7-3
土曜日なので、二本目投稿です。
今日は晩御飯に筑前煮を作ります。
目が覚めたとき、最初に意識に飛び込んできたのは、静寂という名の暴力だった。
つい先ほどまで耳を聾するほどに響いていた悲鳴、狂乱、そして大気を震わせるドラの音。それらすべてが、まるで分厚い水壁に遮られたかのように遠ざかり、代わりに、耳の奥で自分の鼓動だけが早鐘を打っている。
「……ひ、よちゃん。ヒヨちゃん、しっかりして!」
鼓膜を揺らすその声に、日和の意識は泥沼の底から急浮上した。
まぶたを開けると、視界を埋め尽くしたのは、真紅のドレスと、どこか場違いに明るい「鬼」の面だった。
「……鬼塚、さん?」
「よかったぁ、起きたね。ボク、もう生きた心地がしなかったよ」
日和は、自分がふかふかの絨毯の上に倒れていたことに気づき、ゆっくりと身を起こした。
そこは、先ほどの熱狂的なパーティー会場ではなかった。
豪奢なシャンデリアもなく、何百人という参加者の影もない。ただ、抑制された暖色系の照明が灯る、広々としたホテルの客室。窓の外を見やれば、そこには東京の夜景など存在せず、ただ濃度を増した「虚無」のような闇が、べったりとガラスに張り付いていた。
「ここ、どこですか……?」
「さあね。ホテルの客室なのは間違いないだろうけど、廊下に出ても誰もいないんだ。ヨウちゃんも佐藤さんも、影に飲まれる寸前にはぐれちゃったみたいでさ」
鬼塚の声には、いつもの快活さの中に、隠しきれない焦燥が混じっていた。
日和は自分の胸元に手をやる。陽子に貰ったお守りは、まだそこにある。けれど、その感触はいつもより熱く、まるで何かの警告を発しているかのように微かに震えていた。
「――さて。泣き言を言ってても始まらないね。ヒヨちゃん、悪いけどボク、ちょっと『準備』させてもらうよ」
鬼塚はそう言うと、まず足元の「殺人的な」ハイヒールを無造作に脱ぎ捨てた。
ストッキングも迷いなく引きちぎり、素足になると、その場でおもむろに深い伸脚を始める。真紅のドレスは派手に捲れ上がっているが、今の彼女にそれを気にする余裕はない。
「今回ばかりは、洒落にならない。ヨウちゃんの言った通りだったね。ボクたち、とんだ魔窟に招待されちゃったみたいだ」
鬼塚は柔軟体操を続けながら、苦々しく吐き捨てた。その引き締まった長身が、部屋の照明を受けて長く不気味な影を床に落とす。
「呪物は……何か持ってきてないんですか?」
「あはは、残念ながらね。ボクは今日、あくまで『一人の淑女』として参加するつもりだったんだ。こんな事態を予期して武器を持ち込むなんて、ボクの美学に反するし……何より、セキュリティに引っかかったらヨウちゃんに怒られると思ってさ」
鬼塚が身に纏っているのは、首に巻かれた重厚な数珠のみ。
それは古びた木の実を繋ぎ合わせたような、どこか野性的な佇まいの品だった。
「これには厄除けの効果がある。これを通せば、ボクの拳でも霊的な連中に多少の物理干渉ができるけど……。でも、相手がさっきの『影の化け物』クラスだと、流石に心許ないね」
鬼塚の言葉は重かった。彼女のような手練れが、武器なしで挑むにはあまりにも敵が異常すぎる。
日和は、ミッドナイトブルーのドレスの隠しポケットから、手のひらサイズの小さな樹脂製ケースを取り出した。
「……これ、使ってください。……鬼塚さんの身を守るために」
震える手で差し出されたのは、数枚の白い紙片。それは、小林日和という、底知れない呪詛の源泉を持つ少女が、陽子の過酷な指導のもとで練り上げた『形代』だった。
