第7話 トイレの花子さん
「……次の話はね。
私のお気に入りの一つなの。」
少女は声を低くしてそう呟き、語り始めた。
「小学校の女子トイレでね。
放課後、3番目の個室を3回ノックして。」
少女は実際にノックするような仕草を見せる。
「花子さん。遊びましょう?
って言うと、誰もいないはずのトイレからはい。って声が聞こえるんだって。」
誰もいない個室から返事が返る。
次の瞬間、その扉が勢いよく開き、呼んだ人間を中へと引きずり込む。
───「トイレの花子さん」
「気をつけてね。花子さんは噂も多い。
怪異は噂が絶えない限り生まれる。半端な気持ちで試しちゃだめだよ。」
少女は意味深に笑った。
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─トイレの花子さん。謎の怪異?と言う種族発見─
怪異的現象特別協会設立か──
1950年代、小学校のトイレで多数の児童が行方不明となった。
”トイレの花子さん”と言う噂を試した児童が消えており、学校は一時封鎖。警察が調査したが、原因は不明。
霊能力者数名が調査に加わったところ強烈な霊の残穢が確認され、トイレの花子さんと言う怪異?に遭遇。
接触した霊能力者は誰一人として戻らず、その圧倒的な霊力が明らかになった。
これを受け、国は正式に怪異の存在を認め、
怪異専用の調査機関
「怪異的現象特別協会」が設立。
初めての怪異、その強さからトイレの花子さんをS級怪異として登録した。
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放課後、リリーはその記事を景太と紬に見せた。
「いや。やばくない?」
「何が?」
景太の不安をかき消すように、リリーは逆に問い返す。
「だって、S級ってめちゃくちゃ危険なんじゃ。」
「流石に狛犬じゃ無理でしょ……」
紬も眉を寄せる。
「何も今回は除霊するわけじゃない。」
ソファーで新聞を読んでいた化けぎつねが落ち着いた声で言った。
雷獣も「うむ。」と頷く。
「花子とは私親友だから、今回は会いに行くだけ。
案外いい奴だし、君たちも来る?」
リリー首を傾けながら二人を見る。
化けぎつねと雷獣は顔見知りらしく、今回はの同行はパスらしい。
「ほんと?
だって、協会が花子さんが発端で出来たとか……」
景太はパソコンに書かれている記事の内容を指差し、リリーを見る。
「そうだけど。
あの子ただ遊びたかっただけだし?
行方不明の子達も楽しんでたみたいで今は普通にこの世界で生活してる。
霊能力者は、花子に一方的に危害を加えたからやり返しただけ。」
リリーは早口で説明した。
((いや。逆に怪しい!))
二人の心の声が揃う。
「まぁ、私はそんな大物と友達になれるなら会いたいな!」
「よしきた!
花子は小学校のトイレならどこにでもいる。
あと、花子怪異の中だと一番強いから。よろしく。
S級がどんなのか見ときな。」
「「え?」」
――――
夜の学校。
人の気配がないのに、どこかから視線を感じる。冷たい空気が校舎を満たし、不気味さが漂う。
女子トイレの前で景太が気まずそうに言った。
「えっと、俺入っていいの?」
「え?全然いいよ。」
「まぁ、私らしかいないしね。」
景太は妙な罪悪感を覚えつつも、中は足を踏み入れる。
リリーは慣れた手つきで3番目の個室を3回ノックした。
「花子さん。あそぼー?
リリーだよ。」
『リリー!?』
S級とは思えぬ勢いで扉が開き、花子さんがリリーに飛びついた。
現れたのは、前髪を直す黒髪ショートの可愛らしい少女。
おかっぱの噂とは違い、リリーと同じ髪型に整えている。
よほど仲がいいのだろう。
だが、少し前髪が乱れていた。
「元気にしてた?」
『来るなら言ってよ……前髪とか全然出来てないのに。』
「「あれ、なんか可愛い!」」
二人の感想は口に出ていた。
『……あれ!リリーの友達?』
花子さんは手を差し出し、二人と握手する。
『へー!景太くんと紬ちゃん?よろしく!』
「よろしくお願いします……」
「どうも……」
二人には気になるものがあった。
後ろに微かに見える、個室の中は明らかに広く、トイレではありえない空間だった。
照明のついた女子の部屋のようで、ぬいぐるみなどが置かれている。
「えっと、二人はどう言う関係で……?」
「うんうん!聞きたい!」
景太の問いにリリーが語る。
「いやね?
実は、私が霊能力者で初めの依頼で会った怪異が花子で、そこで意気投合しちゃって。」
『お互い最初は殺気だってたのに、、すっかり仲良くなって!
この髪型もリリーに教えてもらったんだ!』
「1ヶ月に一回はこうして会ってるの。」
花子さんはリリーと肩を寄せ合い、頬を擦り寄せた。
そうしてリリーは手土産を差し出す。
『これ!トイレットペーパー?』
「切れたって言ってたからさ、」
『ありがと!』
花子さんは飛び跳ねるほど喜んだ。
((熟年夫婦?いや、新婚か?))
これが怪異の中で一番強くS級怪異。
その時、景太はふと気づいた。
景太に触れていないのにリリーは花子さんが見えている。
「そういえば、リリー見えるんだ。」
景太がそう言うと、リリーは思い出したように口を開く。
「ああ!
まぁS級怪異って霊力とかが半端なく強いし、怪域って言う範囲技、前説明したと思うけど空間を支配する力があるんだ。それもあるかもね。強いし。
何故か見える。」
リリーはそう言って、説明をしてくれた。
「悪いことしてないよね?」
リリーが心配そうに尋ねる。
『してないしてない!
リリーに嘘つかないよ!ありがとね?リリーがいるだけで他の人は要らないし……』
花子さんは頬を赤く染め、もじもじと視線をそらした。
「そっか、じゃあ、また来るよ。
いつでも呼んで!」
『うん!またね!ありがと!』
名残惜しそうに手を振る花子さんを背に、三人はトイレを後にした。
そして、景太と紬は同じことを思った。
(これ、私、いる?)
(これ、俺居たのかな?)
「じゃ!帰ろ〜」
「「あ、はい。」」
その時、廊下の奥からぽつりと灯りが近づいてきた。暗闇に浮かぶ懐中電灯の光、その向こうに大人の影が現れる。
「ちょっと待って、君たちこんな時間にここで何してるの?
それと、そこの君は女子トイレから出てきたよね?
少し話いい?」
突然の声に三人は思わず固まった。
その後学校を出られたのはそれから一時間後の話である。
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7本目、少女は火のついた蝋燭をフッと吹いて消す。
「これで7本目。
まだまだ先は長いね。にしても、あんな可愛い子が
最恐の怪異だなんて驚きだよね。」
そう言って、少女は楽しそうに笑う。
「じゃあ、サクサク行こう。
早くしないと見つかる。まだこんなところで終わる訳にはいかないから。
じゃ、次の話をしよう。」
少女は語り始める。
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怪異名:トイレの花子さん
怪異階級:S級
攻撃力:A
スピード:A
知能:A
防御力:A
噂レベル:A
怪域:リリー以外にはまだ秘密。
種別:全て
リリーメモ:いい子。変に突っかからないこと!
警備員さんには注意!
ほのぼの回ってね。




