参話 死んだ者同士
『化物幻奇』の役目は終わりだ。これからは顕現した俺様がこの七怪奇高校を青春の世界に導く。
『学校喰い者』はギザ歯をギラリと煌めかせる。
「っけ! 思い出すの遅いぜぇゲン。しっかしなあ、テメーは今回も記憶を消して、何がしたいんだ?」
「死闘の前に質問タイムたぁ、傑作すぎないか?」
「そうかあ? テメーとオレっちの仲だぜ。別に駄弁るのも悪くはねえだろ?」
「……それもそうか」
俺様が負けることは絶対にありえない。そう思えば親友と話すのも悪くない。三年前はそこまで頭が回らなかったし、いいだろう。
顎に手の甲を当て、記憶を整理しながら眼前の親友に語る。
「俺様は青春が好きだ。だがらこそ『七怪奇』になった。傲慢因子を完膚なきまでに叩きのめしひれ伏すように支配し、傲慢の『七怪奇』をはく奪し、俺様は傲慢人間『青春・続』になった」
「オレっちもテメーの後追いをして『七怪奇』になったな」
にかりとギザ歯を見せる貴様も正直大概だといってやりたい。「テメーだけ『七怪奇』になるなんてあり得ねえ」といいながら暴喰因子『大刀・喰喰』と共存する道を見出して、俺様の目の前に現れたときには流石に吃驚した。しかもジンには俺様が記憶を操作しても効かなかった。だから『七怪奇』と出会えば消滅するなどという嘘のルールを認識することもない。もっとも、これはここ三年間のルールで『七怪奇』に植え付けた嘘の記録だが。
まあそんな戯言はどうでもいい。
「それからも『七怪奇』として、青春を体験してきた。だが俺様が高校生活を送ったのは生きていたあの一度しかない。そして『七怪奇』としてではなく、人間として生活したあの青春こそが真の青春だと気づいた」
様々な青春――怒りの青春、告白の青春、透明な青春、心労の青春、努力の青春、喰い狂う青春、なんでもできる青春。『七怪奇』として誠に多岐な青春を味わったともいえる。
ただ、それは当事者意識に欠けた。
なぜなら『七怪奇』は生きていない。『七怪奇』はその名の通り『七怪奇』――七つの怪奇であり、奇怪な現象であり、現世とは本来隔離されるべき事象。
つまるところ、『七怪奇』は”生きていない”。幽霊と大差ない。
だからだろうか。『七怪奇』になったとしても、昔の青春を超えるワクワク感が、キラキラ感が、特別感が足りなかった。さらには『七怪奇』という特別になったことで、俺様の、”記憶を完全に操作できる”という特別が、相手を思い通りにしてしまい退屈にさせてしまうのも一因。だがそれ以上に新規性を、あの一度だけの青春を二度も味わっているのが青春を特別感だと認識できない原因となっていたのだ。
原因を排除するために俺様は考え、解を導き出す。
「『七怪奇』は本当の青春と程遠い。ならば、青春の象徴そのもの――高校生になるのが道理じゃないか?」
そのために俺様は支配の力を増幅させて、無の存在から『七怪奇』を生み出した。虚飾因子『七七七拒否』だ。
その後、傲慢そのものを『七七七拒否』に封印し、虚飾人間『化物幻奇』を世界に誤認させることで、俺様は高校生になった。『七怪奇』である自覚を削除したまま、自身の記憶を『青春・怪盗』しながらな。
そんな考えに想いをふけっているとこてんと目の前の親友が首を傾げていた。
「そういうもんか?」
「貴様がどう思おうがそういうものだ。実際、すべてを忘れて高校生を謳歌できた。しかも『七怪奇』との青春をも一から始められるのは爽快だったぞ!」
俺様が笑うのとは対照的に、深い、深いため息をつくをつく親友はそのまま手で髪をがしがしとかき回す『学校喰い者』。
「ったく、何度もテメーに付き合うこっちの身にもなってみろよー。んなこと、何度もやってるとさすがに飽きが来るぜ?」
