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特別少女『地名美南』と青春怪盗高校生『化物幻奇』の死別回避を目指すグッドエンド  作者: ザ・ディル
参章 嫉妬人間『黒部愛(ダークラブ)』

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肆話 『地名美南』≒人間

「今はいつなんだろう……」


 体感としては短い時間かもしれないけど、ラブちゃんとの時間は濃密なものだった。幻ちゃんの秘密――幻ちゃんは人間ではないという衝撃な事実を心に秘めたまま、私はぐるりと周囲を見渡す。

 本の貸出カウンターにカレンダーがある。今日は8月8日(火)、返却日は8月25日(月)。掛け時計から夜の10時だとわかる。


「ラブちゃんとは会えたから、多分未来の私に会えるよね」


 『七怪奇』との青春を媒介に、未来の私と接続する。秘密の青春を共有したからできる。しかも夜だから学校には基本誰もいないという好条件。

 ただ、この場に幻ちゃんはいない。幻ちゃんを呼び出すためにぽっけから携帯電話を取り出そうとした。だけどきゅっきゅと上履きと床の擦り音が響き、携帯を取り出すのは諦め、そっちを向いた。


「はぁ、心配通り越して待ちくたびれたわよ。下駄箱に靴があるからまだ『黒部愛(ダークラブ)』の相手をしてるんだと思ってけど、とりあえずこっちに戻れたのね」


 由衣ちゃんが悪態をつきながら、図書室入口に現れた。

 私はにこりと微笑む。


「うん。待ってくれてたんだねー。ありがとー」


「アンタにお礼いわれる筋合いはないわ。さ、帰るわよ」


「私、ちょっと寄るところがあるから先に帰っていいよー」


「……はあ、さすがに看過できないわ」


「え?」


 突然の指摘に私は呆然してしまった。

 由衣ちゃんがつかつかと近づいて、人差し指で私の額を軽く突くほどの距離で顔をずいっと寄せる。


「『七怪奇』と対峙したときの手際良すぎよ! しかも夜なのに家に直接帰らないで寄るところがあるっておかしいわよ! 普通の高校生は家に帰ってママに激怒される時間なのよ!! アンタ、何を隠してるの!?」


 そっか。幻ちゃんと夜に家出ること増えたから感覚麻痺してたけど、高校生は夜の外出なんて普通しないよね。

 だけど、この件については隠さないとなと思っちゃう。


「乙女の秘密だよー」


「アンタ、小悪魔ぶりたいならもっとミステリアスで魅力的な表情をしないとダメだからね!」


「素っ頓狂な返しだねー」


「アンタがキャラじゃないことやってるから突っ込んでるだけよ! ……秘密ならそれでもいい。だけど――」


 由衣ちゃんは指をおろすとまっすぐな視線で見つめてきた。今まで一番真剣味のこもった表情、胸に手を当てて由衣ちゃんは心からの嘆願を口にする。

 

「少しでも助けになれると思えるなら、話して……!」


 一年前の由衣ちゃんなら絶対にありえない発言。だけど正義感ある大ちゃんに影響されて、正義感ある行動が宿ったのだと思う。

 私は柔和な笑みを浮かべていた。


「……少し変わったね、由衣ちゃん」


「……大ちゃんのおかげでね」


 恋は人の在り方さえ変えるスパイスなんだろう。盲目とはいわれることもあるけど、お互いの良い影響を受け合って成長していく。

 恋を絶望と表現するなら恋は盲目だけど、恋を希望と表現するなら恋はすべてを解決しうるパワーを持っている。

 眼前のゆいちゃんが心強い。だから私は、幻ちゃんを少しだけ裏切ってみる。


「由衣ちゃん、ありがとーね。……相談に乗ってほしい」


 私は幻ちゃんとの怪盗物語――『七怪奇』の青春をコピーして未来の私から情報を得て、卒業式の日に死ぬはずの幻ちゃんを助けることを中心に話した。

 もちろん、それだけじゃない。幻ちゃんと意気投合したときの出来事。幻ちゃんが扱う『七七七拒否(アンラッキーセブン)』。

 由衣ちゃんが『幻惑空間の独断恋愛(パラサイトハーツ)』を使って大ちゃんを強制的に告白させたこと。そのあと由衣ちゃんはその告白を忘れたけど、普通に大ちゃんに告白して成功したこと。それを話し終えると由衣ちゃんは目をぱちくりさせた。


「マジ? 私、『幻惑空間の独断恋愛(パラサイトハーツ)』使ったの?」


「うん、本当だよー」


「……はあ、最っ悪ね。私、大ちゃんを傀儡にしたなんて」


「仕方なかったんでしょ。それに、幻ちゃんがそれはうまい具合に助けたんだからいいんだよー」


「そう、ね。あいつに礼いうのは癪だし、アンタに礼いうのも癪だけど、……感謝は伝えないとね。ありがと」


「どういたしましてー」


「で、今までの話を信じるとして。このあとどうすればいいの? アンタたちと一緒に怪盗ごっこに参加してとでもいうの?」


「それも面白いけど、由衣ちゃんには解決策を一緒に模索してほしいの」


「模索するも何も――」


 由衣ちゃんは一瞬も考える素振りなく、すっと答える。


「『七怪奇』に殺されるなら、転校すればいいじゃない。この高校しか『七怪奇』はないわけだし」


「提案したことはあるけど断れたんだよねー」


「ますますあいつが怪しい……。一年は別の高校なのに、こっちに来たら転校はしたくないなんてあり得ない」


 由衣ちゃんの意見はもっともだ。転校すれば『七怪奇』に巻き込まれることはない。それでも転校したくないのは私なりに結論がある。


「幻ちゃんは青春が好きすぎるんだと思う。特に『七怪奇』って現象は彼を虜にしている」


「でも『七怪奇』に殺されるならそいつらから逃げるしかないじゃん。あいつのやってること、矛盾だらけよ。青春が好きだけど、特別な青春がいい。その特別が、他の高校には存在するはずのない『七怪奇』による青春。それって本当の青春といえるの?」


