第九十話 圧殺
咆哮し突撃してくるアーマーサウルスに対して大盾を構えて前に出るハロルド。魔法付与による強化によって魔法障壁も展開され正面から受け止めるようだ。
「ぐっ!!」
アーマーサウルスがぶつかった衝撃に僅かな呻き声が漏れるがハロルドは突進を抑え切った。突進を抑え込まれたアーマーサウルスが腕を上に振り上げるとその腕に氷が纏われ巨大な氷で出来た刃物のようなものが形成され振り下ろされた。
「流石に大人しくやらせなないよ?」
それ黙って見ているような彼らではなくエリアルが魔法を発動するとアーマーサウルスの腕に巨大な岩が直撃した。それは直撃すると同時に砕けたがそれと共に中に封入されていた溶岩がアーマーサウルスに浴びせられた。
「う~ん、これもイマイチ効きが悪いとなると冷気と炎両方に耐性が出来てる?」
「となる純粋な物理的なダメージが一番有効か」
溶岩を浴びたにも関わず大したダメージを受けていないことを確認したエリアルは状況はそう分析した。そして、それに対して攻略方法としてリュウの案が一番現実的である。属性魔法などは耐性によって軽減されやすいが純粋な物理的なダメージは防ぎ辛い。しかし、アーマーサウルスに決定打を与える一撃となれば急所を突くか大質量による押し潰しくらいしかない。
「一応方法は思いついたけど、準備に時間がかかるから時間稼ぎをお願い」
「分かった。……ミレーアとリナも手伝ってくれ。攻撃には専念しなくて良い。エリアルにアーマーサウルスに近づけないようにしてくれ」
「分かりました」
「はい」
ミレーアはそこらに落ちている石を拾いリナは弓を構えた。
「俺はどうすれば良い?」
「……アギトは俺と一緒に前衛を頼む」
少し悩んだリュウはそうアギトに返した。
「分かった。……それにしても厄介だな。下手に魔法で攻撃すれば耐性が付くとはな。これでは迂闊なことは出来ないか。分かってはいたがあの力の多様性には驚かされるばかりだ」
「それはどういう……っ!!」
アギトのぼやきがどういう意味なのか問い質そうとするがアーマーサウルスが襲い掛かってきたため、話を中断し戦いに集中する。口から炎を漏らしながらその大顎を大きく開け襲い掛かるアーマーサウルスの攻撃を躱し大剣を叩きつけるがその硬い外殻に阻まれた。
「本来も外殻も強化されているのか!!―――ちっ!?」
先程よりも固い手応えに驚くリュウ。驚きで一瞬止まった隙を狙ってアーマーサウルスの尾が鞭のようにしなりリュウに襲い掛かるが彼はそれを躱しながら後ろへと下がった。
「まさか本体まで強化されていたとは驚きだ……アギト、これもよくあることなのか?」
「基礎身体能力の強化は初歩的な強化だ。属性の獲得はそれよりも上だな」
「更なる強化あるのか?」
「あるが……そこまで至れるのは稀だ。しかも、そこからは先は個体ごとに方向性が出て来るから実際に戦うまでどんな能力を持っているのか分からない」
アギトの返答にリュウは顔を顰めた。アギトの言葉通りなら仮にアーマーサウルスが何らかの能力を獲得していたとしても使われるまで何か全く分からないということだ。それを加味すれば戦う時の危険度が跳ね上がるため、より慎重に戦う必要性があった。
「と、落ち着いて考えり暇も……」
再びリュウに襲い掛かろうろうとするアーマーサウルスの横っ面を魔力で形作られた弓が直撃し爆発した。爆発の衝撃によろめくアーマーサウルス。矢が放たれた方向を見ればそこには木の幹を足場にしたリナがいた。
「おおう……話には聞いていたが実際に見てみると目を疑うな」
ほぼ垂直とも言える木の幹に対して重力に逆らって直角に立っているリナの姿を見てリュウはそう言葉を漏らした。リナの矢を受けたアーマーサウルスは標的をリナに変更し彼女の向かって突撃する。当然それを大人しく待つリナでは無く木から木へと飛び移り逃げ回る。木々や地面を使った立体的に動きに地を走る事しか出来ないアーマーサウルスは追いつけず振り回されていた。
「時間は何とか稼げそうだな……状況は?」
「あと少しで終わるところ……おそらくだけど発動が近まれば流石に気が付かれるだろうからその時はお願い」
