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特別少女『地名美南』と青春怪盗高校生『化物幻奇』の死別回避を目指すグッドエンド  作者: ザ・ディル
最終章 『地名美南』と『化物幻奇』の消滅

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弐話 死別回避

「秘密に決まっているじゃない」


 特別少女は凛とした佇まいで、俺様の質問に答えない。

 間違いない——『地名美南』は旧校舎の屋上ではない体育館で『化物幻奇』と手をつなぎ、鐘を鳴らして色欲因子『幻惑空間の独断恋愛(パラサイトハーツ)』を使った。挙句の果てに俺様を傀儡対象にして、操っている。

 あり得ないあり得ないあり得ない。


「旧校舎でない場所で、なぜ『幻惑空間の独断恋愛(パラサイトハーツ)』を使える!?」


 俺様の叫びに、『地名美南』は沈黙を貫く。その間にも『化物幻奇』は引き剥がされていく。

 頭だけでなく、胴体部分まで分離。虚飾因子『七七七拒否(アンラッキーセブン)』を始めとした旧『七怪奇』たちを動かすこともできず、タイムリミット間近だと嫌でも理解させられる。


「諦めろ『化野現』。君は負けたんだ——」


「——黙れ!!」

 

 俺様は『化物幻奇』を支配で黙らせ、『幻惑空間の独断恋愛(パラサイトハーツ)』が発動される可能性を考える。

 一つ、この体育館が旧校舎の屋上である可能性。だがそれはあり得ない。精神や記憶に干渉できるのは『幻惑空間の独断恋愛(パラサイトハーツ)』か俺様だが、『幻惑空間の独断恋愛(パラサイトハーツ)』には制約がある。手をつなぎ相手を旧校舎で告白するという制約だ。旧校舎に移動する術(すべ)は『幻惑空間の独断恋愛(パラサイトハーツ)』にはない。

 二つ、鐘を持ち出し、この体育館で鳴らす。それもあり得ない。あの鐘は取ることができない。旧校舎の屋上で留まるという制約がある。それこそ、『七怪奇』に一番詳しい俺様が知っている。あの鐘は旧校舎から移動できない。

 三つ、色欲因子を取り込んだ可能性。それもあり得ない。色欲因子を『七怪奇』以外が取り込むなら、鐘ごとを喰らい尽くす必要があるだろう。それこそ『学校喰い者(スクールイーター)』しかできない。

 他、他の考えだ。何か取りこぼしてないか。俺様が知らない『七怪奇』——そんな存在なぞあるはずがない。特別な存在が介入してなければあり得ないはずなんだ。何か特別な存在が介入して色欲因子『幻惑空間の独断恋愛(パラサイトハーツ)』を顕現させた。

 ……体育館と旧校舎が繋がっていた。その可能性を肯定するなら、可能な特別は一つしかない。

 その特別は現在『七怪奇』になれていない特別少女『地名美南』の特別。


「『時空接続(タキオンリンク)』か……!!」


「ばれても遅いわ、偽物の幻ちゃん!」


 卒業式後の世界の接続、それを可能にしたのが『時空接続(タキオンリンク)』。だが、この高校生活でさらに成長していたとでもいうのか。『化物幻奇』も知らなかった記憶だ。

 特別少女が、さらに特別になる。俺様を超える進化を遂げるなんて————気持ちがいい!!


「気持ち悪い笑みを浮かべないでくれよ、『化野現』。もう完全に分離されるぜ?」


「それはならん。俺様も『地名美南』のように、進化する!!」


 己の手のひらを心臓に当てる。


「『絶対記憶支配(ドミトリート)』——俺様は『七怪奇』の最強へと至る!」


「ぅ……」


 どくりと跳ねる心臓と、どくりとも跳ねない心臓が近づく。

 俺様は実際に存在しているものも、虚構に存在するものも、すべてを完全に扱うことができる。

 ゆえに、再び『化物幻奇』を手中に収める。

 はがれかけていた『化物幻奇』と結合し、俺様の空間に収める。


「幻ちゃんと完全に離れて!!」


「ならん。『幻惑空間の独断恋愛(パラサイトハーツ)』ごときに最強が敗れるわけがない」


 もはや、離れることは不可能。先ほどの同化とは訳が違う。『七怪奇』の傲慢人間としてではなく、『七怪奇』の最強へたどり着いたのだ。

 『地名美南』の策略は素晴らしい。己の力では足りないからと色欲因子『幻惑空間の独断恋愛(パラサイトハーツ)』の力を借りた。だが、そこまでだ。俺様が最強である限り、他の『七怪奇』に敗れることはない。当然、『地名美南』にも勝てる。これは確定事項だ。


