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特別少女『地名美南』と青春怪盗高校生『化物幻奇』の死別回避を目指すグッドエンド  作者: ザ・ディル
伍章 暴喰人間『学校喰い者(スクールイーター)』 VS ????『化物幻奇(????????)』

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伍話 どうかしてる存在

「外に出たのにぃ……テメーはなんで生きてんだぁ?」


 眼前の存在はあまりにも醜悪だ。

 人間の骨格こそかろうじて維持しているものの、ギザ歯がいたるところにむき出しになっている。骨や肉という概念を無視して顕現している。

 姿は超常の存在さえも超越しているが、間違いなく『学校喰い者(スクールイーター)』だ。

 何かの反動によってギザ歯はボロボロになりかけている。異常なダメージを喰らったのだろう。反動なのか、誰かに攻撃を喰らったかはその場からは判断できない。

 何より『学校喰い者(スクールイーター)』が僕を見て困惑している意味もわからない。


「何をいってるんだ?」


 思わず口に出してしまうと、眼前の相手は激しくわめくようにギザ歯をカチリカチリと鳴らしながら、まるで毛を逆立てるように歯を逆立てている。


「とぼけんなよゲン! 戻れよ『化野現(あだしのげん)』に!! これ以上『七怪奇』になり続けるテメーを見たくねぇぜ……!」


「ん?」


 相手のうろたえように訝しむ。

 僕――『化物幻奇』は周囲を見渡し『七七七拒否(アンラッキーセブン)』の上蓋が開いていること、そして僕の記憶から削除されていたはずの『自身の記憶』――僕こそが傲慢人間『青春・続(アオハル・ダッシュ)』だと認識できているこの状況……。


「……異常事態で入れ替わったってとこか?」


 僕の記憶が誰かに支配されていたことは薄々わかっていた。それでも青春を楽しめるくらいには自由だった。気にもせずに、青春を楽しめていた。

 だけど、今はその支配者が自分自身だとわかる状況。正直、気持ち悪さも覚えてしまう。同時に傲慢人間『青春・続(アオハル・ダッシュ)』が賢いとも思えてしまう。

 たしかにこの記憶を持っていれば、僕は眼前の相手を全力で倒す気持ちになってしまう。それほどまでの強敵。しかも、強化まで完了し、正直僕一人じゃ倒せない。


「『七怪奇』の虜になって我を失ってるお前をこれ以上見たくねえ。『化物幻奇(ストーリーテラー)』、お前を斃してオレっちとゲンはこの世界から足を洗う。……それが贖罪なんだ」


 ギザ歯だらけの醜悪な様子でも、その言葉はどこか達観しているように、大人びているように見える。

 それもそうか、『七怪奇』になってもう十年。……大人になったんだな。僕を救うために成仏させる。それこそが贖罪なんだといい聞かせてるように見える。

 ……大人になったら君も僕の青春を邪魔するんだな。

 …………じゃあ、殺すしかないか。


「『七七七拒否(アンラッキーセブン)』、傲慢因子『愚行剣・下々(ぐこうけん・げげ)』を僕に」


 僕は上蓋から飛び出た剣をキャッチする。

 禍々しいほどに黒い、黒い、黒い長剣。

 すべてはこの黒にひれ伏す。

 すべてはこの黒に平伏する。

 すべてはこの黒に服従する。

 すべてはこの黒に降伏する。

 すべてはこの黒に――(こうべ)を垂れる。


「させるかっ!」


 風よりも速いスピードで肉薄するが、それは関係ない。

 この剣を前に、スピードは無意味だ。

 この剣を前に、暴力は無意味だ。

 この剣を前に、狂いは無意味だ。

 この剣を前に、喰いは無意味だ。


「ひれ伏し、平伏し、服従するように、降伏するように――君は頭を垂れて、押しつぶされて、青春が終わるんだ」


「あがっ――!?」


 まるでロードローラーに潰される勢い。『愚行剣・下々(ぐこうけん・げげ)』から放たれた下方向の、圧倒的で圧巻的で圧砕的で圧殺的な力。

 巨大な岩をも砕く掘削機のような、轟音が響く。顔のないギザ歯がひしゃげるようにヒビが入る。それでも目の前の男は眼がないにもかかわらず、じっと見続けている。

 ……大人の心配だろうか。僕を本気で止めたいと考えているのだろうか。

 その声を聞きたいと、どうしてか心が動く。

 掘削力を弱め、音をなるべく落とし、されど圧力の程度は変えないまま問う。


「僕はこれから新たに『七怪奇』の勧誘をする。『地名美南』、少女を手に入れる。だけどその前に訊いておきたい」


「――――」


「どうして、僕と一緒に『七怪奇』になったんだ?」


 僕は『化野現』の記憶によって目の前の存在、ジン――神喰(かみじき)人喰(じんく)を知った。だから思い出は記憶としてはあってもここまで身体を張るのだろうか。否、命を賭して、命をこぼして『七怪奇』という同族になってなお、僕の、あるいは『化野現』がやっていることを全力で止めようとしている。