「分かった」
今もリナを追い掛け回すアーマーサウルスの動きに注意しながらその時を待つ。
「もう直ぐ完成するわよ」
そうエリアルが呟くと地面の一部が盛り上がり何か巨大なものが出現した。一言で言えば巨大な岩のような何かの塊であり、それが頭上へと浮遊する。そんな巨大なものが現れればリナを追い掛け回すことに固執していたアーマーサウルスでも流石に気づいた。明らかに自分を害するであろう代物に危機感を抱いたアーマーサウルスは術者であるエリアルに真っ直ぐ向かった。
「そう簡単に……!?」
「これは!?」
エリアルに向かおうとするアーマーサウルスを止めるためにリュウとハロルドが立ち塞がろうとするが突如として地面から噴き出した炎に進路を遮られた。おそらくはアーマーサウルスが邪魔されないように妨害したのだろう。最初に遭遇にしたことに比べて明らかに魔力操作とそれを行うための知恵が増しており、力だけではない厄介な存在になろうとしていた。
「ちっ!! そちらの方に変異を始めたのか!! 此処で仕留めないとますます不味いことになる!!」
ある程度の事情を知るアギトは今のアーマーサウルスがより不味い存在になろうとしていることに気づき此処で確実に打ち滅ぼすために奥の手一つを切る判断をした。
「下がれ!! 奥の手を使う!!」
それだけ言えば十分だと判断しアギトが伝えると彼の言葉が聞いたリュウとハロルドはアーマーサウルスより離れてアーマーサウルスも何か不穏な気配を察知したのか足を止めアギトの方を見た。アーマーサウルスの反応から感知能力も上昇していることを察したアギトだがその方が都合が良かった。
「能力が高くなるのも問題だな。そのまま気づかずエリアルの方に向かっていたら狙いをつけるのに少し手間取ったが気づき足を止めたことでやりやすくなった」
胸部装甲に手をかけ開くとそこから筒上のようなものが伸びてきた。
「魔力炉直結ブラスターキャノン発射!!」
筒状のものから光の奔流が放たれ一直線にアーマーサウルスへと向かった。アーマーサウルスは回避行動と同時に自身の前に氷の壁を生成し回避と防御を同時に行った。氷の壁は一瞬の膠着も無く破壊され回避行動を行おうとしてアーマーサウルスの右腕と右胸を消し飛ばした。
「これは……凄いな!!―――アギト!?」
その威力に恐れの混じった感嘆の声を漏らしたリュウだがその視界で崩れ落ちるアギトの姿を見て慌てて駆け込んだが、アギトが手で制し余裕ない声音で忠告した。
「大量の魔力を使った一時的な弊害だ。……それよりもまだ終わっていないぞ!!」
「っ!?」
そのアギトの忠告にまさかと思いながらアーマーサウルスの方を見たリュウ。そこには右胸と右腕を失いながらも未だ動くアーマーサウルスの姿。普通ならあきらかに致命傷であり、その場で動けなくなる程だろう。しかし、目凝らせば傷口が蠢き再生しようとしているようにも見えた。
「あれを食らってまだ動けるのか……!? エリアル!!」
「あと少しよ!!」
浮遊した岩のような塊に更なる魔法付与を行い強化するエリアル。感知魔法を使わずとも存在感の増すそれに知らず此処にいた者達は冷や汗が出た。そして、それはそれを受ける側であるアーマーサウルスも同じであるらしく咆哮しまだ傷が再生していないにも関わらず先程の変わらない速度でエリアルに迫るアーマーサウルス。
「させない!!」
その声と共に強烈な拳に一撃がアーマーサウルスの体を殴打した。拳の主はミレーアであり、彼女の全力の一撃はアーマーサウルスの体を大きく揺るがせた。
「出来た!! 皆下がって!!」
エリアルが大声でそう忠告すると返事を待たずして作り上げた魔法を発動した。それは先程行った岩の中に溶岩を封入した魔法を改良したものであり、溶かした岩や土を纏めて巨大な一つの岩塊にしたものだ。さらにそれに多重の強化魔法を付与し強度を強化したことで漸く完成した。エリアルの魔法で動きだしたそれは重力の力だけでは考えられない速度で落下し、ミレーアの拳の一撃でバランスを崩し転倒したアーマーサウルスを逃げることも許さず真上からものの数秒で押し潰したのだった。




