第九十五話 聖獣
黙ってアレクシアの後ろをついていくミレーア。一体このまま何処に行くのだろうかと不安に思っていると開けた場所に出てた。
「此処は……」
王城の中にある自然豊かな中庭。その中心には大きな木が生えていた。明らかに王城よりも大きく普通なら王城の外からでも見えていそうだが王都に来てから一度もミレーアは見たことは無かった。一体どういうことだろうかと考えていると何を考えているのか察したアレクシアが口を開いた。
「此処はマジックバックと同じように空間が拡張されているの」
「……それは」
アレクシアの出した答えに唯々絶句するしかなかったミレーア。自分の使っている師匠からの貰い物であるマジックバックも容量が多く入ることから市場なら相当高価なものだと聞いている。ならばこの中庭全てが拡張された空間であるというならばそれを作るためにどれだけの労力が必要なのか想像もつかなかった。
「……ほう、珍しいな客か」
不意に声が聞こえたことでそちらに視線を向けると木の上から白い虎のような生き物が降りてきた。
「……っ!!」
急に肉食性の動物が降りてきたことに驚き身構えるミレーア。
「驚かせてしまったようだな……安心しろ敵意はない」
穏やかな声音でミレーアに語り掛ける白い虎にミレーアは戸惑っていた。言葉を喋る魔物は何種かいるが魔獣は存在していない。目の前の白い虎からは魔獣のような雰囲気は感じられず別の何かであるということは察したがミレーアには正体が一切に分からなかった。
「みゅあ!!」
ミレーアが困惑している彼女と共にいたフューアがいつの間にか白い虎の眼前まで近寄っていた。
「ほう……まだまだ若いが良き資質を感じられる」
「みゅあ!! みゅあ!!」
「そう急かすな物事には順番というものがるだろう」
何を言っているか分からないが会話するフューアと白い虎をミレーアは口を挟めずただ見ているしかなかった。ミレーアはふとアレクシアを方を見ると彼女は今の状況を楽しんでいるのか困惑しているミレーアを見て何処か楽しそうだ。
「ああ、すまないな。話が通じる同族に会えて思わず話し込んでしまった」
「……同族? つまりええと」
「ああ、私はアイク。察しの通りフューアと同じ君たちの言う異獣と同じ存在だ。表向きは聖獣と言われているがね」
「異獣が聖獣……? すいません。一度に情報が多すぎて一体に何が何のか……」
一度情報を整理したいと思うミレーア。
「ふむ、その前に確認したいことが一つ。君の師とやら貰ったものを見せてもらいたい」
「師匠から貰ったものですか?」
どれだろうかと思いマジックバックに入っているものを出していくミレーア。
「ああ、それだな」
ミレーアが取り出した師匠から貰った武器である通称「クギバット」がアイクの目的のものだったようだ。
よく観察すれば木の棒に刺さっている牙の形状がアイクのものによく似ており、ミレーアは自ずとこの牙が誰のものか察した。
「もしかしてこれに刺さっている牙は……」
「それは私の若い時の牙だ。そしてその木の棒はこの聖樹の枝だ。それにしても随分と野蛮な武器にしてくれたものだなあの傭兵は」
最後の愚痴にように呟くにはミレーアも同意しかなかった。実際、ミレーアから見ても明らかに禍々しい形にしか見えず漂う雰囲気と見た目が全く一致していなかった。
「まぁ、それは良いとしてそれを持っているならば君は君の師匠にこの世界で起こるだろう問題の解決を託されたということだ。これからは長い話になりそうだ」
始まりは祖王の時代。伝承では魔獣、魔物の王とされるこの世界で唯一サードフェイズにまで至った異獣を倒した時まで遡る。祖王と初代聖女によって滅ぼされ遺体が残った。しかし、残された異獣の遺体から異獣が発生する何らかの力が因子が漏れ出していた。遺体を何らかの方法で処分すれば因子は一気に拡散し世界中で異獣が発生することとなる。それを防ぐために迂闊に遺体を処分することが出来ず聖女の提案によって地下深くへ埋めその上に教会本部を建てることとなった。
「どうしてそこに教会の本部を?」
「知っている或いは気づいているかもしれないが我々が発する力は人間も利用できる」
「あ……」
