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第九十七話 縄張り

「それで今日は何処行くんですか?」


「今日の行く場所は此処だな」


 ミレーアの問いにリュウは開かれた地図上の一点を指差した。ミレーアの頭の中に既に周辺の地理は頭に入っておりそこに何があるのか直ぐに分かった。


「確かそこは回復ポーションに使う材料が多く自生している場所ですよね。そこに何かあったんですか?」


 回復ポーションの素材は常に需要があり、教会が何時でも買い取りを行っている。それに故に小遣い稼ぎにと近場を通った冒険者が摘みにいくことが多い場所である。

 それもあってその付近は比較的安全な道でもあった。


「数日前からそこを通った冒険者が数パーティ行方不明になっている。あの付近は高位の冒険者も通ることもあって周辺の危険な魔物は殆ど狩られているんだが、行方不明になった冒険者パーティのうち一組はそれなりに名の知れたパーティなこともあって何かが潜んでいるじゃないかと噂になっている」


 そこまで聞けばミレーア達もだいたい察したがついた。そこに潜んでいるのがただの魔獣ではない可能性は十分高いだろう。ましてや危険な魔物が殆ど狩られた場所で名の知れな冒険者パーティが一人も逃げること適わず行方不明となればいるのはかなり強力な異獣、もしくはその影響を受け変異した魔獣の可能性が高い。


「下調べはしたいが生半可腕前ではおそらく生きて帰ることすら不可能だ。で、それなら最初から対応できる腕前を持つ俺達が行くことになったわけだ」


「あまり気は進まないが他に手段は無いか」


「みたいねぇ」


 ハロルドとエリアルもそれ以外の案は浮かばず賛成した。


「なら俺が先行しよう。こういったことは慣れているからな」


 アギトがそう提案した。アギトの鎧の中には大量の魔導具があるためにそういった隠密に向いたものが幾つかあるのかもしれない。


「……なら頼む。やはり現地の情報が何一つ無いのは避けたい。ただ流石に一人というのは何か不測の事態があった時に不味いだろうからもう一人は欲しいな」


「ならリナが一緒に来てくれ。狩人としての知識と彼女の機動性なら何かあった時に離脱出来る筈だ」


「リナはそれで良いか?」


「大丈夫です」


 アギトの推薦にリュウはパーティリーダーとしてリナの意志を確認すると彼女のはそれを清く引き受けた。ならこれで話は終わりとなるが最後にリュウはこの場にいて一言も話さず静観していた最後の一人に視線を向け口を開いた。


「これが私共の案になりますがよろしいでしょうか?」


「最初にいった通り私は冒険者としての実績はあなた達よりも下。だから判断はあなた達に一任します」


 冒険者姿に扮したアレクシアはそう答えた。実際に彼女は偽名ではあるが冒険者として登録されており、実績も十分積んでおりランクとしてもリュウ達と同行しても問題無いレベルだ。実はリュウ達がアクレクシアと組んだことは過去にあり、正体もその時に知ったのだ。


「武器はあの時にものじゃないんですね」


 アレクシアが帯びている剣が共闘した時にミレーアがヘファートスから預かり渡したものじゃないことに気づきそう口にするとアレクシアはあれが持ち出せなかったことが不本意だったのか何処か拗ねたような声音で答えた。


「私もあれを使いたかったのよ。ただ威力が強すぎるってことで父上から待ったがかかったの」


 アレクシアの父親、つまり国王から威力が強すぎるから使用に待ったがかかった剣と聞いて実物を見ていないリュウ達は何だそれはっという表情となり、その威力を目の当たりにしていたミレーアとリナは納得しかなく剣に使った素材を考えればその程度は当然かとアギトは考えた。


「もしかして目の前で使ったんですか?」


「報告は必要ですから。あまりの威力に検証に来た宮廷魔法使いと一緒に唖然とした表情になっていましたが」


 その時のことを思い出したのかクスリと笑うアレクシアだった。





「どう? 反応はあるミレーア?」


「今のところは何も感じないですね。アギトさんとリナの合流地点もう直ぐそこですよね?」


「このまま何もなければそうだな」


 先行したアギトとリナから緊急の知らせは無く、ミレーアの探知にも今のところ異獣かそれに類する何も引っかかっていない。そのため、現状では危険は無いと言えた。するとミレーアの探知に興味があったのかアレクシアが尋ねた。