「え、これ……形代? ヨウちゃんが作ったの?」
鬼塚は目を丸くし、鬼の面越しにその紙片を凝視した。本来、呪詛の才能が一切ない陽子には、どれだけ知識があろうと逆立ちしても作れない代物だ。呪詛の才とは、それほどまでに希少で、歪んだ天賦の結晶なのである。
「いえ、私が作りました。陽子さんに、いざという時のために量産しておけって言われて……。ケースの中に、血を出すようの待ち針も入っています。これで指先を突いて、形代に血を塗れば、持ち主の身代わりになってくれるんです」
日和はケースを開き、中に収められた小さな針を見せた。
形代――それは、所有者が受けるはずの致命傷を、文字通りその身に肩代わりして散る、究極の護符だ。
「ヒヨちゃん、君……自作でこれだけの精度を出せるなんてね」
鬼塚は、恭しくそのうちの二枚を指先で受け取った。
彼女は知っている。陽子から密かに聞かされた、日和の異常なまでの呪いの才能。そして、陽子からの極秘の依頼で調査している、この少女の出生と、謎めいた血縁の謎。目の前の少女が、どれほど残酷で、かつ巨大な「力」のうねりの中にいるのかを。
「形代なんて、裏の市場で買おうと思えば最低でも一枚十万円は下らないよ。下手な低級の呪物よりずっと価値がある。……それをボクに二枚もなんて、流石に太っ腹すぎない?」
鬼塚は、まるで極上の宝石でも扱うかのように、その薄い紙片を指先で慎重に摘み上げた。
鬼の面越しでもわかるほど、彼女の視線は鋭く、そしてどこか戦慄している。
本来、呪具の制作には厳格な儀式と、長い時間をかけた精進が必要とされる。特に『形代』ともなれば、清浄な祭壇を用意し、数日間の潔斎を経て、ようやく一文字の呪いを刻むような代物だ。
しかし、鬼塚の目の前にあるそれは、あまりにも歪で、あまりにも簡素だった。
ただの文房具屋で売っていそうな和紙をヒト型に切り抜き、そこにあるのはただ、日和の「指先」から出された血の痕跡。儀式も、祈祷も、長い呪文の詠唱すらない。ただ、日和という異質の才能が、その身に余る呪詛を暴力的なまでの密度で「ごり押し」して紙に定着させた、理外の産物。
「……ヒヨちゃん、君。これを作るのに、どれくらい時間がかかった?」
「えっと……針を自分の指に刺すのが怖くて、つい躊躇しちゃったんですけど……」
日和は申し訳なさそうに、自分の指先を弄びながら答えた。
「結局、一枚につき十分もかかってないと思います。七分弱くらい、でしょうか」
「……」
鬼塚は、思考が一時停止するのを感じた。
専門の職人が心身を削り、一晩かけて一作を仕上げるような高等呪具を、この少女は「針が怖くてモタついた」時間を含めてなお、カップラーメンができるより少し長い程度の時間で完成させている。
それはもはや「器用」などという言葉で片付けていいレベルではない。この世の理そのものを、己の呪詛という筆で無理やり書き換えているのに等しい。
「……あはは、七分、ね。冗談でも笑えないよ、それ」
鬼塚は乾いた笑い声を漏らし、改めて日和の小さな手を見た。
この無自覚な怪物は、自分が差し出したものが、どれほどの術者が喉から手が出るほど欲しがる「奇跡」であるかに、まだ気づいていない。
「今の私は、陽子さんが隣にいないから、自分一人で戦える自信もありません。でも……これがあれば、鬼塚さんも少しは安全になります」
日和の言葉に、鬼塚はふっと面を揺らした。日和には秘密にしているが、彼女が背負っているものの重さを知る鬼塚にとって、その純粋な気遣いは、どんな強力な呪具よりも眩しく感じられた。