 僕と一緒に青春を送るために『七怪奇』になったのか。それは違う。彼に関しては間違いなく、大学の進路を考えて、前期で受かったことを知っている。

 未来を考えて、大学の、さらにはその先を見据えていたはずにも関わらず『七怪奇』になった。

 正気ではない。狂気的だといっていい。努力をどぶに変えた。それほど『七怪奇』という青春が魅力的だったのか。

 否、彼は僕を止めようとしている。『七怪奇』を止める『七怪奇』。青春が魅力的だったのはありえない。

 そうであるなら、どうして彼はこの場に居続けるのだろうか。

 彼はにかりと笑みを浮かべるようにギザ歯を大きく開く。異常な圧力をもろともしないような笑みを浮かべた。


「テメーの、親友だから。テメーを一人ぼっちにできるわけねーだろうがっ!」


 ……なんだ、親友だからって。親友ってそんなにも代えがたいものか。

 青春を失ったとしても、親友がいればいいだなんていいたげな、そんな笑い。

 親友、親友、親友。

 親友であればなんでも助けてくれるのだろうか。

 親友であればどこまでも一緒にいてくれるのだろうか。

 親友であれば地獄までもついてくるといっているのだろうか。


「…………くだらない」


 ふと、涙がこぼれたような気がするが、どうでもいい。こいつの言い分は聞けた。

 僕が満足するために聞いたはずだが、逆に後悔している気がする。

 僕は後悔を振り払うように右手に力を集約させる。

 特別な青春を怪盗する、虚構の高校生——青春怪盗高校生『化物幻奇』。それが僕だとわかっていながら、その特別を振るう。


「ずっと眠ってくれ、『学校喰い者(スクールイーター)』。『青春怪盗(アオハル・ダッシュ)』」


「嫌だね。また明日も会おうぜ、親友」


 聞きたくない。こいつの戯れ言なんて聞きたくない。

 言葉を忘れるように特別を集約した力をこいつに当てる。それだけで僕の持ち物『七七七拒否(アンラッキーセブン)』に『学校喰い者(スクールイーター)』、そして同化していた『大刀・喰喰(たいとう・くいくい)』が収納された。


「…………」


 静かになった門前で僕は一息して、落ち着いて、落ち着いて……。

 深呼吸をして、落ち着いて、落ち着いて…………。

 落ち着けるわけがなかった。


「僕は何をしているんだ……」


 今までを振り返ると僕は僕のやっていることの意味がわからなかった。

 僕はある日、転校したという設定でこの七怪奇高校に訪れていた。

 そして『地名美南』を『七怪奇』として迎えようと『七怪奇』に会わせて経験を積ませる。

 そのための口実が、未来で悲惨な出来事があることを伝え、ハッピーエンドを迎えるために頑張ろうというものだった。

 ただイレギュラーはあるようで、僕は死んでるらしいし、『地名美南』も精神が死んでいる。まあそれは傲慢人間『青春・続(アオハル・ダッシュ)』の『絶対記憶支配(ドミトリート)』でどうにでもなる。僕が消滅しても傲慢人間として生きてればいいし、そうすれば必然と『地名美南』の精神も支配できて、当然そのまま作り直して(﹅﹅﹅﹅﹅)『七怪奇』にできる術を傲慢人間『青春・続(アオハル・ダッシュ)』は持っている。

 ただ、思うところがある。

 本当に、僕という存在は何をしているんだ。

 何があるかはわからないけど、未来で死ぬことがわかってる。

 それでも淡々とここまで来てしまった。記憶の支配が一時的に消えたと自覚できて、考える時間ができてしまった。

 それでも、もう結末は変わらない。

 それならと僕は『七七七拒否(アンラッキーセブン)』に収納されている存在に告げる。


「なあ、本当の僕。僕は『地名美南』と戦う。そのあとはどうとでもしていい。卒業式最後の思い出を『地名美南』と作りたい」


「嫌だね。その青春は俺様のものだ」


「……はっ?」


 眼前に、オールバック姿になった僕がいた。

 否、僕はこの正体を知っている。傲慢人間『青春・続(アオハル・ダッシュ)』、本当の僕。


「『学校喰い者(スクールイーター)』のせいで死ぬかと思ったが、貴様の想いが強くなったおかげで七怪奇高校の外でも消滅せずに済んでるぞ! 実に気分がいい!」


「な、なんで。君は七怪奇高校の外にいることは――」


「――二度もいうな。貴様と俺様は裏と表。だが、貴様が俺様の青春と同化してくれたおかげで消滅していない。貴様に俺様の特別の一部を共有したことが功を奏したみたいだ」


 くはははと、気高く笑う姿は、まさしく狂っている僕といっていい。

 それと同時に僕は理解した。

 僕は初めから、『七怪奇』を創り出すための前菜。経験を積ませる装置。物語の最後には消える存在。

 初めから青春に縛られていた。

 初めから青春という範囲に絞られていた。

 初めから青春で終わることが確定していた。

 青春に縛られ、絞られ、青春だけで終わる存在。

 人生という物語おいて、青春は一部でしかない。高校を三年しか味わえない僕は、永遠の高校を味わうことができる存在には叶わない。

 青春という物語しか語れない『化物幻奇(ストーリーテラー)』。僕の役目が終わることを理解した。


「貴様は用済みだ。『絶対記憶支配(ドミトリート)』――俺様と同化しろ」


 右手を掲げた人物に、僕は抵抗できないまま、意識が飲み込まれた。

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