第九十九話 突き破るもの
振り下ろされるフォレトス・タイガーの前足を回避するミレーア達。勢いよく振り下ろされた前足は地面を砕き周囲に破片を巻き散らした。そこへフォレトス・タイガーの頭部を狙って魔力で作られた数本の矢が突き刺さった。
「届いてないか!!」
体が巨大化したことによって体表の毛皮も分厚くなっておりリナの魔力矢は途中で止まっていた。
「迂闊には攻撃出来ないな……下手をすればその隙を突かれかねない」
フォレトス・タイガーは魔獣の中でも頭が良いことで知られており、追いかけた獲物を罠に嵌めたり討伐しに来た冒険者を逃げる振りをして背後に回り込み返り討ちにしたりするなどの行動が確認されている。今もわざと大振りな攻撃を振るうことで自分達の攻撃を誘っている。
「動きに無駄が無い……どうやら歴戦の個体みたいだな」
「関心している場合じゃないでしょ。……不味いはね。下手に攻撃魔法を使えば真っ先に潰されかねない」
此処までに幾人かの冒険者を襲撃していたことから冒険者の中で何が自身にとって脅威になるのかフォレトス・タイガーが把握している可能性が高い。魔法を得意とするエリアルの手の内がバレれば真っ先に潰す相手と認識されかねない。そのため、今はフォレトス・タイガーに魔法使いとばれないように攻撃魔法使わず味方の補助をする魔法を中心に使っていた。
「それでも十分だがな……ミレーアも下手に相手に回復魔法を見せるな!! 優先的に狙われるぞ!!」
「分かりました!!」
フォレトス・タイガーの攻撃を拳で弾いミレーアはそう言葉を返した。とは言っても正面から攻撃を弾くミレーアをフォレトス・タイガーは優先排除対象として認識しているのかミレーアを集中的に狙い始めている。
それでも周囲への警戒は怠っていないため、隙らしい隙は今も見つからない。特に自身の目を直接狙えるリナは常に視界にいれている程だ。
「何か切欠が欲しいが……アギトの方どうだ?」
「使う隙が無いな……迂闊な行動は命の取りになりそうだ」
「……既に死んでるだろ」
言うか最初は迷ったのかしばらく間を置いてから指摘するリュウ。指摘されたアギトの方は言われて気づいたのか何も言い返せず黙るしかなかった。そこへつっこみのようにフォレトス・タイガーがアギトに向けて爪を振るうがそれをギリギリのところで躱すと同時に剣で爪を根元から切り落とした。
「ゴォアアオオオ!!」
アギトによって爪を切り落とされた部分から出血すると同時に痛みに咆えたフォレトス・タイガー。どうやら根元から切り落としたことで爪に中にある血管や神経も傷つけられたことでその痛みに耐えられなかったようだ。
「とっ!! 流石にそうなれば此方を狙うか!!」
自身に痛みを与えたためのなのかミレーアを優先的に狙っていたフォレトス・タイガーがアギトへとターゲットを変更した。怒りのためか荒々しい動きでアギトを攻めるが怒りに任せた動きの為か行動が単調であり、アギトは余裕を持って回避している。
「その隙はつかせてもらうわね」
フォレトス・タイガーの狙いがアギトに集中したことで動き出したアレクシア。彼女が剣に魔力を込めると剣から炎が噴き出した。アレクシアは剣先をフォレトス・タイガーに向けて更に魔力を込めると噴き出していた炎が強くなり弾丸のように射出されるとそれがフォレトス・タイガーの体に直撃し爆ぜた。
「ガァアオオオ!!」
横から唐突に受けた衝撃と焼けるような熱にフォレトス・タイガーは悲鳴のような呻き声を上げた。
「ん、あれを参考にやってみたけどそれなりの威力のようね」
「あの時に剣でやったことを再現したんですか?」
「そう。流石にあれ程の威力は無いけど」