「それは貴様が特殊だからだ。『七怪奇』でも俺様の記憶支配が通用するが、貴様は俺様の記憶支配それごと『喰ってしまう』らしい。だから忘れないのだ」
「俺様だけ忘れないのか?」
「そうだ。怠惰人間『冥界猫と迷回病』、嫉妬人間『黒部愛』は記憶の支配が効くのに、貴様だけ効かないのだ。だが――」
俺様は眼前の親友に向けて、悪辣な笑みを向けた。
「それも今回までだ。貴様の記憶も完全支配して、次は『地名美南』だ」
「……オレっちは前菜ってわけか」
「不服か? 貴様の方が主食に相応しいとでも?」
「当然だぜ。オレっちに勝てると思ってんのか?」
嫌な響き。この俺様に「勝てると思ってんのか」などと思いあがる姿に虫唾が走る。同時にその謂れのない言葉で、心臓が跳ね上がる。
が、異様なまでに冷静を努めるように心臓を支配し、落ち着ける。
俺様は相手を見下すように、顎をクイっと上げながら視線を落とす。
「逆に問おう。貴様は俺様に勝てるとでも?」
「オレっちだけなら無理かもな。ただし――」
ギザ歯を大きく見せながら、『大刀・喰喰』を構える。
「仲間がいれば、勝てるに決まってるぜ!」
「不愉快な発言だな。訂正しろ」
「訂正しないぜ。仲間のためにもな」
「そうか」
貴様は仲間なんていう言葉嫌いだと思っていたが、そこまで『大刀・喰喰』に入れ込んでしまったんだな。
そして仲間の力で勝てると思い込んでいるのだろう。
その考え、傲慢人間以上の傲慢だ。
俺様の言の葉は、七怪奇高校を統べる。すべての存在を分け隔てなく支配できる。
「貴様がそこまでいうのなら、力づくで押しとおるとしよう」
「かかってこい、ゲン。『解凍歯喰』」
途端、『大刀・喰喰』からぐじゅぐじゅと異様な音が鳴る。
ギザ歯に異常な量のよだれが付着している。そのよだれが地面に落ちたと思った時には地面が溶けていた。
俺様はその特別を知っている。
「『解凍歯喰』――すべてを溶かす唾液、それを振り回すだけで相手は溶け、悲鳴を上げて死に至る……か」
「そうだぜ! 熔けて融けて解けて、ゲンを狂わせる!!」
『大刀・喰喰』が伸縮自在に伸びあがる。ギザ歯から滴る唾液が地面を溶かし、空気をも歪ませている。
そして俺様の首元に勢いよく飛び掛かるが、その行動は三年前にも見た光景、造作もなく対処できる事象だ。
右の手のひらを『大刀・喰喰』に向ける。
圧倒的な特別。
史上最悪な特別。
絶対的な根源的特別。
すべての特別を覆い尽くす特別。
その奔流が右手にのしかかる。異様で異質で異端で異例で異常な特別が、放たれる。
「『絶対記憶支配』――『大刀・喰喰』よ、反旗を翻せ」
「っ――」
瞬間、『大刀・喰喰』は『学校喰い者』の手から逃れる。
そして離れたのも束の間、ギザ歯という名の牙を剥いて『学校喰い者』に襲い掛かる。
「貴様は支配できなくても、刀は支配可能だ。三年前と同様に、喰われろ」
眼前の相手はギザ歯を大きく広げる。大きく、最大限に、手も足も広げ、すべてがギザ歯であり、それで笑い続けているかのように、その場でギャハハと笑う。
「前と同じ手を喰らうわけねーだろ! これがオレっちの秘策――」
まるですべてで喰い尽くすように、狂い喰うように、自身の身体を開く。
否、まるでではない。完全に、自身そのものが、身体すべてが大きな口と変貌を遂げた。
顔などない、耳もない、瞳もない、首もない、胴体もない、腕もない、足もない。
『巨暴喰闘技場』の最上段を超える勢いの巨大な球体。
そして、球体は巨大なギザ歯をばっくりと開ける。
すべてを噛み砕き、すべてを狂わせ、概念とも喰い尽くす圧倒的異形。
俺様の親友はギザ歯だけでも笑っているかのように、特別を誇示するようにいい誇る。
「『全喰い』だぜ!」




