グループ交際「(笑)着き」
そうは言っても、だ。
セシリアもかなり上背がある方だと自身では思っていたけれど、ジュディスは女性にしてはとても背が高い。170センチ?いやひょっとするとそれ以上かも知れない。
「ねえ、ジュディス?」と尋ねる時の自分の顎の角度が好きだ。「なあに?」と答えるジュディスがほんの少し首を傾げるように覗き込む角度が好きだ。セシリアは今、どこぞの歌劇団の娘役の気分を満喫していた。何なら手を取り合って歌ってもいい。踊ってもいい。そんな妄想を抱きながら待ち合わせ場所の噴水広場までやって来ると「…………やっぱり居やがったか」と、苦虫を噛み潰したような表情でセシリアが言った。
誤解の無いように言っておくけれど、それぞれ一大派閥を持つ天上の貴公子様達である。見目麗しい4人が噴水の前で並んで2人を待っている。けれど、脳内で菫の花が満開に咲いているセシリアはそれどころでは無い。
ジュディスは、と見遣ると広場のあちこちを興味深そうに眺めている。
「ジュディは、城下に出るのは初めて?」そうアレクサンダーが尋ねると恥ずかしそうに頷いた。「あれは………何かな」そう聞いたジュディスにミッシェルが答えた。
「ああ、串焼きの屋台だな。食う?勿論、俺の奢り」
「いや、今日は奢って貰うつもりは………」とジュディスが言ったけれど、ミッシェルはもう走り出していた。
「まあ、良いんじゃないの?ジュディの初城下なんだからさぁ、今日は俺らに甘えてよ」とモーリスに言われてジュュディスははにかんだ様に笑った。やがてミッシェルが木を薄く切り出した経木の様な小皿に串焼きを2本載せて戻って来た。
いくら何でもジュディにこのまま頬張れとは言えない、とアレクサンダーが口にする前にジュュディスが「いくら何でもセシリアにこのまま頬張れとは言えないね」と言って、屋台からまだ肉を刺していない串を一本貰って来た。経木の上で器用に串から肉を外すと、1番柔らかそうで一口で食べられそうな肉片を串に刺す。
「セシリア、座って?」
いくつも並んだベンチにセシリアを誘うと、はい、と串を口元に運んだ。
それ!!それ俺がジュディにやろうとしたヤツ!何でジュディがセシリアに!とアレクサンダーは憤懣やる方ない。「もう少し食べる?」「んっ!」セシリアの隣に座ったジュディスが再び串を運ぶ。その様子を周囲の人々が微笑ましそうに、また羨ましそうに眺めていた。
いや、んっ!じゃないだろう!これじゃまるでお前達のデエトじゃないか!
そんな2人の様子をにこやかに眺めるアレクサンダーの機嫌が急降下している事に気づいたモーリスが「と、取り敢えず俺のお気に入りの店に行かない?」と流れを変えさせた。
「そうだね、ありがとうミッシェル。もう一本は君が食べて。とても、美味しかった」そう言って串を渡す時に、ジュュディスとミッシェルの指先がほんの少し触れた。いやだからやーめーて!そこで耳染めないの!ミッシェル!今日は「大作戦」第一歩だってのに、全員自覚がない。と、モーリスは頭を抱えた。
「それで?モーリスのお勧めのお店って、どんな所?以前は武器や防具の店も沢山あるって言ってたよね」
「うん、でもそういう店はアレクの方が詳しいから。俺は根っからの魔術師だからね、今日は魔石店に行ってみようと思って」
「魔石!?」
とジュディスが瞳をキラキラさせてこちらを見るから、モーリスの胸も何だかざわざわとする。いや、俺は武器屋はアレクに譲ったからな!だからもう少し和やかに、ね?
「ジュディは魔法は?」
さすが第一王子。立ち直りは早い。「全然」とジュディスが肩を竦めた。
「アレクは両方行けるんだよね。羨ましいよ」
「そうだね、でも武器に魔石を着けて振っているうちに、何らかの感覚が生まれるかもしれない。魔石は玉石混交で、価格が高ければ高い程良いという物でもないんだ。要は持ち主とどれだけ馴染むか、かな。最初はお守り程度の安価な石で始めると良いと思う。モーリスが………きっと良い物を選んでくれるよ」
いや、最後だけ妙に剣呑なんですけど!とモーリスは心の中で泣き笑いをした。
やがてモーリスが案内してくれた店は、路地裏にひっそりと佇む小さな商店だった。
「………これは!魔術師団長の坊ちゃん!魔石が必要ではなくなってからはとんとご無沙汰でしたが、お元気でいらっしゃいましたか?噂では、第一王子殿下のご学友になられたと!」
見るからに好々爺然とした白髪の店主に、モーリスは無言でアレクサンダー手のひら向け「礼を」と言った。ハッとした様に店主が跪く様に礼を取った。
「ご来店頂き、身の誉にございます。いずれ向かう空の上で語る自慢話が一つ増えました」
しみじみと呟いた後に、店主はモーリスに向き直った。
「それで、今日は一体どの様なご用向きで。貴方様がほんのお小さい頃に魔石でお手伝いをしただけの爺でございます。もう石にはご用はないかと………」
「うん。魔法全く使えない初心者向きの、ほんのお守りの様な石が欲しいんだ。負担にならず、陰で守れるような」
ほっほっ、と店主が暖かく笑った。
「坊ちゃんもそんなお年頃になりましたか。それはこちらのレディに?」
とセシリアを見る。串焼きからこのかた、脳内で菫の花のメロディがエンドレスで奏でられていたセシリアはぶんぶんと頭を振った。
「あ、魔法が全然使えないのは私なんだ。それで、モーリスが私と相性の良い石を選んでくれる、と」
店主は傷まし気な表情でモーリスを見た。
「………坊ちゃん、道ならぬ『恋』ですな。誰が何と言おうとも爺は坊ちゃんを応援致します」
だからやーめーてー!
アレクサンダーの機嫌が更に悪くなっている。カイルの鉄面皮が羨ましい、とモーリスは思った。
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