第九十一話 襲撃者
「流石にここから再生はしないか」
油断なく様子を窺っていたリュウはエリアルの魔法によって潰されたアーマーサウルスに動きが見られなくなったため警戒を解いた。いくら高い生命力と再生能力を持っていても頭部も含みほぼ全身を潰されては再生は間に合わなかったようだ。
「ミレーア達に実力を見る筈がとんだ一騒動だな」
「厄介ねぇ……生半可な実力の冒険者じゃ間違いなく生きて帰ることも難しいわよ」
自分達の実力を客観視し、他と比べ大多数の冒険者では変異したアーマーサウルスと戦うのは厳しいというのがリュウ達の感想だ。今度どうするか冒険者ギルド共に相談する必要性があることを再認識しつつリュウは内心でミレーア達の評価を行った。ミレーアとリナの二人は年齢と冒険者になってから日数を考えれば優秀と言える。才能あるものは物事上手く行き過ぎる故に自信過剰になりがちだが二人は異獣と関わることで危険な目に何度かあったためかその様子は無い。また二人で模擬戦で行うなどして切磋琢磨していたこともあり、技量も十分備わっており足手纏いになることはないだろうというのが考えだ。後で仲間であるハロルドとエリアルともリュウは意見を擦り合わせりつもりである。
「それにしてもリナの木を足場にするあれは再現出来ないか?」
「あ~あれかぁ……出来ないことは無いけど継続時間は長くないよ」
エリアルの返答にリュウは少しだけ残念そうだ。リナのように縦横無尽に木や壁を足場に出来たのなら戦術の幅広がるとリュウは思っていたが世の中そううまくはいかないようだ。
「とりあえず最低限みたいものは見れたし王都に帰還しよう。聞かなきゃならないこともあるだろうしな」
「……見られてる」
そこで不意にミレーアが不穏な言葉を発した。ミレーアの言葉の意味を理解するとその場にいた全員が辺りを警戒するがこれといって怪しいものは見当たらない。
「見られているってどういうことだ?」
辺りの警戒を続けながらリュウはミレーアに尋ねた。
「おそらくは私の索敵と似た原理です。何かが私達のことを捕捉しました」
「ミレーアちゃんの索敵と似た原理ねぇ……それは少し厄介だね。ここで逃げても追われ続けることになるだろうし」
アーマーサウルスと遭遇する前にミレーアの索敵能力は既に見ており、その有用性も体験済みだ。故にそれを敵にもしくはそれに類する相手に使われた場合の危険性を瞬時にリュウ達は理解した。ならばそれを利用し相手の動きを探ることにした。
「ミレーア、相手の動きは分かるか?」
「相手の探知を利用することで大まかな位置くらいなら分かります。……もの凄い速度で近づいてきています」
「どの方向からだ?」
「向こうからです」
ミレーアが指差すと一同はその方角に向き身構えた。リュウとハロルドが前に立ちその後ろにミレーアとアギト。それより後ろではエリアルが何時でも魔法を発動出来るように準備を行い。リナも矢を何時でも放てる態勢だ。
「……もう直ぐ此処に到着します」
ミレーアの何処か緊張した声音に皆が一層強く身構える。すると草木を分け何かが飛び込んできた。
「ちぃ!!」
最初に動いたのはハロルド。飛び出してきた何かは思ったほど大きくはなく人の大きさ程だった。大盾を構え受け止めようとするハロルドに反応したのか飛び出してきな何かは力を込めて大盾に拳を叩きつけた。
「な!? ぐっ!!」
想像だにしなかった重い衝撃に驚いたハロルドだが、直ぐに身体強化を行い対応したのは流石は最高ランク冒険者の面目躍如といったところだろう。拳を大盾で受け止め止まった相手に剣で反撃するが相手は軽やかに後ろに下がって躱した。襲撃者が止まったことでミレーア達は漸く相手が何者なのか確認出来た。襲撃者はフードで全身を隠した人間だった。
「何者だ? 俺達を襲撃したということはそれ相応の覚悟は出来ているのか?」
リュウは脅すような声音で襲撃者にそう問いかけた。冒険者が他の誰かに襲撃された場合は正当防衛が認められており、冒険者ランクが低い場合は入念な調査される場合もあるがリュウ達のような冒険者ギルドから信頼されている高ランク冒険者となれば事後報告だけで済むことが殆どだ。
