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特別少女『地名美南』と青春怪盗高校生『化物幻奇』の死別回避を目指すグッドエンド  作者: ザ・ディル
参章 嫉妬人間『黒部愛(ダークラブ)』

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参話 『化物幻奇』≠人間


 意識が覚醒して瞼をぱちくりとさせると、目の前には真っ暗な景色で埋め尽くされていた。

 黒、黒、黒。一片の隙もない黒に塗りつぶされた黒。

 時間をおいても暗さに慣れることはなく、視界は広がらない。


「ラブちゃん、私を観てるんだよね?」


 相手に問いかけるても返事はなく、まるで独り言のように喋っているだけだった。

 しばらく時間が経つと、ぷつりと光が差した。

 まぶしくて、まぶしくて、まるで初めて光を浴びたような明るさだった。


「これってー……」


 これは――私が産まれ、産声を上げた時だ。

 眼前に現れたスクリーンが私の誕生を物語っていた。


「――――――――」


 時が加速する。スクリーンが無数に増えていく。私の人生が走馬灯のように流れていく。

 幼稚園生。異質な特性を持った私は一緒にいた園児は面白がってたけど、大人たちは私を忌避していた。

 小学生。低学年までは面白がってくれたけど、高学年になると私の特性が忌避された。

 中学生。もはや同級生は私を化物だと、存在してはいけない人だと観られ、まるで世界から存在しないように扱われた。

 高校生。最初の一年は中学と変わらなかったけど、二年のときに転校してきた彼が、私という存在をエンターテイメントのように、あるいはお宝のように持ち上げてくれた。私は化物だといわれなくなり、ようやく一人の人間として生きることができ始めた。

 そして『七怪奇』の数々。彼が死なないために、さらには私が精神的に死なないため、ラブちゃんを含めた『七怪奇』の青春がほしい。


「うにぃ、ぐすっ、ぐすっ。泣けるんだよぉ♡」


 スクリーンがすべて消え、いつの間にかラブちゃんが現れた。

 少女は涙を抑えるように逆さハート目を手で隠している。

 きっと、私のすべてを知ったのだと容易に感じ取れる。


心核融合(メルトコア)……心臓を同期させて、記憶も同期させたんだよねー?」


 ラブちゃんはぐすんぐすんと先ほどの人生を思い返しているようで、そんな中、煌めいた瞳を見せながらこくりと頷いてくれた。


「ぐすん、うん。ラブ、美南ちゃんのこと全部わかっちゃったんだよ♡ 『七怪奇』を怪盗することも知れたし――何より二人だけの秘密もできたし最高の秘密共有なんだよ♡」


「二人だけの秘密……?」


 違和感があった。幻ちゃんと『七怪奇』を怪盗することは私と幻ちゃんの秘密だったけど、一人で隠していることなんて一つもなかったから。

 ラブちゃんは涙を抑えて、まるでさっきまで涙していたのが嘘のような笑顔で問う。


「美南ちゃん、東大理三に行くんでしょ?」


「うん、そうよ」


「でも親にもまだ秘密にしているし、一番仲のいい『化物幻奇』くんにも秘密にしている。どうして?」


 そっか、これは隠し事になっちゃうんだ。確かに誰にも本音を話してないねー。

 心の中でそう思いつつ、私はラブちゃんに思いのたけを吐露(とろ)する。


「親は大学に行けさえすればいいと思ってるんだよねー。だからどこの大学に行くのかは秋までに話す予定。幻ちゃんは……大学以降のライフステージが嫌いそうだから無意識にいってなかったねー」


 幻ちゃんの表面上の表情はもちろんわかる。まっすぐすぎるほどの青春大好き人間だ。青春と聞けば瞳を爛々と輝かせて、一直線に青春をしようと行動する。

 だけど彼の本心は未だにわからない。私が視たとしても、幻ちゃんの底は視えない。


「たしかにアレは『七怪奇』がすべてというか青春がすべてというか。高校こそがすべてと思っている節があるんだよ♡」


 ラブちゃんの発言がいやに明確すぎる。少女の頬、首筋、無意識な表情変化、何を見ても嘘は話していない。

 多分、『心核融合(メルトコア)』で私から視た幻ちゃんのすべてを見たんだろう。そうして私と同じ判断を下した。ある意味、幻ちゃんの印象がほぼ同じになったんだ。


「やっぱり、そうなんだよね。幻ちゃんに大学の話をするのはタブーだよねー」


「タブーだろうけど、なんで彼が高校に執着しているのか――美南ちゃんなら知るべきなんだよ♡」


「どうして?」


 私は思わず首を傾げてしまう。少女が何をいうかはうすうす気づいていたけど、どうしてかとぼけてしまった。

 ラブちゃんは両手でハートマークを作って、キラキラした瞳を輝かせて私の瞳を貫くようにいう。


「だって美南ちゃん、幻ちゃんに恋してるの自覚しちゃったんだよね♡」


「…………」


 振り返る。

 最初は未来で死んだ幻ちゃんを助けたいと思っていた。助けるために『七怪奇』に出会って、青春を盗視取(ぬすみと)っていく。それこそが私を救ってくれた彼への恩返しだと考えていたから。

