏やかに呟いた。


「揚げてない物ならイチオシはこれだな。薄切りの豚肉生姜となんか不思議なソースで下味着けて焼いたやつ」


ふうん、じゃあそれにしようかな、とジュディスが答える。やがてそれぞれ良く分からないメニューをミッシェルに解説されながらオーダーが完了した。


最初に提供されたのはカイルの注文だった。


「生魚を乗せたビネガー味の米!?」


セシリアが慄く(おののく)ように呟いた。


「……よく、そんな物オーダーしようと思うよね」


カイルは軽く眉を上げて何の抵抗もなくそのひとかけらを口に運んだ。


「………せっかくなら、と」


あのねえ、もっと美味しいとか!逆に気持ち悪いとか!ちゃんと考えてる事言いなさいよ!

何故かセシリアがカイルに絡む。カイルは不思議そうにセシリアの顔を見て小さく首を傾げた。


「君は、面白いね」


久し振りにカイルが単語以外の言葉を口にした事に、周囲はおおっ、とどよめいた。




読んで下さってありがとうございます^_^

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