第九十四話 王城
「さてと、辿り着いたのは良いけど……誰もいないみたいだね」
黒髪の少女が建物の前に辿り着くと中の気配を探り誰もいないことを確認した。残された残滓からそこそこの間、この住居に戻っていないことが分かり彼女はどうしたものかと考える。別に後回しにしても彼女としては良いのだが折角此処まで来てまた確認のために戻って来るのは面倒くさいなどと考えていると後ろから声をかけられた。
「そこの鍛冶師なら少し前に死んじまったぞ」
「……そっかぁ。それは残念」
話を聞いた黒髪に少女は少し残念そうな表情となった。死んだことにより武器を作ってもらえなくなり落胆すると考えていたため、彼女に鍛冶師が死んだことを教えた男性は予想と違う反応に少し拍子抜けしていた。
「それならもう一つの目的の方をついでに聞いてみようかな。この街にミレーアっていう子は来てなかった?」
ミレーアはこの街では回復魔法が使えるということでそこそこ有名であった。黒髪の少女に話しかけた男性はここ最近は街で見ていないことを教え、気になるなら冒険者ギルドに行くことをオススメした。そして、冒険者ギルドでミレーアの動向を聞くと又もや予想外なこととなった。
「あちゃぁ~まさか王都方に行っててこの街には今は不在とはねぇ」
街での情報収集も粗方終わり休憩と言わんばかりに黒髪の少女は飲食店にいた。
「街での襲撃とそこで現れた魔獣、魔物を率いていた異様なワイバーン。まぁ十中八九あれの仕業で間違いないけど何か妙な感じするんだよねぇ……行ってみれば全てが分かるだろうから考えても仕方がないかなぁ」
黒髪の少女は自分の知る情報から今この世界で起こっていることを何通りか考えるが、最終的には考えるのが面倒になり直接確かめるのが一番手っ取り早いという結論となった。食事の前に難しいことを考えるのは消化に良くないと思い考えるのを止め、頼んだものが運ばれてくるのを楽しみながら待った。
「それにしてもこういった風景は何処も同じだねぇ」
チラっと黒髪の少女が視線を向ければ依頼が早めに終わったもしくは遠出から戻ってきた冒険者が昼間から酒を飲みワイワイと騒いでいた。すると横を通りかけた男性が何かに気づき声をかけてきた。
「ん? 見ない顔だな最近この街に来たのか?」
「此処に来たのは久しぶりかな。知り合いに会いに来たけどどっちもいなくて会えず終いってところ」
「あ~前にあった街への魔獣、魔物襲撃の後で此処近辺の魔獣、魔物が殆どいなくなった時に此処を拠点にしていた冒険者が結構いなくなっちまったからな。その中にいたのかもしれないな」
「ん~一人は亡くなってみたいでもう一人は何か冒険者ギルドの要請で王都にいったて聞いてる」
男性は心当たりがあったのか確認するように黒髪の少女に聞いた。
「王都にいった……もしかしてミレーアちゃんかリナちゃん、アギト三人のうちの誰かか?」
「アギトも此処に来てたんだ……私が会いに来たのはミレーアだね」
「……もしかしてあの子の言っていた育ての親兼師匠で間違いないか?」
「合ってるね。……もしかしてあの子の知り合い?」」
自身とミレーアの関係を知っていたことからそれを話す程親しい相手であるということに気づき確認すると彼は命の恩人だと答えた。
「ミレーアが街に来たばかりの頃に運よく助けられてな。あの時、あそこにミレーアがいなかったら今頃。俺はこの世にいなかっただろう。そういう意味でいったらミレーアを育てた……そういえば名乗ってなかったな。俺はアランだ」
「あ~ならミラーと名乗っておこうかな」
妙な言い回しでミラーと名乗った黒髪の少女。会話の内容から偽名であることは直ぐに察せられたが偽名を名乗るということは何かしらの意味があるため、下手に突っついて藪蛇になることを避けるためにアランは敢えてそれ以上の追求はしないことにした。
「ならミラー、あんたがミレーアを育ててくれたおかげで俺は助かったようなもんだ。そういった意味ではあんたも命の恩人であることに変わらない。だから有難うと一言言っておきたかったんだ」
「律儀だねぇ……ま、だったらお礼代わりにいろいろと情報を教えて欲しいだけど」
「話して問題ない範囲のことならいいぜ」