アイクの言われてその意図にミレーアも気づいた。回復魔法に適性がある者が先ず教会本部へと送られそこで修行することになる。ミレーアのように稀にいる在野の回復魔法使いは彼女を除いて低級の回復魔法しか行使出来ず、過去には聖女になった貴族の娘から齎された情報を元に適性ある者を教育したがそれらが全て無駄に終わったと聞いたことがあった。それらの理由が教育では無く特定の土地が起因するものなら全て説明がついた。
「そうすることで異獣が生まれる下地を回復魔法が使える者を育成することで消費し、新たな異獣が生まれない下地を作った。だが此処最近はそのバランスが崩れたのか異獣の発生が見られ始めた」
「教会で何かかが起きているのは間違いない。教会には取り決めあって国王陛下ですら迂闊に手を出せないけど、何かあった時のために強制介入する権限はある。後は決めてさえあればそれを使うことだ出来るだけど」
「そういえば師匠とはどういう関係なんですか?」
「記録には残されていないけど祖王及び初代聖女の仲間であり師である「傭兵」とだけ王家には伝わっているの。教会の方でも教皇は知っている筈よ」
アギトからも散々人ではないことを強調されていたが、この国が建国される前に存在していたとなればミレーアには益々その正体が分からなくなった。
「そういえばもう一人姉弟子がいましたね。教会に所属しているみたいですけど何度か襲撃されました。実力も相当で私単独ではまず勝ち目が無いくらいには強かったです」
「……何ですって?」
初めて齎された情報にアレクシアは反応した。教会の上層部や実力者はアレクシアは大部分は把握しており、ミレーアの姉弟子の上に彼女自身が実力で敵わないと認めていることから相当な実力を持っているのが伺えた。今まで裏方に徹して表に出ていなかったとしてもそれだけの実力の持ち主の情報や痕跡が一切無いのはあまりにも不自然過ぎた。
「名前は分かっているの?」
「マリアと名乗っていました」
「マリア……」
その名を聞いて信じられないと言わんばかりの驚愕の表情を浮かべたアレクシア。
「知っているんですか?」
「知っているも何もその名前は初代聖女と同じ……偶然にしては出来過ぎている」
ミレーアもそれを聞いて驚愕せざるえなかった。アレクシアの言うように偶然にしては出来過ぎてるからだ。しかし、人間の寿命を考えれば本人であることは先ずあり合えないため、別人であることは確実だろう。
しかも初代聖女と同じ名を持ちそれ程までの実力を持つならば教会が大々的に祭り上げない事にも違和感があった。
「これは直接あって確かめる必要がありそうだけど……こちらから出向いて問い質してもしらばっくれるのは目に見えている。何か方法を考えないとね」
「向こうは私を狙って襲撃してきていますが……いつどのタイミングでかは分かりません。しかも一回は他人の体を乗り移って襲撃してきました」
「乗り移るだと?」
それまで話を黙って聞いていたアイクがミレーアのその言葉に反応した。
「あ、はい。その教会にいる回復魔法が使える女性でしたが」
「……そうか、つまりはいや、だが……」
「何か心当たりがあるのアイク?」
様子のおかしいアイクにアレクシアが聞くがアイクの方は少し難しいそうな表情をしながら自身の推論を話し出した。
「乗り移るということは何らかの形で対象とリンクしていなければ不可能だ。問題はそれを何処で行ったかだ」
「回復魔法が使えるとなれば可能性が高いのは教会本部……だけどピンポイントでそんな処置は出来るとは思えないから回復魔法が使える全員とリンクが可能と考えるのが自然。それが可能となり尚且つリンクが施せる方法となれば」
自身の考えを纏めているうちにみるみる顔色が悪くなっていくアレクシア。彼女もアイクの思い至った同じ最悪の結論に行きついたのだ。
「回復魔法使いを育成する傍らで自分が乗り移れる依り代にしていた。あそこにあるものを考えれば手を加えれば可能かもしれない。だけど……何時からそんなことを? それにそれをする目的も一切に不明ね」
ミレーアを狙ってというには彼女が師と出会ってから行動を起こしたとしても明らかに時間が足りなさすぎることから本当の狙いは別にあったと見るべきであるとアレクシアは考えた。しかし、本当の目的が情報が少なすぎる現状では不透明だ。ならばどうするか考えたアレクシアは一つの案を考えたのだった。




