◆04
◆04
事前に「爆竹の山賊団」には使いを送った。ひとまず宴には応じる、と団長アルフレッドは返事をした。
そして当日。
「お会いできて光栄です、アルフレッド殿」
ハウエルは深々と一礼。
「いやあ、領主殿がわざわざお出ましとは」
アルフレッドも一礼。
大広間には団員全員が集まっている。
そこには、友好の証として荒天領が差し入れた酒――といっても安酒だが――のタルが大量に置かれている。あわせて、同じく差し入れられた馳走も並んでいる。
「どうしたものかと、正直困惑している」
「私たちは、『爆竹の山賊団』ほか豪族の皆様との友好を願っていますゆえ」
ハウエルはなんでもないように言葉を紡ぐ。
「なるほど、友好路線というわけか」
それだけでアルフレッドは、悟ったようにうなずく。
「まずは一発、酒宴といきましょう」
「そうだな。酒で口を滑らかにしよう。おい皆、乾杯の号令だ!」
言うと、団員たちは杯を掲げた。
「よし、乾杯!」
「乾杯!」
酒宴は始まった。
しばらくすると、大広間の人間は、一人残らず眠りに落ちた。
伯爵側を除いて。
「うまくいったな。よし、全員を拘束しろ!」
ハウエルが指示すると、供回りと官吏たちが、あらかじめ部屋の隅に用意していた袋から拘束道具を持ち出し、一人一人を縛っていった。
何が起きたのか。
彼はあらかじめ酒と食事を準備し、酒にはトンプソン謹製の眠り薬を混ぜた。もちろん自分たちが飲む分の酒、そもそもわずかではあるが、それには薬は入れず、代わりに目印を付けた。
そして酒宴の開催にあたって、「団員全員を参加させるように」事前にお願いをした。
果たして、山賊団の全員に眠り薬が効き、彼らは眠りに落ちたというわけだ。
全員の拘束が終わったところで、ハウエルは足元の団長を示す。
「彼に起きるまで水をかけろ、交渉の時間だ」
トンプソンが汲んできた水を乱暴にかけた。
眠り薬が効いていたようで、数回でようやくアルフレッドは目が覚めたようだ。
「ぶはっ!」
起きると、ハウエルに詰め寄ろうとするが、手足は拘束されている。
「くそっ、どういうつもりだハウエル!」
「私は貴殿らに降伏を促したい」
ハウエルは静かに交渉を進める。
「ぬぬ……」
アルフレッドが言葉にならないうなりを上げる。
「貴殿らが賞金首の指名を受けていることは、すでにお分かりだろう」
「年貢の納め時というわけか。地獄で待っているぞハウエル」
「待ってほしい。私はあなたがたを殺すつもりも、王都の治安部門に引き渡すつもりもない」
彼はかぶりを振る。
「地獄で待つ必要はない」
「どういうことだ」
「私が山狩りではなく計略を使った理由、分かるかな」
「……戦力が足りないからではないか」
自警団は、全員駆り出したとしても二百。この山賊団の人数は二百余り。
敵が守勢であることを考えると、伯爵側が不利である。
「外れているが合っている。……ところで貴殿らは今まで、堂々と道を歩ける身分ではなかった。正体がばれるとたちまちに捕まり、刑を受ける立場にあった。違うかな」
「その通りだ。元から堂々と往来を行けない、ヤンチャな連中もいたが、どちらにしても今は皆そうだ」
「しかも貴殿らはいわば自営の生業。もし通行人が金品を持っていなければ、収入は減り、生活は動揺する。だからこそ、私が用意した酒宴の機会にも喜んだ」
「……その通りだ」
「だからこそ降伏を促したい。私たちの領地、そうだな、ディレク村で農業をしつつ、私たちの戦力として、有事の際は私の直接の指揮下に入り、私たちとともに戦ってもらいたい」
「虫のいい話だな。だまし討ちはしないか」
「するのだったら今ここで全員の首をはねている。……貴殿らが蓄えている金品も、一部は安堵を約束しよう。残りは世のため人のため、私たちが預かって還元させてもらう。貴殿らも今まで懐は不安定だっただろうからな」
彼は優しい声音で続ける。
「貴殿らは、戦力としての義務と農業の労役の代わりに、賞金首として討たれるのを免れ、領主直属の家来の身分を得る。もちろん堂々と太陽の下を歩ける。これまでの罪は赦免しよう。狼藉は許さず、法には厳格に従ってもらうが、それは誰も彼も同じ。いい話だとは思わないかな」