 由衣ちゃんの問いかけに「いえない気がするけど、幻ちゃんは青春だって断言するんだよねー」と軽口を返す。

 ただ、それ以上に由衣ちゃんの発言に引っかかった部分がある。


「ちなみに矛盾だらけってことは他にもあるんだよね?」


「そりゃあね」


 当り前よといわんばかりに、由衣ちゃんはそのあとの言葉を紡ぐ。


「化物は青春を送りたいから、アンタとつるむの?」


「……さっきと同じで特別な青春を送りたいんじゃないかな? 私には三つの特別があるって幻ちゃんはいってるんだよね」


「異常に観察眼と、異常に記憶力がいい。あとは?」


「さっき話した『七怪奇』の青春を未来の私に渡す際に、未来の私に接続する特別」


 私の特別を捕捉したところで、「はぁ」と由衣ちゃんは気だるげにため息をつく。


「アンタ、やっぱ化物ね」


「客観的に見て、化物と思われるのは仕方ないよねー。もう割り切ってる」


「化物……まさしく『化物幻奇』の恋人にぴったりね。…………というか、そっか。あいつはそういうことやりかねないか」


 由衣ちゃんが天啓を得たような、動揺しているような、そんな表情を浮かべる。


「そういうことって?」


「……これは女の勘だけど、化物は、なんていうか……アンタが怪盗対象なんじゃない?」


 一時、呆然としてしまう。幻ちゃんの怪盗は『七怪奇』に対してで、それ以外はまるで怪盗する雰囲気がない。

 だけど、私に対して怪盗対象の眼差しは向けていたのかもしれない。未来で幻ちゃんが死なないために、『七怪奇』と出会っていくうちに、『七怪奇』の特別と私の特別は近いと感じてきた。

 幻ちゃんは特別を怪盗したい。それは私たちの未来を変える手段だと思っていた。だけど手段じゃなくて目的だと考えれば、今までの行動原理もすっと理解できる。

 幻ちゃんに特別だと思われている存在は怪盗される。どんな怪盗をするかはわからない。ある日突然、私をかっさらってどこか別の地域に移動することで怪盗とするのかもしれない。卒業までに怪盗宣言をして、私の特別をどうにかして怪盗するのかもしれない。あるいは怪盗と呼ばれるほど鮮やかさはなく、強引に、強奪気味に私のすべてでも奪う方法があるかもしれない。

 どうしてだろう、腑に落ちてしまった。反論だってできるけど不思議と納得が優先された感覚だった。


「…………そうかもねー」


「納得するんだ」


「幻ちゃんに気に入られるってそういうことなんだろうなって思った。付き合いたかったけど怪盗対象として見られているなら、すれ違いだねー」


 由衣ちゃんは目を点にしてとんでもない顔をしていた。いつもの小悪魔も、男子がいないときの悪態をついた口と悪辣染みた表情さえも、すべてかなぐり捨てた意外過ぎる表情だ。


「アンタ、あいつと付き合おうとしてるの? 怪盗対象かもしれないのに?」


「うん、私を一人ぼっちから救ってくれたのは幻ちゃんだから。もし私を怪盗するなら、怪盗されて一緒にいてもいいかなー」


「怪盗されたあと、アンタどうなるかわからないのよ?」


「それでも、好きだから。青春野郎の幻ちゃんが、大好きだから」


 沈黙のあと由衣ちゃんは笑顔を見せた。


「なら、さっさと付き合いなさい。まずは未来のアンタから情報もらうんでしょ。さっさとやって、ちゃっちゃとバットエンド回避しなさい」


「うんっ」


 私たちは裏門に移動した。

 暗がりの中に、蛍光灯がチカチカと光っている。そんな闇の中で、私は何もないはずの空間に意識を向ける。


「『時空接続(タキオンリンク)』」


 瞳が拡張された感覚。眼前がすべてキラキラに埋め尽くされるようになっていき、そして教室のドア程度の暗黒空間が広がる。

 暗黒空間の中、体育座りで死にそうに地面を見つめている未来の私。そんな私に、秘密の青春――ラブちゃんの青春を瞳を媒介に共有した。

 活力を取り戻した未来の私は立ち上がり、きょろきょろ周囲を探っている。


「そっちの幻ちゃんは……?」


 ラブちゃんの青春は濃かったらしい。未来の私が口だけでなく自由に動いている。やっぱり因子ではなく人間の『七怪奇』のほうが未来の私と意思疎通できる時間が長い。

 私は暗黒空間に近づいた。


「今日は幻ちゃんいない。代わりに――」


 暗黒空間に触れ、未来の私の手を――掴む。


「――そっちに行くわ」


 薄々気にしていたこと。未来の空間が目の前にあるのに、触れないのはなぜか。

 それはどこかで未来の空間に足を運ぶことは不可能だと思ってたから。だけど、不可能だと思ってしまうのは私らしくない。現に、可能かもしれないと思い手を伸ばしたら未来に侵入できると確信できた。


「ちょっと、何してるの!?」


 動揺している由衣ちゃんを置き去りにし、私はさらに未来の空間に侵入する。

 後ろを振り返って、由衣ちゃんに声をかける。


「由衣ちゃん、こっちに戻ってきたらぶっ倒れてるはずだから介抱してねー」


 そして私は悲劇が起きた未来の世界に足を踏み入れた。

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