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◆15

◆15


 ある日、ハウエルが城で執務をしていると。

「失礼いたします」

「なんだい?」

「伯爵様にお会いしたいという者が参っております」

「……私に?」

 様々な可能性を考える。

 暗殺者がこんな過疎地に来るわけがないし、世間的にはただの地方領主のハウエルを討ちにくるとは思えない。

 鍛冶屋や製鉄技師、採掘技術者はそれぞれの頭に日常の管理権をゆだねているため、わざわざ領主に会う必要はない。

「どういう人かな?」

「このハンカチーフを見せればお分かりになると申しておりました」

「どれ」

 ハンカチーフを見るハウエル。

 次の瞬間、彼は珍しく驚いた。

「こ、これ、月花王国の王太子の証じゃないか!」

 次期国王であることを示す、青い花の紋があしらわれていた。

「えっ……!」

 取次の番兵は知らなかったようだ。無理もない。こんな紋章は貴族でないと分からない。

「とりあえず私が直接迎えに行くよ。ローザとアントニー、トンプソンあたりを呼んできてほしい」

「しょ、承知しました!」

 彼らはバタバタとそれぞれの場所へ向かった。


 しかし王太子は、ひとまず迎えに来たハウエルを制する。

「そんな大げさな歓迎は要らない。ハウエル、用があるのはきみにだ」

「は、しかし私が一体何をしたのか……」

「いや、悪いことは特に何もしていない。ひとまず落ち着いて話のできる場所に行こう」

「かしこまりました。狭苦しいですが客室へどうぞ」

 案内するハウエルは、とりあえず懲罰ではないことに胸をなでおろしつつも、緊張のまま客室へ向かった。


 茶を飲んで落ち着きながら、優雅に王太子は話す。

 二十五歳と聞いている。年相応の振る舞いだった。

「ハウエル伯爵、きみについてちょっと調べさせてもらった」

「は、私に何か落ち度が……?」

「落ち着こうか。そういう話ではない」

 王太子は「まあまあ」と両手をひらひらさせる。

「きみの活躍ぶり、僕もよく聞いている。勇者カーティスの奴に砦を放逐されたのは残念だった。僕も止めようとしたが、この国では王太子にはそれほど発言力がなく、止められなかったのだ」

「それは、過分のご配慮痛み入ります」

「いや、結局は止められなかったからな。……むしろ止めないほうが、結果的には良かったのかもしれない」

「それは……?」

「きみの地方領主としての話も充分に聞いている。よくやっているじゃないか。この過疎地を繁盛させるために。色々聞いている」

「……どのあたりまででしょう」

「凶賊団を軍に取り込んだり、技術者を招いたり、その過程でスジ者や高利貸しやらにちょっとお仕置きしたり。さすがは滝の砦で兵站管理をやっていただけはある。きみは間違いなく、有望な部類だ」

