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第九十三話 再会

「とりあえず報告は終わった。討伐したアーマーサウルス変異体の体の一部はギルドに引き渡した。まぁ、話をしたら全身が欲しかったと言われたが状態を説明したら落胆されたな」


 専門家に渡し研究するなら確かに状態の良いものが欲しいのも分かるが、直接戦ったリュウ達からすれば無茶を言うなという話である。そのため、冒険者ギルドの職員は多少の愚痴は言いつつもそれ以上は何も言わずつつがなく手続きは終わった。


「それでもう一つの方はギルドマスターに伝えたがまぁ、どうにか出来る可能性は低いそうだ」


 リュウの言葉にハロルドとエリアルはやっぱり駄目だったかと溜息を吐いた。実際に捕まえたなら兎も角、逃げ果せるというよりも向こうが満足したことで見逃してもらえたという現状では証拠は何一つなく仮に冒険者ギルドが抗議したとしても言いがかりだと言われるだけである。


「まぁ、終わったことでこれ以上は悩んでも仕方がない。一応、今日の目的は果たしたから明日から本格的な調査を行うことになる。だから皆は明日に備えて英気を養っていてくれ。ただアギトはこの後話がしたいから残ってくれ。それでこれが今日の依頼報酬だ」


 リュウは今日の依頼で受け取った報酬を等分に分けた袋を分配した。それを受け取ったミレーアとリナは早速食事に行くことにするが変な虫が寄って来るといけないとエリアルが付き添うことになった。王都に詳しいこともあり、お勧めの店を紹介し入店すると直ぐに注文することとなった。


「そういえば二人は良い人……あ、ごめん。今の無し」


 失言だったとエリアルは直ぐに言葉を撤回した。そんな相手がいたら既にパーティを組んでいると考えたからである。尤もこの二人の現状のランクに不釣り合いの強さでは声を掛けて来るのは上のランクの年の離れた冒険者が大半であり、同年代が声をかけるのは難しいかもしれない。


「あ~いないですね。いろいろあって今は足はこれですから」


「私も師匠がいなくなってから街に来て知り合いはいませんでしたし、来てからも異獣関連で慌ただしかったですし」


 ミレーアとリナの二人はあははっとエリアルの失言を気にしていないといった風に言葉を返した。しかし、それを聞いたエリアルは何とも言えない表情となってしまったことで自分達が失敗したことを察した。


「……とりあえずこのまま話を流しませんか? このままだとご飯が運ばれてくる時も暗い顔になってしまいそうですし」


「そ……そうだね!! それじゃあ家族について……」


「あ~」


 ミレーアの事情を聞いているリナは気まずそうに眼を逸らした。それでまたしてもやってしまったことをエリアルは察した。一度、咳払いをすると何か話題になるものはないかとエリアルは考えた。


「あ、ならエリアルさん達の冒険で見つけた良いものとか教えてください」


 とミレーアが案を出すとリナとエリアルもそれに乗っかることにした。


「あ~なら一番最初に見つけた良いものは……」


 三人は頼んだものが来るまで楽しく語り合うのだった。






「それで聞きたいことは汚染のことか?」


「ああ、聞かなかったことにするには流石に無視できない物騒な単語だしな」


 リュウの言葉にそうだろうなアギトは内心で呟いた。汚染という言葉だけ見れば危険極まりないものにしか思えないだろう。実際に恩地を受けたミレーアやリナなら兎も角まだその恩地も受けていないリュウからすれば危険視するのは当然と言えた。


「汚染と呼称されているがそれは本人がそう呼称しているだけで実際のところは良く分かっていないというのが現状だ。ミレーアの異常の身体能力はその影響でもある。あのアーマーサウルスは何らかの理由で暴走していたようだがな」


「肉体に変化を齎すということか……単純な身体強化だけなら冒険者が危険を顧みず跳びつきそうだが」


 このことを公開すれば少しでも強くなりたいと考える体が資本である冒険者達がその方法を求めるだろうというのがリュウには容易に想像出来た。ただ世の中そうした甘い話ばかりではない。何らかのデメリットがあるのは必然と言える。


「問題点は?」


「過剰な力を引き出すことによる肉体の負荷だ。肉体強度を超えた力を引き出せばその反動で体が崩壊することになる。ミレーアは自分に回復魔法を使うことで実質踏み倒しているがな」


「つまり実質的にはミレーアにしか使いこなせないということか?」


「いや、体の強度を見極め力を引き出せばその力によって肉体強度も上がるからミレーア程の速度ではないが強くなり続けることは可能だ」


「戦えば戦う程強くなる、か……まるで夢のような話だな」


 全ての冒険者最大の壁である成長の限界が実質なくなるようなものだ。問題点も注意さえすればそれ程気にするものではない。寧ろその程度の見極めが出来ないのなら冒険者としても大成することはまず無いだろうというものだ。


