第九十八話 深まる謎
リュウ達は現在の状況と予測される危険性を話し合い考えた結果、探索を継続することとなった。勿論これ以上何か不測の事態があれは直ぐにでも撤退するつもりでもある。
「周囲の警戒だけは怠るな……いつ何時、敵が出てきても良いようにな」
「ミレーアちゃんは今のところ何も感じないのよね?」
「はい、今のところは大丈夫です」
「上はリナが見張っているが、それでもまだ心許ないな」
前回戦った変異したアーマーサウルスを上回る強さがある可能性がある以上警戒しずぎて損はない。命あっての物種であり、生き残りさえすればまた挑むことが出来るからだ。
「私はまだ見たことは無いけど……ミレーア。あの街で戦ったワイバーンと比べてアーマーサウルスどうなの?」
「あれよりはまだ弱いですね」
迷いもせずミレーアはそう言い切った。
「あれに関してはある意味例外だ。あれは影響を受けたのではなく特殊な異獣が寄生したことによる変異だったからな」
「寄生……そんなのもいるのか」
「稀にそういった特殊な個体が出ることがあると聞いたことがある。本体はそれほど強くは無いがそういった何かしらの特異な能力を持つそうだ」
ますます異獣という存在が分からなくなるというのがミレーア達の感想である。実際のところ説明していたアギトも異獣のことを詳しく分かっていない。おそらく全てを知っているのはミレーアの師匠と異獣達が元々いた世界の幾人かだろう。
「……言いたいことは分かるわ」
ミレーアがアレクシアの方を向くと彼女も詳しいことは知らないといった様子だ。王宮で会うこととなった聖獣も異獣の一種であると説明を受けたしフューアも異獣の一種だ。どちらも殆ど行動原理が野生の生き物と大差ない異獣と違い聖獣は会話が出来る程理知的であり、ミレーアと一時的に融合するという能力はあるもののフューアはペットとも言える状態だ。
「こうやって深く関わってくると異獣とは何のか本当に分からなくなりますね」
ミレーアがそう感想を漏らした。そして、それは此処にいる者達に全員が抱く考えの代弁でもあった。
「痕跡の近くまで来たが今のところは何も無いな」
アギトの案内で彼とリナが見つけた異獣もしくは異獣の影響を受けた魔獣の痕跡があった場所の付近までミレーア達は来たが拍子抜けする程何もなかった。
「そうですね。近くにそれにそれらしい反応も……」
そこまで言いかけてミレーアは言葉を止めた。ミレーアの感じた通りそれらしく反応は何処にも無い。それどころかよくよく感じ取って見れば他の生き物の反応すらない。流石にこれはおかしいとミレーアは気づいた。どんな場所であろうと僅かでも生き物を気配はある。それが今、ミレーアが感知出来る範囲内には小さな虫の反応すらないのだ。
「……変です。この周辺に小さな虫の気配すらありません」
「何だって?」
リュウは近場の大きめの石を蹴り退かし確認するとそこにはミレーアの言った通り虫の一匹すら存在していなかった。
「いやに静かだと思ってたら、そうかこの周辺に生き物が一切に存在していないからか」
一同が周囲の様子を窺えば鳥の自然豊かにも関わず鳥の囀り一つ聞こえないことに気づいた。明らかな異常事態であり、此処に何かがあるのは明白と言えた。警戒しつつも奥へ奥への進んでいくミレーア達は
森の中で不自然に開けた場所を見つけた。入念に観察しみればそこは明らかに土を掘り返したような痕跡があったことから何らかの手が加えられて作られた場所と考えられた。
「広さから考えれば此処を住処にしていた何かは相当な大きさだと考えられるな。……あの時、討伐したドラゴンくらいの大きさか?」
「そのくらいかもね」
「だろうな」