ミレーアが渡した剣を使った時は噴き出した炎が爆ぜなくとも物理的な衝撃を与える程であり、それと比べれば確かに威力は低いと言えた。それでも巨大化したフォレトス・タイガーが痛みで呻く程の威力があり、実戦で申し分ない使い勝手である。そのままアレクシアは何度か火炎弾をフォレトス・タイガーに打ち込むと耐えかねたフォレトス・タイガーが標的をアレクシアへ変更し飛び掛かってきた。
「させない!!」
今が使い時と判断したエリアルが上位魔法を構築しフォレトス・タイガーに向かって発動した。
「ヴァイパー・フレア!!」
エリアルの放った魔法は名の通り炎が蛇のように素早く蛇行しながらフォレトス・タイガーに迫りその体に巻き付いた。巻き付かれたフォレトス・タイガーは逃れようと藻掻くが巻き付いたヴァイパー・フレアは外れずその体を炎で焼いていく。通常の魔物ならこのまま焼け死ぬだろうが異獣の影響を受けた魔獣は何が起こるのか予想出来ないため、油断せずミレーア達は構えた。
「手は緩めないよ!!」
リナが弓から魔力矢を二本放った。放たれた二本の矢うち一本が炎に炙られ暴れるフォレトス・タイガーの瞳に突き刺さった。片目を潰された痛みに悲鳴のような咆哮が周囲に響き渡った。そうしている間にもフォレトス・タイガーの体がヴァイパー・フレアのよって焼かれゆく。
「……逃がすか!!」
流石に状況の不利を悟ったの変異したことで手にした羽を広げ逃亡を図ろうとするフォレトス・タイガーに逃がさないと言わんばかりに身体強化によって跳んだリュウが羽の根元に剣振るった。振るわれた剣はフォレトス・タイガーの羽を根元から断ち切り飛行能力を喪失させた。
「良し!!」
地面に着地し成果を確認したリュウは思わずそう声を漏らした。これで空を飛ばれて追跡が不可能になるという事態は避けられた。そして、羽を切られたことで新たに手にした飛行能力を失ったフォレスト・タイガーは愕然として羽を切られた側に顔を向けた。
「これで状況は少しマシになっただろうけど……まだ何かありそうで不気味ね」
「それは前に戦ったアーマー・サウルスで体験済みなので油断するつもりはありません」
エリアルは油断なく自身の杖をアーマー・サウルスへと向けた。何か変化あれば直ぐでも対応出来る心構えである。ミレーアの方は注意深く周囲を窺っていた。おそらくは突然何か来ても反応出来るよう周辺を探知し何か異常がないか探っているのだろう。フォレスト・タイガーの身体には大きな火傷が残り新たに手にした羽は片方を切り落とされたことで体のバランスが大きく崩れたことで何処か動きにくそうだ。
「……力が内側に集束している気配があります。何かが起ころうとしているのかもしれません」
何かを感じ取ったのかミレーアがそう注意を促した。それを聞いたエリアルが次の魔法を発動させ攻撃しようした直後、フォレスト・タイガーが苦しみ出しすと体の背中が裂けそこから昆虫か節足動物の脚のようなものが数本飛び出してきた。
「なんだありゃ!?」
「……寄生虫だな。どうやら宿主が異獣の影響を受けたことで中に寄生していた寄生虫にまで影響が及んでいたようだ。それが本体が弱まったことで活性化したんだろう」
アギトは何が起こったのか自身の推測を口にした。そうしている間にも中に潜んでいだろう寄生虫の脚が更に数本フォレスト・タイガーの体を突き破り出てきた。寄生虫はワシャワシャと外に出てきたことを確認するように動かすと槍のように鋭いに先端をミレーア達に向けた。
「……どうやら此処からが第二ラウンドのようだな」
「全くこんなこともあるとはな」
先程まで痛みの呻いていたフォレスト・タイガーの声が消えている。しかも、その動きは体から新たに生えたものを気にしている様子は無く先程よりも力強くなっているようにも思えた。
「……成程、生き残るためにそう変化したか」
アギトが何か納得したように呟くと先程よりも明らかに上回る速度でフォレスト・タイガーが襲い掛かってきたのだった。