「戦力……自警団はどうする」
「維持する。しかし事情により、彼らは動かしにくいんだ。率直にいうと、領主の決定一つで動ける直属の戦力が欲しい。それに貴殿らがなってもらいたいと、そういうことなのだよ」
彼は追い討ちをかける。
「賊となる者は、元から悪い人間ではない。事件の末に警察当局から逃げてきた結果だったり、貧困と搾取から免れるためだったり、家の没落、国の衰退だったり……私はかつて前線の砦にいたけど、群盗と戦ったことはあるから、それを分かっているつもりだ。すべて赦免さえされれば、皆、もっと当局におびえない暮らしができるのではないかな」
この点、過激な思想集団などは、裕福なエリート層がなるものという説があるが、この世界はまだその段階にはないし、思想集団と群盗は別のものである。
ともあれ、アルフレッドは静かにうなずく。
「……そうだな。俺たちは人目を避けてしか生きられない。賊としての暮らしも不安定だ。蓄財はあるが、それは実入りがないときのためのもので、俺ですら簡単には手は付けられない。……分かった。これまでの話をちゃんと守ってくれるなら、降伏しよう。あわせて部下への説明は俺がする」
「決断に感謝する。部下たちが起きるのを待つよ」
ハウエルは満足して笑った。
やがて、部下たちが眠りから覚めたあと、元団長たるアルフレッドの口から説明がなされた。
「俺もこういう形で降伏するのには多少のためらいもあった。お前らのことも考えて、これでいいのかという迷いがあった。しかし結局は、こうするのが最良の選択だったと信じている。勝手に決断してすまない。異議のある者は出ていってもいい。そうですな、ハウエル伯爵」
「ああ、そうだよ」
しかし出ていく者は見当たらなかった。皆、この運命を受け入れるようだ。
「親分がそう決断したなら……」
「俺としても、正直、真人間に戻りたかった」
「おいらもまともな、領主様直属の家来になれるなら」
かくして、「爆竹の山賊団」は旗下に入った。
その後、アルフレッドはハウエルの頼みで、交友のあったいくつかの別の山賊団の下に赴き、懇々と説得をした。
「こういう条件で、領主様は戦力として採用したいそうだ」
「むう……アルフレッド、おまえのところはこれを呑んだのか」
「ああ。足を洗ってまともな人間になれるいい機会だからな」
「それは、賊がまともな人間ではないと?」
「実際そうだろう。人を襲わないと生計が立てられないし、なにより人目のある所をほっつき歩いていては、通報されて捕まる」
他の山賊団の団長は、むむ、とうなる。
「そうか。領主は戦力を集めているんだな」
「蓄財があれば、一部は安堵して残りは召し上げるとも言っていたな」
「まあ仕方がないか……断れば、アルフレッドのところ、『爆竹の山賊団』と戦うことになるからな。分かった、うちも領主様に帰順しよう」
こうして仲間は続々と増えていく。
落ち着いてきたころ、ローザが報告する。
「近隣の群盗、六つほどが今までに帰順の意を示しました。この辺りにはもはや賊の脅威は無いといえますね。また、噂を聞いて、各地から猛者たちが仕官に来ていますよ。最終的に自警団を除いた兵数は八百ほどとなる見通しです!」
「懸賞金の獲得のため、トンプソンが交渉をしに王都に向かっているはずだね」
「そうです。捕縛したわけでも討ち取ったわけでもないので、懸賞金がもらえるか心配ですけども……」
「懸賞金の趣旨は、その地方の危険を取り除くのに資すること。とすれば、今回のようなやり方でも危険を取り除いたのは確かだから、受け取れないとおかしい、という理屈をトンプソンには教えたけど……当局が聞いてくれない恐れもなくはない……」
そこへトンプソンが帰ってきた。
「ただいま戻りました。交渉は成功しましたぞ。懸賞金を運んでおります」
「おお!」
「主様の仰せのとおりにしましたところ、渋々ではありますが給付決定にこぎつけました」
「それはよかった。金庫がうるおうな!」
薄氷を踏むような計略は、最終的には功を奏したようだった。