「……わかったよ。ヒヨちゃんの真心、確かに預かった。ヨウちゃんが君をこうして連れ歩く理由、今、心底理解できた気がするよ」
鬼塚は素足のまま、絨毯を力強く踏みしめた。
彼女はケースの中の針で自らの親指を小さく突き、滲んだ血を二枚の形代へと滑らせる。吸い込まれるように血が馴染み、白い紙が微かな熱を帯びた。
「よし! これでボクも一回や二回死ぬくらいなら大丈夫ってわけだ。ヒヨちゃん、君はボクが守る。ヨウちゃんと合流するまで、絶対にその手を離さないからね!」
鬼塚は、右手に愛用の数珠を固く巻きつけた。厄除けの力を宿したその木の実が、主人の闘志に呼応するように小さく鳴った。
「……はい、お願いします!」
日和は残りの三枚と、自分用の血を塗った一枚を握りしめ、頷いた。
窓の向こう、影の支配するホテルの中。
そこには、自分たちの影を噛み千切ろうと、放たれた影の狼が、静かに、確実に近づいてきているはずだった。
◎
客室の扉は、まるでこの世界の均衡を保つ最後の一枚の皮膚であるかのように、沈黙してそこにあった。
日和は喉を鳴らすことすらためらいながら、扉に耳を寄せる。外には、ただ空虚な静寂が横たわっているだけだった。あの凄惨な悲鳴も、肉が爆ぜる音も、今はどこにもない。それがかえって、このホテルが「別の何か」に作り替えられてしまったことを告げていた。
「……いない、みたいです」
「よし。行こうか、ヒヨちゃん。ボクたちの背中にある影を、一瞬たりとも信じちゃいけないよ」
鬼塚は、かつて数多の修羅場を潜り抜けてきた探索者の顔で頷いた。
二人は意を決して、無機質な廊下へと踏み出した。
絨毯を踏みしめる音さえ、異様に大きく響く。
二人は、陽子や佐藤との合流を最優先に考えた。陽子なら、混乱の中でも必ず「起点」となる場所へ戻るはずだ。ならば、目指すべきはあの狂乱の舞台――二階のオークション会場である。
廊下に一歩踏み出すと、そこには驚くほど「平穏」な景色が広がっていた。
等間隔に配置されたダウンライトは穏やかな暖色を保ち、壁に掛けられた抽象画も、先ほどまでと変わらぬモダンな色彩でそこにある。絨毯はふかふかと柔らかく、空調の風は心地よい温度で肌を撫でる。
すべては「五つ星ホテル」としての完璧な機能を維持したまま、そこにあった。
だが、それがかえって異常だった。
廊下の隅々にまで行き届いた静寂は、まるですべての音が真空に吸い込まれたかのように徹底しており、日和の耳には、自分の服が擦れる音さえも暴力的な騒音のように響く。
「……ヒヨちゃん、壁や床には気を付けてね」
鬼塚が、素足で一歩ずつ絨毯の感触を確かめながら囁いた。彼女は周囲を警戒しているが、その視線は壁や天井ではなく、自分たちの足元――常に寄り添う『影』の輪郭にのみ注がれている。
物理法則は何一つ乱れていない。照明の角度に合わせて、二人の影は正しく床に落ちている。けれど、その影の黒さが、まるで底なしの沼のように深く、重い質感を持って見えるのは気のせいだろうか。
エレベーターホールに辿り着いたとき、壁に表示された『14』の数字が、二人の現在地を無情に指し示していた。
日和がエレベーターのボタンを押し込むと、意外にも低い駆動音と共に、籠が上昇してくる気配がした。
「電気も水道も生きてるみたいだね。不気味なくらい、設備だけは『五つ星』のままだ」
鬼塚がスマホを確認するが、画面の角には『圏外』の二文字が冷たく居座っている。陽子への連絡手段は絶たれていた。
やがて、到着を告げる電子音が静かに鳴り、エレベーターの扉が左右に開いた。