「……なぜそこまでご存知で?」

 やたら知っている王太子に、首をかしげる伯爵。

「いや、実は、滝の砦にわずか……当時は十五歳だったかな、で赴任したころから、きみの噂などを集めていてな。かなり若年で赴任したものだから、僕も注目していたんだ」

「これは身に余る光栄でございます」

 ハウエルは少しにこやかに返すが、内心は大喜びだった。

 が、砦を追放されてから、ここ一帯で自分の行った計略も伝え聞いているのだとすると、それはそれで警戒されそうではある。そこが多少の気がかりではある。

 しかし王太子は言った。

「まあそう固くなるな。今日来たのは、きみと仲良くなるためと、ついでに何かあったら相談してほしいということを話しに来たのさ」

 言葉通りなら、王太子の後ろ盾。

 ハウエルは内心で飛び跳ねた。

「まあ、さっきも言ったけど、この国は王太子の実権はあまりない。あくまで国王陛下、父と重臣の力で回っている。できることにはだいぶ限度があるけど、協力は惜しまない」

「お心遣い、本当に痛み入ります」

 先ほどからひたすら感謝しているハウエル。

 邪険にする理由も無い。

 しかし。

「私も殿下が何かされる際は、微力ながらご協力いたしたくございます」

 交換条件であることは自明。

 今すぐ何かするのではないようだが、持ちつ持たれつなのだろう。一方的に特別扱いをしてもらうのは、義に反するし、なによりハウエルがそれを是としなかった。

「ふふ、ありがとう。だけど具体的な見返りを期待して、いま話しているわけではないから、その辺は分かってほしい」

「承知いたしました」

「あとは、そうだな。雑談でもしようか。王都の現状とか。きみは先日の滞在では、限られた必要最低限の場所しか行っていないだろう。きみの性格だからな」

「はっ、お見込みの通りです」

「僕は庶民派だから、王都は色々知っている。何から話そうか」

 王太子は茶に口をつけた。


 話しているうちに、時間がやってきた。

「町の食堂のようなもので、僕はお忍びでよく行っているんだけども、そこのアルタン風焼き飯が最高だ。あれは王宮の料理にもひけをとらない」

「そんなに美味しい店があったのですか。今度ぜひ行ってみたいですね」

「うん。いざとなればこちらから王都に招待できるから、そのついでという名目で行ったらいいと思う」

「それは……さすがにおそれ多く」

「あ、ところでもう日が傾き始めている。すまない、僕はもう行かないと」

「おお、これは失礼しました。お宿のほうはよろしいのですか?」

「隣の地方に宿をとっている。そこまで行ってから一泊するつもりだ」

「隣の地方!」

 ハウエルは驚いた。

「わざわざそこまで……狭いですが、うちに泊まっていってくださっても構いませんけれども」

「心遣いはありがたい。けど、もう宿はとっているから、行かないとむしろ不誠実になってしまう」

「そうですか。せっかくの機会に残念です」

「こちらこそすまない。きみとは今後もよく話したいものだ。……そうだ、何かあれば手紙を届けてほしい。えーとどこだったか」

 王太子は手持ちの袋を漁った。

「あった。この封筒なら、誰にも開けられずに僕に直送される。なんでもいいから書いてくれるといい。こちらからも暇なときには手紙を送る」

「もったいない仕儀にございます」

「ああ、手紙のあいさつは堅苦しくなくてもいい。どうせ僕しか読まない」

「度量の広いお方ですね。お話できて今日は光栄でした」

 言うと、王太子は席を立った。

「ああ、本当にいま行かないと夜になってしまう。すまない。もっと話をしたかったところだけども」

「お気遣いなく。なんなら護衛をお付けしましょうか」

「いや、いい。護衛はすでにいる。きみのところの戦士も借りると、近衛兵長の面目が立たない」

「その通りでした。失礼しました」

「本当にありがとう。本気で、いつでも手紙をくれてもいいからな」

 城の出口で「ではこれで」と去っていく王太子に、ハウエルはひたすら頭を下げていた。


 その光景をたまたま見ていたローザが寄ってきた。

 そして言い放った。

「権力にこびる主様はみっともないですねぇー」

 諫言……?

 それとも単純にからかっているだけか。

 いずれにしろ、ハウエルの答えは明白だった。

「ローザ、相手は王太子殿下だ、失礼があってはいけないし、気分を害してもいけない」

「そりゃあそうですけど、でもねえ」

「相手が友好的でも、礼儀は守らなければならない。まして相手は友好的なだけであって、昔からの親友というわけではまったくないからね」

「その点、私はハウエル様の一番の親友ですからいいですよね、主従でもありますけど」

「何を言っているのかな」

「私は主様の親友でもありますから、主様の喜ぶことをします。おっぱいプルプルー」

 彼女はふざけきった態度で、大きな乳を手で揺らす。

「はいプルプルー、主様の大好きなおっぱいですよ」

「頭大丈夫かな」

「いまなら顔から突っ込んできてもいいですよ?」

「しないよ。私を何だと思っているんだ……」

 彼は呆れ返って、自分の額を押さえた。


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