リュウの推測に肯定するエリアルとハロルド。ドラゴンは強さだけではなく個体数も少ないことからそれなりに討伐機会があるワイバーンに比べて滅多に討伐依頼が出されることがない。冒険者達にとってもドラゴンの討伐は目指すべき目標でもあるがその危険性故に無駄な被害者を出さないためにも依頼は冒険者ギルドの厳格な審査の後の指名依頼のみため、依頼が受けられるだけで運が良いとされる程だ。
「……やはり此処にいた何かは異獣の影響受けた可能性が高いな」
何かを入念に調べていたアギトは何かを見つけ一同に見せた。
「これは歯だな……此処に住んでいた何かが落としたもの?」
「形状からして哺乳類系統の魔獣ね。確かこの周辺に住んでいたのは……」
「……!! 上です!!」
何かに気づいたミレーアが上を見て叫ぶと他の者達も自分達に襲い掛かろうとしていた襲撃者に気づいて急いで対応した。振り下ろされる腕を躱し林の中へと逃げ込むと周辺を警戒しながら情報共有を行った。
「見たか今のは?」
「見ました」
「確かにあれはこの森に棲んでいたね。ただ明らかにサイズが巨大化していたけど」
「しかも本来な筈の部位もあったようにも見えた。異獣による影響で生えたのか?」
「可能性は高いな」
先程自分達を襲撃してきた魔獣を見て話し合う一同。魔獣はその巨体故に林の中には入れないため上から様子を窺っているようだが痺れ切らせれば何をして来る未知数だ。
「戦うにしてももう少し開けた場所が良いな……相手を誘導しつつ平野に出よう。ミレーアは探知であれが追跡しているか確認てくれ」
「分かりました」
方針を決め平野へと移動するミレーア達。すると頭上から何かをバキバキと破砕するような音が聞こえると頭上から魔獣の前足部分がミレーア達に向けて振り下ろされた。それをミレーア達は左右分かれて躱すと前足はそれ以上探ろうとはせず直ぐに引っ込められた。
「用心深い魔獣みたいだな、厄介だ」
あのまま前足を動かし左右に動かして辺りを探ろうとする動いたならば剣で切り付けるつもりだったが、それを用心したのか魔獣は直ぐに腕を引っ込めた。それだけで魔獣が一筋縄ではいかない相手であることをリュウは察した。このまま平野まで引き付けられるのか心配になったがそこは賭けとなった。
「もう直ぐ平野だ!!」
ミレーア達が此処まで駆けている間にも何度か腕が振り下ろされたがそれを誰一人欠けることなく彼女達は回避した。開けた場所に出るとそれを待っていたと言わんばかりに再び頭上から魔獣の前足が振り下ろされるがそれを回避すると同時にリナが弓で魔獣の顔を狙い定め矢を放った。
「止まらないか!!」
矢は直撃したものの勢いは止められず振り下ろされた。それを躱しその場から離れるとミレーア達は改めて敵の姿を確認した。ドラゴンに匹敵する巨体に鋭い牙と黄色と黒の縞模様の毛皮。それは大きさを除けば虎の魔獣で間違いなかった。但し大きく異なっている点が一つだけあった。
「やはり翼を持っているな。見た目は大きさを除けばフォレスト・タイガーだがあんな翼は存在していなかった。やはりあれが異獣の影響によって生えた部位か」
「前回戦ったアーマーサウルスは本来持ち得なかった炎や氷を扱う力を持っていたがフォレスト・タイガーは純粋に身体能力強化といったところだろうな」
「話は後にした方が良いみたいよ。フォレスト・タイガーの方は何時でも準備は万全のようだし」
アレクシアは剣を抜きフォレスト・タイガーに向けて構えた。確かに考察することは後でものんびりと出来るとリュウ達は気を引き締めそれぞれの得物を手に持ち構えた。
「フューア準備は良い?」
「みゅあ!!」
ミレーアも最初から全力で行くつもりなのかフューアとの融合を行った。
「ガァアアアアアア!!」
フォレスト・タイガーの咆哮が軽い衝撃波となりミレーア達に叩きつけられるがそれで怯むような彼女達は無く飛び掛かって来るフォレスト・タイガーを迎え撃つのだった。




