◆05
◆05
その後、ハウエルは戦力を再編し、なるべく同じ群盗が固まらないように部隊を分割した。
そして、何人かの供回りを、元団長たちと混ぜて部隊長や副長に配備し、結束して造反することがないようにした。
細かいことではあるが、これでひとまずは、領主からは出陣依頼しかできない、自警団の二の舞になりにくいような編制をした。
なお、平時はハウエル自身が言ったように、これらの戦力は基本的に農業に従事することになる。
職業軍人ではなく、一応農兵的なものにしたのには理由がいくつかある。兵を土地に紐づけて戦場から離脱させにくくしたり、あるいは専業の軍人としての俸禄を、貧乏なので出せなかったり、兵糧の確保をしたりなどである。ちょうど農具も、過去、代官統治時代の見込み違いで余っていたところだったのもある。
ハウエルは理由があって彼らを農兵的な戦力としたのだった。
数日後、ハウエルはこの部隊を「機動半旗」と名付け、七日に一度、訓練のため訓練場に集合するようにとの触書きを出した。
「主様、どういう訓練をするんです?」
ローザは領主の執務室で聞く。
「最初は、どんなときも命令通りに動き、一糸乱れのないようにする訓練、そして連携の訓練かな」
「あぁ、集団戦で一番大事なことですもんね。群盗のときは、彼ら各々で自分勝手に動いてそうですからね」
「いや、そこまでは思わない。団長や頭領の号令には忠実に動いていたんじゃないかな」
「じゃあなぜ」
「群盗のときは、それほど細かな動きは要求されなかったんじゃないかと思っているんだ。繊細な指揮というか、戦場での部隊単位の細かな立ち回りは、彼らも身についてはいないし、身につける必要もなかったと思ってる。もちろん身についているなら、それはそれでよいことだし、もっと維持したり強化したりするだけだよ」
「ほえ、なるほど」
ローザはうなずいた。
「幸い、機動半旗の構成員は戦うことには慣れているだろうから、身につけるのにはそれほど時間はかからないと思っている。その次は野戦での築陣と槍ぶすまの訓練、銃が生産されたらその扱いになると思う。野戦での築陣は、可能であれば城に次ぐ設営、つまり陣城の構築を目指す」
「野戦での築陣? それはもっと後でもいいんじゃないですか?」
ローザの疑問に彼は答える。
「私たちは銃を主戦力とした戦いを目指している。そして銃は守勢の戦いで威力を発揮するもので、基本的に待ち構えて撃つことが重要になる。その『待ち構える』強さを補強するためには、守備設備を築くことが必要になってくる」
「ほえ、色々考えてるんですね」
「仮に銃の量産に失敗しても、陣を築いて待ち構えるべき戦いは今後あるだろうし、設営の技術はきっと無駄にはならない。これは私の予想だけど、きっと今後の野戦の在り方として、築陣が必須になってくる」
「槍ぶすまもなんかそういう野戦の在り方とかなんですか?」
「長槍で間合いを伸ばしつつ、穂先をそろえて戦うというやり方が、現在の兵法の新説になりつつある。まだ一般には知れていないけど、そういう時代がいつか来ると思う。そのための先取りだ」
「時代ですかぁ。新時代を語る主様はかっこいいですねえ。私も兵法家でもありますけど、落ちこぼれですから、天才軍師領主様の言うことはよく分からないです」
「エェ……なぜそこで嫌味。私は本気でそう思っているんだけどなあ」
彼はまゆを八の字にした。
「ともかく、無駄にならない訓練をするつもりだよ。このことは各隊長と副長にはすでに伝達済み。訓練の際には私が自分で様子を見るつもりだよ」
「領主様が直々に来るなら、下手なことはできませんもんね」
「それもあるけど、現状を自分の目で把握する意味もあるし、するべき訓練内容は私が一番理解しているはず。現場主義がいいとは一概にはいえないけど、たぶん軌道に乗るまでは現場に出たほうがいい、気がする」
「そうですね。私も暇があれば出ていって、手助けをしつつ、ついでに主様のお手並みを拝見しますよ」