ミラーはアランの立ち振る舞いからそこそこ上のランクの冒険者であることを察し、今必要な情報をある程度入手出来ると踏んでそう話を持ち掛けるとアランは最低限のラインだけ引いた。最初に聞いたのはこの街や近辺で起こった事件の類だ。街の地下に侵入した異質な生き物のちの異獣が初めて確認された事件。街外れで発見された遺跡。そして街に大量に襲撃してきた魔獣、魔物の群れ。そのどれもにミレーアが深く関わっていたことだ。
「俺から話せるのはこれくらいだな」
「話してくれて有難う。この短い間にあの子はいろいろな事件に巻き込まれているみたいだね」
呆れたような声音では無く、何処か感心しているような声音でミラーはそう感想を漏らした。すると丁度良いタイミングでミラーが頼んだ料理がウェイトレスによって運ばれてきた。
「どうやら話は此処までのようだな。ゆっくり味わってくれこの店の料理はオススメだからな」
そういってミラーから離れるアラン。
「あれが彼女の師か……凄まじいな」
ミラーから離れ店から出たアランの元にマイルズが近寄ってきた。どうやらミラーとアランが話しているのを何処からか見ていたらしい。そして直接話していたアランもマイルズと同じ感想をミラーから感じていた。
「一見隙だらけだが何処から攻めても勝てるどころか痛打を与えられるビジョンすら浮かばなかった。だからなのか見ない顔なのもあって思わず声を掛けちまった」
「ああ、ミレーアを育てただけあって相当な実力者であるのは間違いない。ただ……」
「ただ……?」
「いや気のせいだろう。何でもない。……冒険者ギルドで久々に大物の依頼が出ていたがどうする?」
「お!! 良いね。俺は受けることに賛成だ」
マイルズは自分が感じた違和感を気のせいだろうという結論にし、話題を逸らすように先程冒険者ギルドで受けるのを待って貰っている依頼について口にした。久々の大物ということにアランは興味を持ったようだ。冒険者ギルド側も近辺の魔獣、魔物が殆どいなくなった時はどうなる事かと心配していたようだが周辺の生態系が元に戻ろうとしていることを確認出来たことで、街が元の活気に戻るのはそう遠くない未来であることに安堵していたのだった。
「うう……何でこんなことに」
「みゅぁあ……?」
珍しき弱気の発言をするミレーア。エリアルの上級回復ポーションを作る提案をリュウ達に話した結果、エリアルの提案に賛成となりミレーアは上級回復ポーション作製したのだがこれ自体は豊富な魔力を持つ彼女にとって苦でなかった。問題だったのはその後の予定だ。何とミレーアは王城に呼ばれてしまったのだ。提案者はアレクシアであり、顔を知っていたのかエリアルもそれを飲むしかなくただの冒険者でしかないミレーアからしてもアレクシアの正体は知らないもの相手が上級以上の貴族だろうと予想はしていた。
「それにこんな良い服も着たことないし……汚したらどうしよう」
王城に入るのならそれ相応の身嗜みが必要となる。そのため、それらも貸し出しとして用意されたのだが普段着なれない衣服を着ることとなったため、ミレーアは落ち着かなかった。とりあえず最低限の礼儀をエリアルから叩き込まれ及第点を貰い登城することとなった。流石に正門ではなく裏口から許可証を見せての登城ではあったが。
「では私が案内しますので後ろから付いてきてください」
騎士と思われる男性が先導し案内されついていくミレーア。何も言わず黙ってついていくミレーアは今から誰に会うのだろうか内心で気が気でなかった。他の貴族なら自身の屋敷に呼ぶだろう。態々王城に呼ばれたということはそういうことだろうと流石に察し始めていた。そうして、しばらく歩いていると護衛と思わしき騎士が立った少し豪華な扉の前へと辿り着いた。
「どうぞ」
護衛と思われる騎士が扉を開けミレーアは緊張した面持ちで扉を潜った。
「時間通りに来たようね。ああ、挨拶の必要はないわ。公式の場ではないし、直ぐに此処から移動するからね」
「は、はぁ」
エリアルに教えてもらい必死に練習していた礼儀作法を必要ないとアレクシアに言われて拍子抜けするミレーア。直ぐに移動すると言った通り立ち上がったアレクシアは何か操作するように手を動かすと床の一部が開き階段が現れた。
「本来は王族しか入れない特別な場所なのだけど今日は特別。ついていらっしゃい」
先導するアレクシアの後ろをついていくミレーア。これから何が起こるのかより一層緊張した面持ちとなるミレーアだった。




