第九十二話 確認
「はぁあああ!!」
マリアの裂帛の叫びと共に周囲に衝撃波が発生し近くにいたアギトとリュウ、ハロルドが纏めて吹き飛ばされた。
「っ!!」
何かに気づき上に視線を向けるマリア。そこには上からマリアに向かって降ってきたミレーアの姿があった。腕にガントレットを嵌め拳を繰り出すミレーア。それに合わせてマリアはミレーアの拳に自身の拳をぶつけた。
「とぉおお!?」
拳をぶつけ合わせたことで起きた衝撃でマリアの体が後ろへと弾かれた。空中で態勢を立て直し地面に着地し痛む自身の腕に回復魔法で治しながらミレーアの動きを目で追った。地面に着地したミレーアは地面を砕きながら地を走りマリアへと迫る。
「はぁあああ!!」
「せい!!」
再び拳を振るうミレーアに答えるようにマリアも拳を振るう。ぶつかりあう拳によって衝撃が迸ると楽しそうにマリアが口を開いた。
「へぇ、あの時からそれ程時間は経過していないけど前より随分と力を上げたね!!」
「目指す先が見えましたからね!!」
蹴りを繰り出すミレーアに対して同じような動作で蹴りを繰り出すマリア。まるでモノマネのようにミレーアの動作を模倣し相殺するマリア。現状でも技量に大きな隔たりがあるのは明白だ。しかし、しばらく打ち合いを繰り返していたが何か違和感と不快感を感じたマリアは大きく後ろに下がった。
「何か違和感があるような?」
不可思議な感覚に戸惑いマリアは足を止めた。だがそれを隙と見たレナの弓矢による狙撃がマリアに襲い掛かった。
「ちっ!!」
舌打ちしレナの魔力矢を手で払うマリア。すると今度は地面に大きな魔法陣が現れた。それが何であるか即座に理解しその場から跳び抜くと魔法陣の内側が炎に包まれた。それに危なかったと思う暇も無く今度はアギトが槍での攻撃が始まった。突き払いといった連撃を躱すと自身が誘い込まれていることを察したマリアは次に来たミレーアの拳を両腕で受け止めた。
「っ!!」
「狙いは良いけどまだ……」
再び猛烈な違和感と不快感を感じたマリアはミレーアをそのまま投げ飛ばした。
「一体この感覚は……?」
妙な感覚の正体を探りたいが流石にそんな暇は無いため、入れ違いで大剣を振るうリュウを迎撃しようとするが自身の身に起こっていることに驚愕した。
「力が上手く入らない!?」
自身の体に起こっている異常に驚くものの歴戦の猛者を思わせる動きでリュウの大剣を躱すマリア。逃げるように後ろへと大きく下がったマリアに対して容赦なくリナの魔法矢が迫ってきた。それらを先程よりもマシになった能力行使で辛うじて拳を使って破壊した。
「これは……」
能力がうまく使えなくなるのは一時的だが、戦闘中でそれは致命的だ。そして何が原因なのかは直ぐに思い至った。
「あの時の妙な違和感か!!」
ミレーアの方を見ると観察すれば昔見たものと酷似した力を纏っていることにマリアは気づいた。一体どうやってと詳しく確認しようとするが流石にそこまでの時間は無くアギトとリュウの二人が迫ってきた。出会って間もないにも関わらず息の合った連携を見せるアギトとリュウ。だが二人の連携を躱し防ぐマリアは二人の技量を上回っていた。力がうまく引き出せなくなったため、彼女も本気を出してきたのだ。
「くっ!! これだけの実力を持っていたのか!!」
「これは……あいつ何処まで汚染したんだ」
二人がかりでも攻めきれない現状に悔しそうに声を出すリュウと呆れたように呟きアギト。
「はぁあああ!!」
邪魔だと言わんばかりに拳から衝撃波がアギトとリュウに対して放たれた。それを受けた二人は吹き飛ばされると入れ替わる形でミレーアが迫った。迎撃しようとするがリナの魔力矢がマリアの動きを妨害する。タイミングを外されたマリアはミレーアの拳を受け止めようとはせず躱し、カウンターをその体に叩き込んだ。
「これは!?」
ミレーアの体に拳を打ち付けたことでマリアは今のミレーアがどういう状態なのか理解した。
「あれと融合するなんて!!」
マリアが感じ取ったのはミレーアの体に内側にいるミレーアとは別の何かの気配。それが何なのか直ぐにマリアは分かった。そして、そこから導き出される先程からの違和感の正体もマリアは理解した。