「そうか。それは助かる。問題は銃の生産体制の確立だな……色々手配しないと。訓練はじっくりやればいいけど、銃の生産体制はできる限り早く整備したほうがいい」
「そうですねえ。主様は本当にお疲れ様です」
「ローザ、きみも同行してもらうよ。外出が必要なときには」
「そんなぁ、と言いたいところですけど、主様が頑張るなら私も頑張りますよ」
彼女は「むふふ、主様と二人旅」などと浮かれていた。
数日後、あらかた王都への旅の準備を終えたハウエルと、ついでにローザは、訓練場にいた。
ハウエルが説明する。
「命令通りに動く。隊列の維持を通じて、心を乱さず常に冷静でいる。細かな命令にも忠実に従う。集団戦に一番大切なことだ。訓練が進めば、槍ぶすまの調練をしてもらおうと思っているけれど、そうなったらますます大事になる。私はきみたちの今までの戦い方を知らない。しかし想像はできる。頭領の号令にはもちろん従っただろうけれど、これまでの、半ば直感に頼った戦い方では心もとない」
意外なことに、元賊党……もとい機動半旗の兵たちは静かに聞いている。
「私たちは他国の軍を相手にすることもあるかもしれない。そのときに勝敗を分けるのは、最終的には指揮官の指示通りに動けるかどうかだ。勝手な行動は、合戦中は許されないものと思ったほうがいい。それは自分だけでなく、仲間たちをも死に至らしめてしまう。そうならないために、分かっているとは思うけども、真剣に訓練を受けてほしい。以上。各自、部隊長の指示に従ってくれ」
彼が訓示を締めると、機動半旗の面々は「おう!」と声を合わせた。
初回の訓練は、意外にもそこそこの出来だった。
方陣を組んだ機動半旗の部隊が、指揮官の合図、というより鳴り物の指示に従って、一生懸命に、隊列を維持しつつ動く。
方向転換。平行移動。部隊単位での突撃。転進。
きびきびと……というには少し足りないが、さすがは戦いにある程度慣れた凶賊たち、戦闘を前提とした集団行動の訓練にも、まあまあついてこれてはいるようだ。
滝の砦の兵士たちに比べると、まだ、どうしても見劣りしてしまう。しかし第一印象では、自警団なんぞよりはずっと伸び代があるように感じる。
というより、自警団はそもそも訓練をしていないと聞いた。こんな土地柄であるから、相手は様々だろうが、ある程度戦闘のようなものを経験してはいるはず。しかしこういった、より正規の戦闘に近い、日頃からの訓練はしていないとの説明を、以前、代官だったアントニーから聞いた。
――自警団は本当にどうしようもないな。集団戦のきちんとした訓練はせず、ディレク村以外は領主の直接の支配も及ばず、ただ暴力のみを保持している。
ハウエルはわずかに苦々しい表情を浮かべた。
戦闘の訓練をしていないから、暴徒と化した際に容易に制圧できるか、といえば、そうでもない。練度が低くても無差別な破壊はできる。それを鎮圧するのには訓練が必要だが。非対称性と呼んでもよい。腹が立つほどに不条理な非対称性である。
今後、自警団をどうにかすることも必要だな、と彼は思った。
「主様、どうしたんです、苦い顔をして。訓練は順調のようにみえましたよ」
「そうだね。訓練は順調だ。だけどこの領内の軍制を考えると、問題は山積みだなあって」
「ああ……」
落ちこぼれとはいえ兵法家でもあるローザは、察したようにうなずいた。
「自警団が、厄介ですね」
「そう。まだ自警団以外の戦力を掌握しただけにすぎない。その掌握だって、きっとまだ完全じゃない。馴染むには時間が必要だろうね」
「機動半旗が馴染むには時間をかけるだけでいいですけど、自警団はそういうわけにもいきませんよね」
「全くだ。さて、王都へ行くための最後の準備をするか。明日の朝には出立だな」
彼は日差しと雲を見る。
「きっと道中は晴れるな。よし」
「主様と二人旅なんてワクワクしますね!」
ローザがやたら明るかった。