「幻ちゃん待っててね、絶対助ける」


 特別少女は地面に散らばった道具のうち、『大刀・喰喰(たいとう・くいくい)』を拾い上げる。


「面白い。俺様も剣を交えよう」


 相手が剣であればと俺様は傲慢因子『愚行剣・下々(ぐこうけん・げげ)』をその手に持つ。

 それと同時に迅速的速度で『地名美南』に肉薄。

 『大刀・喰喰(たいとう・くいくい)』のギザ歯が襲うこともなく、瞬時にして、『愚行剣・下々(ぐこうけん・げげ)』を振り下ろす。

 強力な奔流が解き放たれた。

 轟音とともに体育館がひび割れ、窓ガラスが飛び散る。『大刀・喰喰(たいとう・くいくい)』を盾にしても超過重な重力が『地名美南』を襲っている。

 瞬間、突風が吹き荒れる。台風のごとき突風が駆け巡る。その正体は当然『地名美南』。圧倒的重力をはねのけ、俺様の喉元を掻き切ろうとしている。

 やはり少女は素晴らしい。だが、俺様には届かない。


「『絶対記憶支配(ドミトリート)』——俺様に抵抗するな、ゆっくりと俺様に歩みを進めろ」


「——っ!」


 『地名美南』はピタリと体育館内を音速で駆け巡ることをストップする。もはや最強になった俺様は対象に右手を向けることは必要ない。

 少女は苦悶の表情を浮かべている。それはまるで、自身の意思と反しているのが見て取れる。


「傲慢な俺様では効かなかった『絶対記憶支配(ドミトリート)』。だが、最強になった俺様の『絶対記憶支配(ドミトリート)』はやはり効くようだな」


 俺様は微笑むが、『地名美南』は唇を噛むようにしながら俺様を睨みつける。

 それでも、支配の力から解放されるわけがない。

 ゆっくりと歩みを進めて、俺様の正面にたどり着く。


「ようやく観念したようだな」


「…………」


 『地名美南』は何も反応を示さない。


「これから俺様に殺され、貴様は『七怪奇』になるのだ。誇るがいい!」


「…………」


 特別少女の沈黙に俺様は首を鳴らしてほくそ笑む。


「どうした? 何もいえないほど嬉しいか?」


「……違うわ。むしろ、私は怒ってるわ。幻ちゃんと一緒にいたいのに、貴方が邪魔をしてるんだから」


「俺様を邪魔もの扱いだと……?」


 こみあがった怒りが増幅していく。


「貴方は邪魔なの。私、幻ちゃんと一緒にこの高校を卒業したい。だから、邪魔しないで!」


 ああ、こいつは最強の俺様に勝てるとでも思っていやがるのか。絶対に、完全に、完膚なきまでに、圧倒的な力でねじ伏せよう。


「『絶対記憶支配(ドミトリート)』——『地名美南』、貴様は絶対に動くな」


 その一言で反抗する言葉を出すことはなくなる。

 『地名美南』は動くことなく、俺様に敵意をもって睨みつけているように見える。だが、絶対に動くことはないため、その睨みはむしろ滑稽に見える。


「さっさと『七怪奇』にしてやろう」


 俺様に畏怖することもないのなら、記憶喪失にすることもない。むしろ、それを『七怪奇』ならその憎悪を活かすほうが、俺様をさらなる最強へと伸し上げる因子となるだろう。

 そう結論付け、俺様は全能を司る右手を向ける。


「『絶対記憶支配(ドミトリート)』——貴様は死ね」


 特別少女の額に右手を当て、『地名美南』を殺した——そのはずだった。


「なっ————」


 特別少女『地名美南』は死ななかった。


「貴方は嫌い——」


 呼吸さえできないように支配したにもかかわらず、その支配を振り切り、少女は語る。


「でも、貴方も幻ちゃんなんだもんね。それなら私は貴方も助けたい」


「何をいってるんだ貴様は!?」


 なぜ最強へと至った俺様の支配が通用しない。

 そしてなんだその戯言は。もう取り戻せるはずのない『化物幻奇』を取り戻せる自信に満ち満ちているその言動はなんだ。

 絶対に取り戻せないはずの存在を取り戻す。

 不可逆を可逆にする自信。

 その自信を魅せ付けるように胸に手を当て、少女は宣言する。


「私は『地名美南』。七怪奇高校に縛られる幻ちゃんを解放する未来を——世界を掴む存在よ! 『地名美南(ピースワールド)』!」


 紫のキラキラが体育館を、七怪奇高校を、世界を埋め尽くす。

 紫が光り輝く。だが、それだけだ。中空に飛ばされたような錯覚を覚えるが、地面があるように中空のうえに立っている。

 特別少女『地名美南』は動くことが可能になったが、ただそれだけの世界。きっとそれだけだ。


「『七怪奇』でもない貴様ができるのはせいぜいこのくらいだよな。それで、これ以上何ができるんだ?」


「何もしないわ。貴方と会話するの」


「貴様、何をいってるんだ?」


 俺様がそういうと、紫だけの世界に変化が訪れる。

 急成長する木。そこから灰褐色の細い枝が生え、つぼみが開き、薄紫の花が咲く。

 俺様を囲うほどの量。

 俺様は、青春が大好きな俺様はこの花言葉に覚えがある。ゆえに、この花の名を知っている。


「この木花は……ライラックか」


 花言葉は白いライラックであれば青春の喜びが該当する。