 でもいつからだろう。幻ちゃんといるのが楽しい。

 幻ちゃんとはしゃいでバカやって、全力で青春して、それこそが楽しいと気づいた。

 一人ぼっちだった私では味わえなかった青春。

 その青春を教えたのが幻ちゃんだ。

 幻ちゃんが私を一人ぼっちではないようにした。

 幻ちゃんが学校生活の楽しさを教えてくれた。

 幻ちゃんがそばにいてくれた。

 幻ちゃんが笑ってくれた。

 幻ちゃんが面白がってくれた。

 他人からしたら普通の一場面一場面が、最高の思い出となっていた。

 そして思い出は積み重なって、積み重なりすぎていた。

 その思いは重く、重い想いになって楽しいとは別の感情が生まれていた。今更だけどそう気が付いた。

 私が幻ちゃんをどう思っているのか、改めて整理できて、ラブちゃんにこくりと頷く。


「うん、大好き。私は幻ちゃんと付き合って、もっともっと幻ちゃんと楽しく一緒にいたい!」


 ラブちゃんは片瞳を黒く、片瞳をピンクにしながら、まるで悪役と味方を両方の性質をもつように、悪辣なようで温和な笑顔を相反した表情を浮かべる。


「その恋、初々しすぎて嫉妬するんだよ♥ でもその純愛、応援してあげるんだよ♡

 嫉妬するほどの恋愛♥ だけどー、ラブは応援してあげるんだよ♡」


 そのまま、ラブちゃんは柔和な笑みで、悪辣な発言をする。


「『化物幻奇』くんの、彼のすべてを知りたいと思わない?♥」


「思うけど、それは彼の口から知りたい」


「うん、アナタならそういうと思った。でも私は知りたい――『心核融合(メルトコア)恋人繋ぎ(シンショク)』♥」


 目の前にピンクと黒のキラキラが私の前に流れすぎ、流れすぎたあとにラブちゃんはその場からフッと消えていた。


「ラブちゃん!?」


 最後の少女の表情は、みずから禁忌を犯す表情にしか見えなかった。

 モニターが現れる。そこに映し出されていた人物に私は思わず呆然とつぶやく。


「幻ちゃん……」


 幻ちゃんの直近の過去のようだった。彼は暗い部屋の中、ブルーライトが木漏れ日のように漏れているモニターを見ている。

 だけどそこにはあからさまなノイズが走っている。まるで時を巻き戻しているかのよう、否、実際に巻き戻っていた。


「(彼の全部、知った方がもっと大好きってわかるんだよ♥ 彼の全部、教えてあげるんだよ♥)」


 一心同体になったラブちゃんが頭に語りかけてくる。ラブちゃんの言葉に否定もできない私は眼前に映るモニターを突っ立って観てしまっていた。

 ただ、ノイズが多い。幻ちゃんと直接一心同体にならなかったかと思ったが、ラブちゃんは怒りを孕む声を出していた。


「(おかしいんだよ♥ ほとんど観れないんだよ♥ なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで――)」


 取り乱しているのは表情がわからずとも明瞭だった。それでもリモコンの巻き戻し機能のように、ノイズが走りつつも時が戻っていたので、私は画面を観続けている。

 ノイズが酷くて何も観えないときもあれば比較的観えるときもある。

 ただ、私の人生がスクリーン内で早送り再生されたよりもずっと遅いし、何よりノイズが酷すぎる。ラブちゃんが余計に取り戻すのは目に見えていた。


「ラブちゃ――」


「(あり得ないあり得ない♥ ラブに秘密を見せないなんて許せない♥ 絶対絶対絶対許さないんだよ♥)」


 ラブちゃんとは明らかに意思疎通はできない。質問もできないため、そのスクリーンを観続けることしかできない。

 高校三年からさらに遡り高校二年の時代になったらしい。怠惰人間『冥界猫と迷回病(トラブルメリーニャン)』と青春したときや由衣ちゃんと大ちゃんが付き合ったときはちゃんと観えたけど、大分ノイズが多く、私も幻ちゃんの過去がいまいちわからない。

 そして初めて幻ちゃんと邂逅した憤怒因子『青春・終(アオハル・エンド)』のシーンが映って、スクリーンそのものがなくなっていた。


「…………」


 高校二年よりも前のシーンが映らなかった。トラブルで止まっちゃったのかな。

 そう思っていると眼前にはラブちゃんがいた。どうやら幻ちゃんの過去は見終わったらしい。


「ラブちゃん、トラブル?」


「あり得ないんだよ……♥」


 逆さハート目が歪むように、冷や汗が大量にたれ、ゴスロリ衣装をびっしょりにするほどの恐怖をラブちゃんは抱いていた。

 ただ恐怖と同時に、恍惚とした表情を見せている。ラブちゃんが秘密の青春を冠する嫉妬人間、その本懐を達成したことだと読み取れた。


「『化物幻奇』が高校二年より前は存在しないなんて、人間としてあり得ないんだよ……♥ 彼は……人間じゃない……それだけでも秘密としては、大♥満♥足♥」


 そういってラブちゃんはがくりと倒れた。


「ラブちゃん!」


 倒れたラブちゃんに駆けよって、気を確かめる。

 脈はある。『七怪奇』に脈があるかはわからなかった実際あった。ということは生きている。


「よかった」


 安堵した。それと同時に空間ががらりと変わった。

 きっとラブちゃんの空間は、少女の気絶とともに維持できなくて元の場所――図書室に戻ったんだとわかる。

 ただ、時間帯があからさまに変わっていた。


「……もう夜になっちゃったんだ」


 静寂に包まれた七怪奇高校の図書室に、月明かりが差し込んでいた。


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