「まさか私の存在を喰っていたとはね!!」
「はぁ!!」
ミレーアの拳の一撃を受けず躱すマリア。しかし、それ以上は攻め込まず大きく後退した。
「はぁ……まさかそんな方法で強くなるなんて。まぁ、でも私達の師匠ならそれもありか」
一度溜息を吐くと構えを解いたマリア。その声は何処か嬉しそうであり、何かを期待するかのようにミレーアを見ていた。おそらくマリアに今日はこれ以上の戦闘の意志がないのは明白だが、それをはいそうですかと容認出来る程ミレーア達も寛容ではない。しかし、ならどうするかと言われてもミレーア達にはマリアをどうすることも出来なかった。
「とりあえず今の実力は分かったよ。それじゃあ頑張って力を付けてね妹弟子。……私を倒せるようになるのを期待しているよ」
ミレーアに対して楽しそうに思いを伝えると踵を返しそのまま森の中にマリアは走り去っていった。
「一体何だったんだ? あいつは……」
気配が消えたことで武器を下ろしそう愚痴のように呟いたリュウ。
「一応、教会の関係者らしいです」
多少とはいえ事情を知るミレーアがそう答えるとリュウは顔を思いっきり顰めた。王都に戻り次第襲撃してきたマリアの特徴を冒険者ギルドに伝えそれ相応の罰を受けさせようと考えていたリュウだが、教会の関係者となればそれも難しいからだ。
「教会の関係者ねぇ……噂の聞く教会が保有している隠密部隊か?」
「厄介ね。下手に突けば不味くなるのは私達だし」
「戻り次第に取り合えずはギルドマスターには報告しておく。難しい判断は向こうに任せよう」
リュウ達も冒険者達としての腕っ節には自身があるが、こういった組織運営についてはまったくの素人だ。
故に餅は餅屋と言わんばかりに冒険者ギルドに任せることにその場にいた全員が満場一致で賛成したのだった。
「あら、久々の気配があると思ったら漸く、この世界での知り合いを見つけることが出来たね」
黒髪の少女は深い森の中に建てられた小屋を見つけ立ち寄った。その小屋は前にミレーア達が訪れた彼女の兄弟子であるゴブリンのゴーンが住んでいる小屋だ。黒髪の少女が近づくと中からゴーンが慌てることなくゆっくりと出てきた。
「お久しぶりですね師よ」
「ん、久しぶりだねゴーン。最後に会った時からどれだけの月日が経った?」
黒髪の少女は明日の天気でも聞くかのような尋ねるとゴーンの方は首を横に振った。
「こんなところに住んでいると日にちはなど気にしてませんからな。しかし、それ程月日が経っていないとは言えます。少し前に幾人かの冒険者と一緒にミレーアとも会いましたし」
「あ、あの子無事に街に着いたんだ。いや~良かった良かった」
ミレーアが元気に暮らしいてることを知り破顔する黒髪の少女。
「それでこの付近で何かあった? 異様に魔物の数が少なくなってけど」
そう黒髪の少女が尋ねると少し前にあった魔物や魔獣が街へと襲撃したことを話した。その顛末を聞いた黒髪の少女はふ~んとだけ一度言葉を漏らす少し考え事をした後、面倒くさそうに呟いた。
「はぁ~嫌な予感はしていたけど案の定面倒くさいことになってるか。それでその調査にあの子が関わっているのは確実か。適性はあるしキナ臭かったから育てたけど正解だったか。これはあの子にあって直接話を聞かないと駄目だね」
「なら街はこの山を下りた後に……」
そう言ってゴーンはミレーアから聞いた街の場所を黒髪の少女に伝えた。尤も既にミレーアは王都にいるため、街にはいないがそれをゴーンが知らないのは仕方がないと言えた。
「あ~あそこか……そっかなら丁度良いから私がミレーアに渡した素材が届いているのかどうかも確認もついでに出来るね。じゃあ、バイバイ元気でね」
手間が省けたと言わんばかりに調子で今後の予定を立てると山を下り始めた黒髪の少女は手を振りながらそう別れの挨拶をゴーンにした。
「師もお元気で……私の方はもう先は長くはないかもしれませんが」
そう少しだけ寂しそう呟き師を見送ったゴーンは小屋へと戻ったのだった。