「それで他に何か聞きたいことはあるか?」


「あのマリアという人物についてはどう思う?」


 森で自分達を襲撃してきたマリアについて意見を求めたリュウ。あれだけの実力者が今まで無名だったのも怪しいのに教会と関係があることもミレーアとリナから情報として得ている。そして、ミレーアの姉弟子であるということからその強さに関しても合点がいくものだ。ただ実際のところもう一つ見逃せない報告をエリアルから聞いているリュウは敢えて要点を省いて聞くことでアギトがそれに気づいているのか探った。


「俺は探知は使えないが正体ならミレーア達が最初に遭遇した時点でその場にエルフがいたらしくそこで聞いたそうだ」


「エルフに……? おいおい、まさかそんな大事のことなのか?」


 人前には滅多現れることのないエルフが知っていたという事実にリュウは内心で驚愕しながらも努めて冷静に聞き返した。


「そうだ。そして王族もおそらくは何か知っていると見るべきだ」


「はぁ……一国民には大きすぎるぞ話が。だが他に頼む冒険者も少ないのも事実か」


 現在王都周辺で活動している冒険者の中でもリュウ達は実力及び冒険者ギルドからの信頼が高く今までも秘密裏の依頼を受け達成してきた実績もある。そうした実績から今回の依頼も彼らに来たのである。尤も想定よりも厄介な事案であることが判明し、この依頼を受けたことを少しだけ後悔していた。


「まぁ、その辺りは裏取りをしなかった俺達に落ち度でもあるか」


 ただ仮に裏取りをしたとしても正しい情報が見つかることはないだろう。この一件はそういった類のものだ。それに誰かが関わらなければ被害は増える一方でもある。


「まぁ、やることは変わらないか。いつも通りにやれってことだろうな」


 特に細かい指示が冒険者ギルドから来ていないということはそういうことだろうと判断し、これまで通りの動くことにするんだった。






「はぁ……満足しました」


 運ばれてきた料理を食べきり満足した表情を浮かべるミレーア。リナも同様の表情を浮かべている。


「気に入ってもらえたようで良かった」


 そんな様子を見つつ微笑みながらエリアルは食後の飲料を飲んでいた。


「それに話も大変面白かったですよ。やっぱり経験豊富な冒険者のお話はとても興味深いです」


 うっかり新人のやるようなミスをした失敗談や突然現れた想定していない魔物が現れあわや全滅に陥りかけたことなど時には笑いがあり、もしくは手に汗握るような話をミレーアとリナは幾つも聞けた。


「良いの良いの、代わりにミレーアちゃんが上級回復ポーションを作れることが分かったからその代金代わりだと考えれば安いものだから」


 普段は回復魔法が使えるためミレーアは忘れがちだが中堅以上の冒険者パーティですら低位の回復魔法を使えるものは殆どおらず、上級回復ポーション自体も保険として一つ持っている程度なのが一般的だ。そんな重要な話を何でもないかのように話した瞬間、慌てて周囲の冒険者が聞き耳を立てていないかエリアルは確認したくらいである。幸い周囲の喧騒でミレーアの発言は聞かれることはなかった。現在は自分達の声が聞こえないようにエリアルが魔法で覆っているため、聞かれる心配は無いがあまりにも迂闊な発言を軽々しくしたミレーアに少し説教を行った。


「それじゃあ、明日リュウさん達と材料を取りに行けば良いですよね?」


「そうだね。ミレーアちゃんの回復魔法も便利だけど咄嗟の時に回復する術があるだけでも前衛は凄く助かるからね」


 エリアルはこの後リュウ達と今の話をし、本格的な調査を行う前にミレーアに上級回復ポーションを作ってつもりである。二人がどう答えるかは分からないがおそらく賛成するだろうと考えている。この後の予定を決め食休みももう良いだろうと立ち上がろうとした直後、三人に女声が掛けられた。


「こんな場所で会うとは奇遇ね」


 三人が顔を向けるとミレーアとリナは一度見たことのある顔を見て少し驚いた顔をした。しかし、エリアルだけは目の前の人物を見て目を見開き驚愕した表情をしていた。


「な……なん!?」


 驚きのあまりに呂律が回らないのが意味のある言葉が口から出ないエリアル。そんな彼女達に悪戯が成功した子どものような表情に彼女はなった。


「ふふ、久しぶりね」


 そこには街で戦いにおいてミレーアとリナが共闘したアレクシアが立っていたのだった。

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