「……っ!」
日和は反射的に口を押さえ、膝をつきそうになった。
開かれた鉄の箱の中には、かつては着飾った男女であっただろう「肉塊」が、無残に折り重なっていた。壁には鮮血の紋様が飛び散り、内側から誰かが必死にかき毟ったような爪痕が刻まれている。
初めて見る「剥き出しの死」。日和の胃の腑が、拒絶反応で激しくせり上がった。
「止めておこう、ヒヨちゃん」
鬼塚が日和の肩を強く抱き寄せ、扉から引き剥がす。
「相手は影だ。扉の隙間だろうが通気口だろうが、影がある場所ならどこへでも潜り込んでこれる。密閉されたエレベーターは、彼らにとってはただの『棺桶』と同じみたいだ。非常階段を使おう」
二人は、震える足で非常口の重い鉄扉を押し開けた。
二階までは十二フロア分。気の遠くなるような高低差が、薄暗いコンクリートの螺旋となって足元へ伸びている。
階段を数階分駆け下りたときだった。
下層から、狂ったような足音と、切迫した吐息が聞こえてきた。
「助けて、くれ! 誰か、誰かいないのか!」
現れたのは、タキシードを血で汚した中年の男だった。彼は階段を這い上がるようにして二人の姿を認めると、縋り付くように手を伸ばした。
だが、その手が日和に届くことはなかった。
壁に落ちた男の影。
その背後から、二つの鋭い「光」が灯った。
漆黒の影の中から、狼の頭部がせり出し、男の右腕の影をガブリと噛み千切った。
「ぎ、あああああああッ!!」
男の現実の腕が、何もない空中で爆ぜるように千切れ飛んだ。
断面から溢れ出す鮮血が、階段の壁を赤く染める。男は絶叫を上げながら転げ落ちていくが、日和にはそれ以上、彼の姿を追う余裕はなかった。
壁に、あの『狼』が張り付いていた。
それは三次元の肉体を持たず、ただ壁面に描かれた不吉なグラフィティのように存在している。しかし、その殺意だけは、どんな凶器よりも鋭く研ぎ澄まされていた。
「逃げるよ、ヒヨちゃん! 広い場所へ!」
鬼塚は日和の手を掴むと、踊り場の扉を体当たりで開き、再びホテルのフロアへと飛び込んだ。
背後で、壁を、床を、天井を、重力を無視して滑る影の音が聞こえる。
カサカサという、不快な爪音。
「足が速い……! 追いつかれる!」
直線距離で逃げ切るのは不可能だった。日和は、廊下の突き当たりにある、少し開けたラウンジスペースで足を止めた。
「鬼塚さん、戦いましょう。逃げ切れません!」
「……わかった。ヒヨちゃん、ボクが前衛を勤める。後ろは任せたよ!」
鬼塚が右手に重厚な数珠を巻きつけ、低く構える。その瞬間、彼女の纏う空気が「探索者」から「戦士」へと一変した。
壁を滑る漆黒の狼が、重力を無視して床へと躍り出る。狙いは鬼塚の足元に伸びる影の喉元。
「させるかぁっ!」
鬼塚の拳が、空気を爆ぜさせながら床へと叩きつけられた。数珠に込められた厄除けの力が、不可視の衝撃波となって床一面を震わせる。
狼は水面に浮かぶ油のように滑らかにその直撃を回避したが、鬼塚の追撃は止まらない。彼女は素足で絨毯を掴むと、踊るようなフットワークで自らの影を激しく動かし、狼の牙をミリ単位でかわし続けた。
「はぁッ、らあああッ!!」
三次元の肉体が、二次元の死神を圧倒せんとする異常な光景。鬼塚は影の狼が自身の影に触れる寸前、自身の肉体を捻ることで影の形状を瞬時に変え、カウンターの拳を次々と叩き込んでいく。
だが、相手は実体のない影だ。数珠の力が掠めるたびに黒い煤を散らすものの、決定打には至らない。
狼が嘲笑うように影を膨張させた。次の瞬間、鬼塚の攻撃を回避し、カウンターで鬼塚の影の腕を切り裂いた。