「リュウさん、言っても無駄ですよ。そいつの狙いは元々私ですから……そうでしょ?マリア」
そうミレーアは確信を持った声音でフードを被った襲撃者に話しかけた。それに対してフードを被った襲撃者はクスクスと楽しそうに笑い声を漏らした。
「……隠してはいたけど気づくなんて感知の精度を上げたね。姉弟子として嬉しいよ」
被っていたフードを取り素顔を現したマリア。
「何者だ?」
「一言で言えばミレーアの姉弟子。詳しく説明しようとすると少し難しいかな。口を割らしたかったら実力を示すことだね」
そういうと腰を落とし拳を構えたマリア。その構えを見て総身が振るえたリュウ達も即座に武器を強く握り締めた。構えを見ただけで相手が今までに見た何よりも強いと本能が訴えかけたのだ。
「……手加減していることは分かってたけどこれ程とはね」
「まだまだ先は長そうだね」
曲がりなりにもマリアと戦ったことのあるミレーアとリナは改めてマリアとの実力の違いを再認識すると戦う構えを取った。
「そっちの鎧……あなたこの世界の住人ではないみたいだし中身はアンデッドみたいだけど何者?」
「お前達の師匠の知り合いだな」
アギトの返答に興味深そうに彼を見るマリアだが直ぐに納得がいかないと言った表情となった。
「あの人の知り合いっていう割には力をあまり感じないようだけど」
「お前やミレーアのように長くいた訳じゃないからそこまで汚染はされていない」
汚染という言葉にリュウ達は反応するが質問は棚上げ今は襲撃してきたマリアがまたいつ襲い掛かってきてもいいように集中した。
「そっか……ならどれだけやれるか見せて貰おう……かと思ったけどもしかし今不調?」
「先程奥の手を使ったからな……あと少しの間は全力では戦えないな」
隠しもせず今の自身の状態をマリアに話したアギト。敵に塩を送っているようにも見えるが実際のところマリアは確証があって聞いているの隠しても意味が無いとアギトは判断しただけだ。
「そっか……まぁ、でも私がやることは変わらないけどね。まずは……」
その瞬間、マリアの姿が消えた。リュウは嫌な予感がして咄嗟に防御態勢を取った。その直後、リュウの目の前に現れたマリアの拳がリュウの持つ大剣とぶつかり合った。
「へぇ……」
自身の拳が防がれたことに感心するような声がマリアの口から漏れた。まだまだ余裕そうなマリナに対してリュウは必死の形相だ。それだけでどちらが有利で不利なのか一目瞭然だ。エリアルも魔法による支援をリュウに対して行いながらマリアに対ししては重圧などの相手の動きを妨害する魔法を使うがそれを受けていながら彼女はリュウに対して優勢を保っていた。そこでリュウは奥の手の一つを使うことにした。
「一体何を……?」
リュウが何かしていることに気づいたマリアだが、既に遅くリュウは大剣に付与されている魔法を発動させた。最初は何も起こらなかったが何をしたのか大剣とぶつかり合っている腕を通してマリアは即座に気づき後ろへと下がった。
「面白い使い方をするね」
剣が赤く輝きだし剣の周囲の空間に陽炎が発生し空気が揺らめいていた。そのことから魔法によって剣が熱を持ち高温になっているのだろうと察した。もしもあのまま腕と剣が接触したままだったならばマリアの拳は大火傷していたことだろう。
「ふふ、これならもう少し力を使っても良さそうだね?」
「なっ!?」
いつの間にかマリアに懐に入り込まれていたことに驚きに声を上げるリュウ。マリアの拳が受けたと同時に彼の体が後ろへと飛んだ。
「貴様!!」
ハロルドが剣を振うがそれは空を切ると右から気配に反応し大盾を構えるが盾越しに大きな衝撃を受けた。衝撃を受け流せきれず大きなダメージを負ったハロルドに容赦の無い二撃目が襲い掛かるがそれをアギトが横槍を入れることで防いだ。
「さっきのは結構痛かったぞ!!」
いつの間にか復帰していたリュウがアギトがマリアを抑えている隙をついて大剣を振り下ろしたのだった。




