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ヘタれ王子の求婚物語  作者: えるぜ


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15/21

モーリスの葛藤

だがしかし。ここでジュディスが女性だなどと言ったら、爺さんはほーっほっと笑って、昼間から祝杯を上げそうだ。ここは大人しく自分が汚名を被ってやり過ごすしかない、とモーリスはため息を吐いた。

そう言えばアレクサンダーは、()()な物を選べ、と圧をかけて来ていた。余り高額な物を贈るんじゃねえぞの押し感が凄い。勿論、モーリスもジュュディスが遠慮なく受け取ってくれそうな石を選ぶつもりでいる。


「ねえ、爺さん。びっくり箱、まだある?」


ございますとも、と店主が笑った。びっくり箱とは、それこそ串焼き2本分くらいの値段で一つ魔石が買える、けれど時々とんでもないお宝が混ざったワクワクするような一箱だ。店主は冷やかしや一見の客相手には先ずこの箱を勧めて、相手の力量を測っていた。少年だった頃のモーリスにとってそれはまるで駄菓子屋に置かれた宝箱の様な存在だった。


「………久し振りに腕試しをしようかな」


モーリスは折りに触れてミッシェルを筋肉馬鹿呼ばわりしていたが、ミッシェルから見ればモーリスも立派な魔術馬鹿だった。モーリスは真剣な表情でびっくり箱から5つの石を選び、店主が差し出したビロード張りの小箱に並べた。


「………流石でいらっしゃる。石選びもそうですが、お相手の事を良く分かってらっしゃるご様子」


店主が満足そうに頷いた。びっくり箱の中にある石はどれも本当にただの石ころの色合いを帯びている。黒、灰色、白、雲母のようなキラキラした物もある。大抵の初心者はキラキラした石を選ぶのだが、モーリスが選んだ石は全て真っ黒だった。


「ジュディ、小箱の上に手をかざして」


モーリスに言われてジュュディスが不思議そうに首を傾げた。「私には魔力は全く無いよ?」


「それでも大丈夫。君と縁がありそうな石を選んだ。ジュディの体温や波長を感じ取れると思う」うんうん、と店主が頷く。ジュュディスが手をかざすと、ぼうっと石が光って、その全てが青い色を放った。群青のような青からごく薄い透明に近い水色まで。その中からモーリスは、ジュュディスの瞳の色そっくりなアクアマリンのような石を選んだ。


「…………こちらを」


店主は、と見ると目元を赤く染めている。


「本当に、ご立派に………なられて」そしてジュュディスに向き直ると「モーリス様をどうぞ、宜しくお願い致します。軽佻のようでいて根はとても真面目な方です」そう言って頭を下げた。


……………やばい。


その瞬間モーリスは我に返った。微笑むアレクサンダーからブリザードのような風を感じる。久し振りのびっくり箱につい浮かれてしまった。セシリアやミッシェルの事をどうこう言えない。


「ジュディ、モーリスが良い石を選んでくれたようだね。今日は帯剣していないから、明日以降、学院内で装着してみようか。どんなふうに剣筋が変わるのか楽しみだ」


ブリザードがジュディスに向かってだけは春風になる。うん、とジュュディスは嬉しそうにその魔石を受け取った。その石は俺が、と言いかけたアレクサンダーの台詞はまた遮られる。


「その石は、この爺から贈らせて頂きたく」と店主が胸に手を当てて軽く会釈をした。


「なに、元々びっくり箱に紛れさせておいた物です。どんな人物がこの当たりくじを引き当てるかとわくわくしておりましたが、まさか、こんなにご立派になられたモーリス様が。この店を、爺を覚えていて下さって、見事に引当たられた。本当に、良い思い出が出来ました」


だからやーめーてー!これ以上俺を持ち上げないで!とモーリスの脳内絶叫も虚しい。どうしよう、と自分の目を見るジュュディスにまた胸がざわざわとする。

これは、あれだ。アレクのせいだ、とモーリスは深呼吸する。毎日毎日、3年間、入学してからは更に熱を帯びた「ジュディス讃歌」を聞かされていれば、自ずとその対象に興味も湧く。ある意味自業自得だ!とモーリスは開き直った。


「受け取って貰えれば、俺も、嬉しい」


背中が、凍えた。


「………昼食」


カイルが流れを変えてくれてモーリスはほっとした。気付けば魔石店で随分と時間を取ってしまった。門限前に夕食も済ませる予定なのだから余り遅くなっても差し障りがあるだろう。


ああ、ではお勧めの店が、と言おうとしたアレクサンダーの台詞をまたセシリアが奪い取った。


「でしたら私のお気に入りのカフェにご案内致しますわ。男性の皆様方には少し物足りないかと思いますけれど、確か夕食にはミッシェル様がお安くてがっつりとしたお肉を頂けるお店に連れて行って下さる、と。でしたらお昼は軽めに、ね」


どっ……………どうしてこうどいつもこいつも!アレクサンダーは心の中で歯噛みした。夕食はミッシェルが押さえてしまっている。だからアレクサンダーは気の利いた昼食を、と「城下町の歩き方」を読み込んで今日に臨んでいたのだ。ジュュディスの好みを尋ねて、ピンポイントで何処にでも連れて行ける自信があった。

何でお前らがジュディを知ろう大作戦に積極的に関わって、何でお前らが勝手にジュディを知っていくんだよ!


いや、多分彼らなりにジュディを知って、次はこう誘え、と指南してくれるつもりなんだろう。根が善良なアレクサンダーは無理矢理気持ちを抑えた。



読んで下さってありがとうございます^_^

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