肆話 決着
バッッッッッックりと、『学校喰い者』は『大刀・喰喰』を一口で喰らう。
同時に球体は急速に縮まっていく。
巨大な力を圧縮するように、俺様だけを喰らい狂うことに最適化した姿。ほとんど元の姿にほとんど戻ったといってもいい。
ただしギザ歯だけは違う。
腕、足を始め、皮膚のいたるところにギザ歯が生えている。
俺様をあざけわらうように、見下すように、卑下するように笑っている。
「ぎゃははは、気分がいいぜ。仲間と一体になれたら、誰でも斃せそうだぜ!!」
迅速果断、特攻をいきなり仕掛けてくる。特攻とはいえ、ぎりぎり瞳で追える速さ。
反射で右の手のひらを向けて対応に追われる。
「『絶対記憶支配』――『学校喰い者』を――」
「効かねえなあ!!」
「がっ――」
弾丸の如き速さで通り過ぎた。
そのうえで、俺様の腹が全部喰われた。
下半身の支えを失った上半身がぼたりと落ちる。
視線の先では、『学校喰い者』がさらに異質な変貌を遂げていた。
瞳も、耳も、爪も、髪も、すべてがギザ歯。先ほどでさえ、腕や足からギザ歯が生えていたのに、さらに進化し続けている。
怪物のようにギザ歯をガタガタ震わせながら、狂った笑みを浮かべた。
「虚飾じゃなくなってるから血が出てるんだな。つまり、オレっちたちの攻撃は効いてるわけだあ」
「……『絶対記憶支配』――俺様の傷なぞ忘れてしまえ」
俺様は片手で下半身、もう片手で上半身に触れる。
七怪奇高校の記憶すべてを支配――嘘を真実に書き換える。記憶操作の内容は、俺様の上半身と下半身の分断をなかったことにする。さらには痛みをゼロにする。
俺様は瞬時に元通りになった。まるで世界が俺様から傷が出ることを忘れるようにな。
その異常な事象を目の当たりにした『学校喰い者』は、口と化した眼をカチカチさせて驚きの表情をする。
「あ? 回復にも使えんのか? いや、テメーのことだから七怪奇高校の認識の書き換えか」
「そうだ。絶望したか?」
「いーや、俄然やる気が出たな。七怪奇高校から飛び出せば、テメーの特別は効力を失うからな」
「…………」
弱点を見抜かれたか。確かに他の『七怪奇』は七怪奇高校の外だとしてもある程度の効力は発揮している。
強欲因子『武疋夢厨』にしても七怪奇高校内であれば、最大限の効力を発揮する。大地が廃人となっていもおかしくはなかった。
そして虚飾人間『化物幻奇』に関して、大地の親には認識されず、俺様の名『化野』を口にされた。それほど、『七怪奇』は七怪奇高校の外に出ると脆い。
さらに俺様に至っては、あまりに強力すぎる特別がゆえに七怪奇高校の外に出れば消滅する制約がある。
俺様の脳内をまるで読み取ったかのように、ギザ歯の眼がにたりと口の端を大きくあげた。
「沈黙は肯定だってどっかの奴がいってたな。つーことは図星だな!!」
『学校喰い者』はクラウチングスタートの姿勢を取る。
「テメーの青春をここで根絶やしにする」
「……馬鹿か?」
意味不明だ。さっきの速さで十分だったのに、わざわざ構えが必要なクラウチングスタートのポーズを取っている。
その間にこちらが策を打たないとでも思ったのか。
俺様は天に右手をかかげて宣言する。
「『絶対記憶支配』――空駆ける物は墜ちる」
瞬間、空から轟音が響く。
とある物に支配として、こちらに来ることを命じた。
巨大すぎる轟音。異質なまでに初めて聞く異音。
この特別は、七怪奇高校で過ごしたとしても一生味わえないだろう。
何せ、『巨暴喰闘技場』の天で巡り駆けている流れ星――その巨大すぎる質量をこの地に激突するように支配したのだから。
「俺様が死ぬことはないが、貴様はどうだ。これで、チェックメイトだ――」
言い切る前に凄まじい衝撃が身体を襲う。
流星が地面に着弾したわけではない。いくら俺様の完全支配でも星が墜ちる時間は最短でも5秒以内の目算だ。さすがにあの質量を呼び寄せる支配にそのくらいの時間はかかると見込んでいた。だが、まだ3秒経ったか否かだ。あと2秒弱は必要だ。その2秒弱で俺様だけ死なない支配を施す予定だった。その予定が強すぎる衝撃で吹っ飛んだ。
「――――」
意識がかろうじてある。地面に陥没したのではなく、横に吹っ飛ばされている。その理由が、かろうじてわかったのは触覚のおかげだ。
身体が質量で圧殺されているのではなく、粉々にされている。噛み砕かれている。
肉体を異常なまでに粉々にする。それが可能な存在はこの空間では『学校喰い者』のみだ。
だが、忘れてるのか親友。いくら強かろうが、貴様の相手は俺様だ。粉々になろうとも『絶対記憶支配』で再生――
「――っ!?」
口がない。否、身体すべてを粉々にされて、意識だけが残っている。
痛みをなくした効果が残っている弊害。痛みを気軽になかったことにしたのを逆手に取られた。
だが別にいい。七怪奇高校にいる限りは勝手に修復されていく。『七怪奇』はそういうふうに支配した。だから消滅することはあり得ない。
それにしても、『学校喰い者』の「テメーの青春をここで根絶やしにする」という発言が、今になって嫌に引っかかる。
『学校喰い者』はさらに加速させるのか異常な跳躍を見せる。俺様を噛み砕いたまま一気にどこかへ連れ去ろうとする勢い――
「――っ!?」
まさか!! 『学校喰い者』は俺様を七怪奇高校の外に出そうとしている!?
あり得ない。あってはならない。そんな考え存在してはならない。俺様の青春が消えてしまう!!
行動は必然と早くなる。粉々にされたはずの自身の神経、皮膚、肉、骨、眼、髪、そのすべてを異常な支配力で元に戻そうとする。
が、『絶対記憶支配』なしでは実現力に段違いな差が出ている。現にぐしゃぐしゃに噛み潰されて再生ができない。
「気づいたか!? が、遅えぇぇ!!」
異常な音、これはなんだ。隕石が落ちたのか。違う、壁だ。『巨暴喰闘技場』の観客席を喰い尽くし、さらには壁を喰い尽くしている。
『巨暴喰闘技場』の外に出たに違いない。
まずい、本当にまずい。俺様が消滅するのだけは絶対に避けなければならない。
俺様はまだ青春を味わいたい。味わい尽くす。絶対にだ。
そう思ったときに無意識の行動と出たとともに、俺様の意識は潰えた。




