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特別少女『地名美南』と青春怪盗高校生『化物幻奇』の死別回避を目指すグッドエンド  作者: ザ・ディル
肆章 強欲因子『武疋夢厨(ノンストップ)』

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壱話 受験勉強――それは最もつまらない青春ではないか?


 2025年8月26日(火)。


 卒業まで半年。クラス全員が受験モードに突入していて、誰もが志望校を掴み取ろうと必死にペンを走らせていた。


「…………」


 僕は窓の外にある雲がぼんやりと眺めたり、教科書をなんとなくめくったり、クラスメイトの後姿を観察したり、授業を聞くふりをしていた。つまるところ、クラスの中で僕だけ受験モードになれていない。

 血のにじむような努力の果てに志望校の大学に受かる人間もいれば、実を結ぶことなく無造作に志望校の大学に落とされる人間もいる。

 はっきりいって青春の邪魔なのではないかと思う。青春という特別の一つでもあるが、それが楽しむものではなく真剣すぎるものになっている。そしてその果て良い結果になるかといえば断言はできない。


「まあ、一度きりの人生だもんな」


 僕は思わずぽつりとつぶやいてしまう。

 こんな嫌な思考になってしまうのは二学期の始業式以降に変わってしまったようにみえる大地の様子を見てきたからだ。

 キーンコーンカーンコーンと、四限目のチャイムが鳴り、昼休みになる。

 いつものように大地は由衣ちゃんのもとに行くのかと思ったが、どうしてか未だにペンを走らせている。

 僕は思わず大地の肩をポンと軽く叩きながら、心配そうな眼差しを向ける。


「飯はいいのか?」


「ああ、不思議と腹は減ってないからな」


 嘘つけと、そう軽口をいいたい。

 大地が夏休み期間中に痩せてきているのは誰の目から見ても明らかだ。

 あまりに勉強に集中しすぎると、太りすぎたり痩せすぎたりといった症状に陥るらしいけど、どうやら大地は後者らしい。

 それにしても恋人の由衣ちゃんとお昼ご飯を食べないのは重症すぎだ。


「化物、ちょっと来てもらっていい?」


 小さく耳打ちされて振り向くと、そこにいたのは由衣ちゃんだ。

 小悪魔として魅惑するなめらかなツインテールに、小顔な表情は、まさにアイドル顔負けといえるほどの美少女だといってもいい。そんな小悪魔美少女が僕に誘いをかけたとなれば当然あとをついていくに決まっている。

 教室から廊下に出て、人気のない階段まで移動したところで、由衣ちゃんはくるりと振り返った。


「化物もわかってると思うけど、大ちゃんが夏休みくらいからおかしいの。何か知らない?」


 何か知らないかといわれても、これといって重要な情報はない。もしあるなら恋人の由衣ちゃんに伝えてる。

 だから僕は僕の知っている範囲のことだけ伝える。


「夏休み中、大地は勉強に集中したいといった。だから僕と一度も遊んでない。そのくらいの情報提供しかないな」


「化物とも遊ばず、私ともほぼ遊ばなくなった。しかも勉強が理由。……なら、やっぱ私のせいかー」


 自暴自棄一歩手前のような仕草で壁をパンと叩く。さらには、はあ、と深いため息までつく始末だ。


「そんなに自暴自棄にならない方がいいと思うけど、一体何があったんだ?」


「……大ちゃんがあんまり頭良くないってのは知ってるよね?」


「そうだね。地頭はいいけど、実体験に基づかない勉強が苦手なのは知ってる」


 特に社会、英語、国語の成績は芳しくないどころの騒ぎではない。正直中学生レベルの問題すら危ういと友達の僕は知っている。

 由衣ちゃんならそのあたりは、もっと詳しいんだろう。

 そんな由衣ちゃんがあたりをきょろきょろと見渡したあと、小さく告げる。


「大ちゃん、私と同じ大学に行くっていってくれたの」


 由衣ちゃんの大学。僕が直近で行った情報収集結果、確か偏差値60の大学だったはず。大地の夏休み前の偏差値は40。これは絶望的な差だ。


「もちろん一緒の大学に行きたいといってくれたのは嬉しいのよ。だけど大ちゃんとその大学に行くのは今から猛勉強したって間に合わないと思っちゃうのよ。今だって、私と昼を一緒にするより勉強優先になってるの」


「それで、僕に何をいいたいの?」


 由衣ちゃんと僕との接点はそこそこある。大地の友達の筆頭として僕がいるので、何度か会話もしているけど、どうしてか寄ってくれる回数は少ない気がする。そんな彼女が僕にこんな事情を語ってきたんだ。きっと、何かしてほしいことがある。


「化物って青春が大好きでしょ?」


「そりゃ好きだよ……?」


 突然の青春好きかという質問は突発的かと思った。けど何か含みを持たせていると思える。

 小悪魔的笑みをのぞかせた由衣ちゃんが、僕を虜にするように語る。


「努力の青春、『七怪奇』の強欲因子『武疋夢厨(ノンストップ)』。大ちゃんはきっとこの青春に呪われている。大ちゃんから努力の青春を取ってあげて。そのあとの強欲因子の扱いは全部、化物に任せるわ!」


 爛々とした情景が思い浮かべられる。それはさながら、特別性のある青春が脳裏によぎったからだ。

 僕は極めて冷静を努めるように数秒間待った後、こほんと咳払いして答える。


「由衣ちゃんにそこまでいわれたら仕方ないな。まずは本当に強欲因子『武疋夢厨(ノンストップ)』のせいなのか見極めることだな」


「どうするの?」


 由衣ちゃんが小首を可愛く傾げる。そんな彼女の前で僕は胸を張って堂々と宣言する。


「大地が強欲因子『武疋夢厨(ノンストップ)』を使っているのか確認するのさ――大地の部屋に潜入するぞ!」

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