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ヘタれ王子の求婚物語  作者: えるぜ


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ミッション始動

「………常態」


カイルが淹れたばかりの紅茶をサイドテーブルに置いた。


「こ………こんなん詐欺ですわ」思わず呟くセシリア。あの、冷たい程整っていた横顔はどこへ行ってしまったのだろう。


「ジュディに関わると、輪郭も人格も崩壊するからね、アレクは。まあそう言った次第で、俺達はもうお腹いっぱいだからさ。付き合ってくれる人が増えて嬉しいよ」


そう言ってウィンクを投げるモーリス。確かに、3人がどう成長したのか気にはなっていた。けれど、当時まだほんの子供だったカイルは何を考えているのか良くわからない腹黒無口に、ジュディスに下手くそな芝居を揶揄われていたモーリスは軽薄軟派に、そして、何も案じてはいなかった理想の王子様は人格破綻者に成長していた。ひょっとしたらミッシェルが1番マトモなのか?とは思ったけれど、セシリアは心の中でいやいや、と首を振った。こいつらと付き合って行けるのならまともな筈もない。恐らく、何も考えていない脳筋馬鹿だ。


「え、ちょっと待って。お腹いっぱい、って、まさか3年前から………ずっと?この調子、なの?」


恐る恐る尋ねてみる。


「そうそう、こいつさ、あの時のリボンずーっと肌身離さず持ち歩いてんの。それで、時々眺めてはため息吐くけど、気持ち悪がらないであげてね、セシリアちゃん」


それは普通に気持ち悪いだろう。セシリアはこめかみを押さえた。


「じゃ、じゃあ文通、とかしてたの?」


アレクサンダーがキリッと顔を上げた。あ、輪郭戻った、とセシリアは思う。


「ジュディの負担になる事はしたくなかった」


それ、ただのヘタれだろう!と先刻から突っ込みどころしかない。


「まだ新学期が始まったばかり。卒業まで3年もある。ジュディを大切に思っている事は自然に伝わるだろう。伝わる、よ、ね……?」


そんな捨てられた犬みたいな目で見られても。まさかこいつ、3年間校舎の陰から見つめていれば思いが通じる、とでも思っているのだろうか。

…………恋愛情緒が12歳で止まって……いる。セシリアは両側のこめかみを押さえた。15歳と言えば既に婚約者が決まっている生徒もいれば、学生時代の事と割り切って付き合い始める生徒達もいる。せっかく入学式の模擬戦で旧交を温め合ったと言うのにもうあれから2ヶ月。その間、こいつはずっと校舎の陰からジュディスを見ていたのか。


「……まあ、受け入れる事が難しいのはよく分かる。でも俺達も煮詰まっちゃっっててね。新しい風が吹いて事態が動いてくれるといいな、と思ってるよ」


「うーん、じゃあデートに誘ってみれば?」


セシリア、最早投げやりである。


「いや、ジュディの負担に………」そう言うのいいから!とセシリアが恐れ多くも王子様の発言を遮った。


「じゃあ聞くけど、殿下はジュディスの何を知っているの?好きな物や好きな事、好きな食べ物とか、あとは、そうね、趣味とか」


最早敬語もへったくれも無い。


「………何も、知らない」


アレクサンダーが愕然とした表情で呟いた。


「だったら、先ずはそこからでしょう?いきなりデートに誘うのがハードル高くても、ジュディスの好きな事だったら声かけ易いじゃない。何なら最初は私達も付き合うから」


捨てられた犬状態の時に破綻した輪郭が再び持ち直された。ほんっと分かり易いよな、この王子様、とセシリアは思った。


「そうだな。先ずはそこからだ。名付けて『ジュディを知ろう大作戦』本日放課後から決行する」


「………ネーミング」


カイルがぼそりと呟いた。モーリスは涙を浮かべて笑っている。セシリアはついに頭を抱えた。………ジュディス絡みだと何もかもが12歳か、とため息しか出ない。


「一限が始まる。それでは放課後またここで。セシリア、ジュディは放課後も自主訓練に時間を割く」………ああ、見てたわけね、こっそり、とセシリアは思った。「出来たら演習場を覗いて連れてきて欲しい」


そんなにキリッとした表情で言われても今更感が半端ない。すっかり王子様モードにシフトチェンジしたアレクサンダーは立ち上がった。残り3人も付き従う。綺麗な背筋、迷いのない足取り、それぞれの教室へと向かう途中、道を譲る女子生徒が頬を染めて挨拶をする。何だったら男子学生も頬を染めている。綺羅綺羅しい微笑みを浮かべながら軽く手を上げるアレクサンダー。その長身と背中を見つめながら、セシリアはもう一度「詐欺だ………」と呟いた。


夕刻、セシリアの属する「淑女科」は大体が他の科よりも早く授業が終わる。セシリアは、演習場でジュディスを待っていた。


「あれ?セシリア、来てたんだ」


ジュディスが姿を現したのは、凡そ1時間くらい経ってからだったろうか。今朝ほどの怒涛の展開を反芻していたセシリアにとってはあっという間だった。


「ええ、そう。殿下から貴女を連れて来るように頼まれたわ」嘘は言っていない、嘘は。


「そう言えば、顔を出してくれればアレクかカイル、時間がある時には手合わせしてくれる、ってミッシェルが言っていた」


暫く思案した後にジュディスが頷いた。


「毎日は難しいかもしれない。何しろ、周囲は成長期だから、私も彼らの足手纏いにはなりたくない」


そうね、それはそうだ、とセシリアは思った。何しろ今日は「ジュディを知ろう大作戦」で、きっと手合わせには至らないだろうし、いきなりジュディスをあの混沌(カオス)に放り込むのも気が引ける。


「じゃあ、待たせましょう。貴女のふ……負担には、なりたくないらしいから」何故か「負担」でぷっと吹き出したセシリアにジュディスが首を傾げた。


「ジュディを知ろう大作戦(笑)」にしてくれないかな、とセシリアは思った。

読んで下さってありがとうございます^_^

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