 が、これは紫。花言葉は色によって変化する。紫のライラックの花言葉。


「花言葉は……初恋か」


「うん、幻ちゃんが好きだーって思ってから、この特別な力が芽生えちゃったんだ。だから、これで幻ちゃんと話ができると——」


「——できるわけがないだろ!!」


 俺様は頭お花畑な眼前の少女に現実を突きつける。


「『化物幻奇』は俺様が記憶を消しても青春できるための媒体——幻想でしかない!」


「幻想なのは『七怪奇』も同じでしょ?」


「何をいってる?」


「特別な青春——『七怪奇』って、大人から見たら幻想でしかないって思うの」

 

 …………。


「大人から見たらどうしてそんな馬鹿な幻想を見てるんだーってきっと思われることもあるんだよねー」


 ……なんだ、その達観した意見は?


「でも、私は馬鹿なんだと思う。幻想に恋をしちゃったんだから」


 なんだその子ども染みた戯言は?


「幻想だとわかっている今でも、どうしてかな。私は幻ちゃんが大好きなんだー」


 なんだそのキラキラした瞳は?


「そして幻ちゃんに告白できた。想いを伝えることができた。だからこそ、私はハッピーエンドを、幸せを掴みたいんだ——」


 大人びたような、子どものままのような、倒錯しているようにも見える紫紺の瞳が俺様を貫く。


「貴方も、幻ちゃんも、『七怪奇』の皆も——全員、幸せになってほしい。この場はそのための空間」


「…………ふざけるな」


 ふつふつと沸き上がる怒り。荒唐無稽すぎる少女の言葉は俺様にどうやらひねりつぶされたいと受け取られても問題ない言葉ばかりだ。


「『絶対記憶支配(ドミトリート)』——貴様は動けなくなる」


「それは貴方のエゴ。ここは話し合いの場なの。お互い、幸せのために話そう」


 支配できない。


「『絶対記憶支配(ドミトリート)』——万物の意向は貴様を殺す」


 旧『七怪奇』、それらが最大の出力をもって『地名美南』に襲い掛かる。

 が、少女の目の前で、効力をなくしたかのように止まる。

 支配できない。


「私は死なない。貴方も死なない。一緒にここで話し合わない」


 手を伸ばし、ほころびた笑みを向ける。

 表情さえ、支配できない。

 近づき、少女の額に右手を当て、最大限のイメージをして放つ。


「『絶対記憶支配(ドミトリート)』——貴様の記憶はなくなる」


「なくならないわ。幻ちゃんの思い出は消したくない。もし消すとしても、ここで一緒に話し合わない?」


 支配できない。

 目の前の存在が、特別だから支配できないのか。

 それとも俺様が特別ではないのか。


「ふざけるな」


 怒りが沸き上がる。


「ふざけるな」


 最強へと至った俺様が、会話をしようと提案する存在に何もできないなど、そんなこと、あってはならない。


「ふざけるなあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 俺様は支配の力を使うことなく、右手を拳の形にし、全力で少女を殴る。

 少女は拳をやすやすと受け止め、凛とした紫紺の瞳で、俺様を対話を図ろうとする。

 俺様の青春にはあるはずのない、対等な会話を試みている。その純然たる眼差しを向けている。


「あ……」


 俺様は、特別少女に勝てない。圧倒的な存在に絶望する。

 七怪奇高校にいる限り、この少女には勝てない。支配することもできなくなった。

 俺様の自我が、俺様という存在が壊れる。傲慢を壊され、そして最強も壊された。

 俺様は、この特別に支配される。

 支配するのではない。支配される。

 支配される。

 支配される。

 支配される。


「あああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 走り出す。

 ここがどこなのかもはやわからない。ライラックの草木をはねのけながら、あの特別少女から少しでも遠くになるために走り出す。

 苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい。

 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。

 最強の俺様が勝てないなんてあっていいはずがない。

 俺様を殺すな。俺様の自我を殺すな。俺様を殺すな。

 紫の空間から出口が、白い光が見えたとき、俺様は死ぬと直感した。

 校門の外なのだろう。俺様は外に出たらたしかに死ぬだろう。

 だが、どうでもい。

 傲慢でも最強でも、そして当然虚飾でもない俺様は終わるのだ。

 死ねる。死なせてくれ、特別になれない俺様は死に————、


「ようやっと来たんだよ♡ 貴方が傲慢人間で虚飾人間っていう面白い秘密を持っている人ね♡」


 心臓を抉りだした少女がいた。逆さハートをピンクからぐじゅぐじゅとした黒に染めて、笑顔で告げる。


「『心核融合(メルトコア)』、なんだよ♡」


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