「それは何処までの範囲が分かるのかしら?」


「範囲としてはあそこに生えている木くらいですね」


 ミレーアが遠方に生えている木を指差すとアレクシアは「へぇ」っと関心するように呟いた。


「素晴らしい索敵範囲ね。……この騒動が終わったら王宮に招きたい程よ」


 彼女の持つ広い索敵範囲と既に見ている回復魔法の腕前。それだけでもミレーアの価値は十分である。


「む……それは恐れながら私共の異議を唱えたいですね。私共も彼女の勧誘しようと狙っているので」


「モテモテだね。ミレーアちゃん」


「アハハ……」


 ミレーアとしてはこのままで良いのだがどうにも逃げられそうにもない状況になりつつあるため、落ち着いたら今一度今後のことをリナと一緒に考えよう思った。


「……反応が二つあります。リナとアギトさんです」


 ミレーアの言葉にそれまで和気藹々としていた雰囲気が瞬時に無くなり、リュウ達は真面目な表情となった。しばらく一同は黙ったまま辺りを警戒しているとリナとアギト二人が現れた。


「どうだった?」


「痕跡はあったが異獣自体は発見出来なかった。狩りの為に出ているのか警戒し隠れているのかは不明だ。深入りし過ぎても危険と判断して切り上げてこうして合流することにした」


 アギトの報告にリュウは今後の計画を練る。ベストだったのは無論、対象を捕捉することだがアギトの言うように迂闊に深入りしすぎて退却するタイミングを読み間違えて情報を何一つ持ち帰れなければそれこそ本末転倒である。冒険者でも斥候が引くべきタイミングを見誤り深入りしたことで帰る事がなかった話など稀にある話だ。そう考えれば間違いなく居るという痕跡を見つけその情報を持ち帰っただけでも上出来と言えた。


「今のところ異獣の反応はないです」


 ミレーアは周囲に敵がいないことを報告する。リュウ達も周囲を警戒するが目視できる範囲内には敵は見当たらなかった。


「ミレーアには済まないが探知は頻繁にやって欲しい。見通しの悪い場所で奇襲されれば一瞬で全滅する可能性もある」


 少し前に戦った異獣の影響を受けた魔獣の戦闘能力を基準にして考えたリュウはそうミレーアにそう指示した。


「分かりました」


「それで今までの目撃証言も踏まえて何処へと向かったか考えよう」


 地図を取り出した広げたリュウは今の現在地を指で示した。


「……なら痕跡があったのはこの位置だ」


 アギトは自分が見つけた痕跡の位置を指差すとそれを元にリュウ達は今までの目撃証言から相手の行動を予測することとなった。


「被害が多いのはこの周辺だ。……痕跡の位置と他の被害報告から考えれば此処を通ってこのルートで徘徊していると思うがどうだ?」


 リュウは自分の思いついたルートを指で地図上をなぞると他の者達にも意見を求めた。ハロルドとエリアルからは反対意見は無い。しかし、目撃情報と痕跡の位置から何か不自然に感じたのか狩人でもあるリナが何処か納得いかないような表情だ。


「リナ、何か意見があるのならどんな些細なことでも遠慮なく言ってくれ」


「……この討伐対象なんですか此処を巣とした場合、日を追うごとに目撃場所が巣から遠ざかっていませんか?」


 リナの言葉に驚いてリュウ達はもう一度、地図を見直した。痕跡から巣と思われる位置を中心とすればリナの言う通り目撃場所が日を追うごとにどんどん巣から遠ざかっていた。


「確かにそうだが……もしや強力な力を得たことで縄張りを拡大しているのか?」


 魔獣や魔物も強い個体程縄張りが広く持っている。件の討伐対象が力を得たことで縄張りを広げるのは魔獣や魔物の生態から見れば特段おかしいことではない。


「……あれ、でもそうすると」


 何か疑問に思ったのかミレーアが口を開いた。


「何か気になることでもあったか?」


「異獣の影響を受けたと思われる魔獣や魔蟲に王都に来る前に戦ったことがあるんですが、どちらも前情報もなしに唐突に現れたと思って」


 ミレーアとリナが出会ったのは土を魔法で身に纏い攻撃に利用した魔蟲の群れと亀の魔獣に寄生した吸血植物だ。どちらも唐突に現れミレーア達はそれらしき情報は街で一度も聞いたことがなかった。


「……縄張りを広げているのではなく、縄張りに固執しなくなっているのもしれん。おそらくは今は魔獣か魔物の生態に沿って行動しているがさらに浸食進めば捨てて各地を放浪し始めるかもな」


 アギトの推測にリュウ達は顔を顰めた。前回戦ったアーマーサウルスはまだ浸食の影響が少なかったことでそれ程縄張りの外に出ようとはしなかった。今回に相手はその浸食がさらに進んで相手であり、アーマーサウルスよりも強力な個体になっている可能性がある。思った以上の深刻な事態にリュウ達はどうするべきが改めて相談するのだった。

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