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第九十六話 戦う理由

「な……成程そうきたか」


 王城から戻ってきたミレーアは早速アレクシアの出した案をリュウに伝えた。それを伝えられたリュウの顔は引き攣っており余程驚愕する内容だったことが伺えた。無論、王族の案ともなれば高ランクであるとはいえ一介の冒険者でしか過ぎないリュウではそれに意見することは出来る訳がなかった。


「ああ、くそ!! だったらいろいろと用意しないとな!!」


 ガシガシと右手で頭を掻き悪態を吐くリュウ。幸い今し方ミレーアカラ聞いた話の内容は二人だけの秘密では無くパーティ内でなら共有して良い情報だった。そのためリュウはこの後、エリアルとハロルドにも相談し対策を考えるつもりである。


「ミレーアは今日は部屋でゆっくりしといてくれ。エリアルとハロルドの二人に相談して出た結論は明日話すから」


「分かりました」


 何処か慌ただしいリュウから離れ自身が冒険者ギルドから借りている部屋へと戻るミレーア。部屋に戻るとそこにはベッドの上でうつ伏せとなり王都で買った暇つぶし用品で遊ぶリナの姿があった。


「ただいま」


「おかえり~」


 手荷物を置くとドサっと部屋に備え付けられたソファに座ったミレーア。部屋に戻ったことで安心したのか一気に疲れが押し寄せてきたようだ。


「あはは、お疲れだね」


「そりゃあ、事前に心の準備は出来たとはいえ王族に会うとなればそれだけで疲れるよ」


 相手が誰か知らなければそういったことを気にすることはないが、まさか会ったことがある人物が王族など青天の霹靂である。あのまま何も知らずにいたかったと何度も思ったが、現実は変わらないため腹を括ったがそれでも終われば緊張の糸が切れたようだ。


「……」


 ミレーアは今日聞いた話を頭の中で反芻する。自身の師は何処まで見越していたかは知らないがこの世界で異獣による厄災が起こることを見越してミレーアに力を与えたのは間違いない。しかし、それは強制するものではなく飽くまで自身の意志を持って立ち向かわねければ力とはならない。故に王族も聖獣であるアイクもミレーアにこの先戦うことを強制はしなかった。戦わせるのを強制しても十全な力を発揮出来ないからだ。戦う意思を持って挑めば自身の力となるのは既に何度も経験済みだ。


「でもそれだけじゃ足りないかな」


「何が?」


 唐突なミレーアの呟きに反応したリナが聞き返すとミレーアは少し悩んだ後口を開いた。


「う~ん……リナは何で戦うの?」


「戦う理由……? そういえば考えたこともなかった。お金を稼ぐだけなら此処に来る必要性はなかっただろうし。なんか気づいたら凄く大変なことに巻き込まれててそのまま流れに流されてきちゃった感じだよね」


 不思議だと言わんばかりに神妙な表情となるリナ。ミレーアも自身の故郷を滅ぼした存在に同種ということもあり、積極的に関わってきたが考えてみればそこまで深く関わる必要性があったのだろうかと今更ながら思い始めたのだ。


「とは言っても此処まで関わって今更途中で降りるっていうのもね」


「まぁ、確かに。それに関わったからこその出会いもあるから……世の中って案外そんなもんじゃないかな?」


 確かにと思うミレーア。自身も故郷が異獣によって滅ぼされたあの時師匠があの場に居なければあそこで異獣に喰われていたに違いないだろうと思った。そして、その出会いがあったからこそ助けられた命も少なからずあった。少なくともあの街に来たばかりのころに治療したアランとレックスはミレーアがいなければ間違いなく命を落としていただろう。


「……いろいろなことがあっていろいろと難しく考えすぎてたのかも知れない。うん、もっとシンプルで良いだよね」


「そうそう、別に私達は国を守る兵士や騎士とかじゃないんだからね」






「あの子たちが王都にまで来たか。それにまさかあんな風に力を付けて来るとはね……あれなら」


 教会本部最奥にてマリアはミレーア達との戦いを振り返る。ミレーアのが異獣の幼体と一時的に融合することで異獣の持つ喰らう力を限定的だが扱えるようになったのはマリアにとっても想像の埒外だった。しかし、異獣の特殊性を考えればそういった方向性に進化するのもまた納得出来るものでもあった。


「っ……」


 豪華なソファに腰かけ休んでいたマリアは突然何かを抑え込むように右手で顔を覆った。


「私の方も限界が近い……そうだ。時期に主体は私となり自由にさせてもらう」


 マリアの口から先程まで声音は同じでも全く違う意思のようなものが感じられる口調が自身に語り掛けた。


「そう……みたいだね。それで自由を得て何をするつもりなの私?……知れたことそれは私自身が一番分かったいることではないのか?」


 自身の問いに何も言い返すことが出来ず黙ることしか出来ないマリア。マリアにもその気持ちは痛い程分かるからだ。片一方はそれを否定し片一方はそれを肯定した。しかし、それ故に自身の思いを肯定する彼女側が日に日に力を増し本来の人格である、マリア自身を蝕み始めていた。


「それでも私を止めることの出来る力は育っていた。……ならあとは妹弟子に託すしかないのが歯痒いかな。迂闊にもその妹弟子の実力を計るために戦ったことが浸食が早まることになったのは皮肉だけどね」


 ミレーアに力を喰われたことで自身を抑えていたマリア側の力が大きく減衰したことでその浸食速度が一気に加速した。正に致命的な手痛い失態だった。


「あの人の子孫にも迷惑をかけることになるけど……謝りようはないか。ならこちらに干渉し易いように手を打たないとね」


 マリアは当然、王族が教会に対する強制介入する条件も知っている。故にそれを円滑のするための方法も即座に思いついていた。






「よし、これでこちら側の根回しは全て終わった。あとは証拠さえ揃えられば教会に介入出来る」


 アレクシアは王宮での根回しを終え一息ついたこと自室に戻り一人休憩してた。椅子に座り優雅に心を落ち着かせるオリジナルブレンドの紅茶を飲んでいるとふと思いついたことを口に出した。


「それにしても調べても教会側に動いた形跡が見当たらないのが気になるわね」


 過去を紐解けば王国側が秘密裏に教会に介入しようとしたことも一度や二度ではないが、その逆も然りだ。どちらも決定的な証拠を残さずやっていることもあり大事にはなってはいないが、今回に件に関しては明らかに教会側が一線を越えこねない事態にまでなっている。


「でも、今の教皇にはそんな奸計を巡らす程の知略はない筈。そうすると怪しいのは初代聖女と同じに名を名乗るマリアの存在か」


  実際のところ王国側も教会側の内情を全て把握している訳では無く教皇が表向きのトップで本当に実権を握っている支配者が裏にいる可能性は十分予想出来ることだ。そして、そこに繋がるであろうのがマリアだ。そのため、現状その身柄を確保することが最重要だと言えた。


「まぁ、それは容易なことではないでしょうけど」


 話を聞いた限り実力は本物であり、未だその底を見せてはいないといいう。少なくとも英雄である祖王の妹弟子であることも考えればそれ相応の実力があるのは疑いようのないことである。おそらく難しい作戦になるであろうことを予想しながらアレクシアはそこで一度思考を棚上げし今はゆったりリラックスするのだった

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