「ぐっ……!」
鬼塚の右腕から、肉が裂ける鈍い音がして鮮血が吹き出した。影を傷つけられた痛みが、神経を逆撫でするような鋭さで実体にフィードバックされる。
それでも鬼塚は止まらない。血を撒き散らしながらも、彼女はさらに加速した。
「ボクを……誰だと思ってるんだい! この程度じゃ負けないよ!!」
連撃。鬼塚は巨躯を唸らせ、裂けたドレスを翻して猛攻を仕掛ける。影の狼が床から壁へと逃れれば、彼女は不壊の壁を素手で殴りつけ、その震動で影の輪郭を乱した。
しかし、戦いが長引くほどに、影の特性を知り尽くした狼の狡猾さが鬼塚を追い詰めていく。
狼はわざと鬼塚に打撃を振らせ、その瞬間に伸びる「影の隙」を冷酷に切り裂いた。
肩、脇腹、太腿。
真白な肌が次々と赤く染まり、鬼塚の呼吸が荒くなる。失血と、霊的な干渉による疲弊。ついに、積み重なったダメージが彼女の強靭な膝を屈服させた。
「……あ、はは。流石に、キツいねぇ……」
鬼塚が絨毯に手をつき、荒い息を吐く。
絶好の好機。狼は勝利を確信したかのように、その影を何倍にも巨大化させた。床から立ち上がるように膨れ上がった漆黒の顎が、鬼塚の「影の頭部」を丸呑みにせんと、音もなく跳躍する。
「――させないよ」
その瞬間、日和の指先が、絶望の軌道上に割り込んだ。
日和は自分の中にある、あの嫌悪すべき、けれど今は頼もしい「澱み」を、指先に全神経を集中させて練り上げた。
陽子との特訓で培った、呪詛の成型。それは今、陽光さえも吸い込むような赤紫色の弾丸となって、少女の二本の指の先に凝縮されている。
「……落ちて!」
日和が「指鉄砲」の形から放ったのは、純粋な、剥き出しの呪いだった。
放たれた呪詛の弾丸は、空間を歪めながら狼の「腹」にあたる部分を正面から貫いた。
ギャァァァッ!
影だけの存在であるはずの狼が、この世のものとは思えない断末魔を上げ、床に大きな穴を穿たれたように弾け飛んだ。
霧散していく黒い煤。
静寂が、再びフロアを支配した。
「鬼塚さん! 鬼塚さん!」
日和は膝をつく鬼塚に駆け寄った。
彼女のドレスの胸元からは、先ほど渡した二枚の『形代』が滑り落ちた。
白かった紙片は、まるでシュレッダーにかけられたようにビリビリに引き裂かれ、役目を終えたように灰色に変色している。
致命的な一撃は、すべてこの紙切れが肩代わりしてくれたのだ。
首筋や大動脈――そこにあったはずの「死」を、日和の作った分身たちが吸い取ってくれた。
「……はは、すごいね、ヒヨちゃん。本当に助かっちゃったよ。君がいなきゃ、今頃ボクの頭はあいつの胃袋の中だった」
鬼塚は力なく笑いながら、震える手で日和の頭を撫でた。
「ごめんなさい、私がもっと早く……。守れなかった……」
日和の瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。確実に当てられる隙を伺っていたのは自分だ。自分の未熟さのせいで、大好きな鬼塚にこんな深い傷を負わせてしまった。
「何を言ってるんだい。ボクは生きてる。君のおかげでね」
日和は唇を噛み締めると、火事場の馬鹿力で、自分よりも遥かに大きな鬼塚の身体を抱え上げた。
このままここにいれば、別の狼が来る。
日和は泣きべそをかきながらも、必死に鬼塚を引きずり、近くの扉をこじ開けて中へと逃げ込んだ。
影の支配する夜は、まだ始まったばかりだった。
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