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第百四話 教会内部

「誰もいませんね」


「歓迎の一つくらいは期待していたけど拍子抜けね」


 教会本部に周囲を警戒しつつ用心深く侵入したが、襲撃の一つもなく内部は不気味に静まり返っていた。ミレーアによる索敵も行ったが周囲に人らしき反応は何一つなく、地下から何らかの反応があることだけが分かったため一同は地下を目指すことになった。


「とは言っても何処から行けば良いのか……アレクシアさんは分かりますか?」


「前に来た時は地下に行くことはなかったのよね。それらしき場所に覚えも無いし……」


 アレクシアから有力な情報が無かったため、虱潰しに地下への入り口を探すミレーア達。しかし、それらしきものは見つからず四人は一度集まり話し合うことにした。


「無いわね」


「おそらくは隠し通路になっているんだろうが……何らかのヒントになるものが見つかれば簡単なんだが」


 アギトは一度ぐるりと周囲を見渡すが残念ながらそれらしきものは見当たらなかった。アギトは幾つもの世界を渡りそれ相応の経験は積んでいるため、隠し扉を探したことは一度や二度ではない。こういったものには幾つかのパターンがあり、その全てをまだ試した訳ではない。


「とりあえず……教会のお偉方や人目につかない場所にはそういったものの類はなかった」


 マリアの存在は教会でも一部の者しか知らないと予想し、その存在を隠すために部外者の目につかない場所を重点的に探したがその考えは外れていた。そこで次は敢えて目立つ場所にも何かないかと探ってみたがそれも違っていた。


「物理的な方法で隠されている訳はないと考えると……この世界においてそういった隠蔽魔法はあるか?」


「あるわね。危険性から一般には公開されていないけど……だから教会が独自に編み出したものだと思うわ」


 アレクシアの話を聞き考えるアギト。彼にはそういったものを見抜くことは不得意であり、どうにか出来ないかミレーアの方を見た。視線の意味を察したミレーアは試しに索敵してみたが回復魔法の応用である彼女の索敵では隠蔽魔法の見抜くことは出来なかった。


「やはり無理か……何か他の方法は」


「……ん? フューア?」


 ミレーアは自身と融合しているフューアが何か訴えかけていることに気づき意識を集中させた。


「フューアが何かに気づいたみたいです。案内します」


「頼んだ」


 他に宛がないため、フューアを頼ることにした。ミレーアが先導し歩いていくと何もないない壁に行きついた。手で触れてみても固い感触しかなく先に行けそうにないがフューアは変わらずこの向こう側だと主張していた。


「ふむ……一見して何も無いが」


 するとアギトが慣れた手つきで周囲のものを軽く叩いたり押したりし始めた。しばらくしていると何か見つけたのか床を破壊した。するとそこは魔法による鍵が掛かっていた開閉式の蓋になっていたらしくかけられた魔法ごと破壊された蓋の後ろには何かのボタンが備え付けられていた。


「これだな……迷わず押すが良いか?」


「問題ないわ」


「大丈夫です」


「お願いします」


 念のための確認としてアギトが全員に聞いたが誰も反対意見は無く彼がボタンを押ことに同意した。意思確認を終えたアギトが迷わずボタンを押すと目の前の壁が音もたてずに上がるとその後ろに隠していた通路を露にした。


「これは……!! 間違いないですこの先にマリアはいます!!」


 通路の奥から流れてきた空気を感じ取ったミレーアが確信のある声音でそう大声で呟いた。ミレーアの感知能力は既に一同の知るところであり、その言葉を誰も疑うことはなかった。慎重な足取りで前に進んでいくと下へと続く長い階段が現れた。アギトが先頭に立ち階段を下っていくと階段の終わりと共に大きな門が見えてきた。


「どうやって開けるんでしょうか?」


「何か開けるための装置が何処かに……」


 先に進むために大きな門を開けるために装置を探そうとしている大きな門は重々しい音を立てながらミレーア達を案内しているかのように開いた。


「どうやら歓迎の準備は整っているようね」


「みたいだな」


 四人が門を潜るとまず見えてきたのは巨大な何かだった。最初はそれが何か分からなかったミレーアだが目を凝らして観察したことでそれが生物の体であることに気づくことは出来たが、あまりの巨体故に本当にそうなのか自分の見たものが簡単には信じられなかった。


「これが……そうか」


「祖王と初代聖女、そして仲間だったとされている傭兵が倒したされるこの世界に現れた最初の……」


「異獣は此処まで巨大になるんだ」


「……死んではいるみたいですけど今も力を発し続けています」


 ミレーアが探知してみたが目の前の異獣は間違いなく死んでいた。しかし、その骸からは今も異獣達が発し続けている力と同質のものが流出し続けていた。


「この骸から漏れ出した力が地脈に流れることで異獣が発生していた。それを抑えるために初代聖女はこの国の初代国王と協力して此処に教会本部を建てた。合っているか?」


「ええ……異獣が発生するなら骸を放置する訳にはいかなかった。跡形もなく消し飛ばそうとすれば内包されていた力が拡散しより悲惨な結果になる可能性もあった。だから漏れ出す力を利用する方法を自身の経験則に基づいて初代聖女は考えついた」


 そこでアレクシアは一度言葉を切るとミレーアへと視線を向けた。ミレーアも自身の経験とマリアが自身のことを妹弟子と呼んでいたことから推測しアレクシアの言わんとすることを察した。


「マリアも師匠の手解きによって回復魔法を使えるようになった」


 ジェライクからも回復魔法はかつては光系統魔法の一部だったと聞いている。そして回復魔法として今の形へと確立したのは初代聖女であるマリアだ。そしてミレーアはマリアが考えついたであろうその方法に思い至った。


「この地で回復魔法の適性を持つ人達を集め異獣から漏れ出す力を利用して自身と同じように回復魔法を使えるようにした」


 その過程で異獣から漏れ出した力は消費され異獣が発生するのを阻害出来る上に回復魔法そのものにも需要があったことで使い手が増えることを望まれていた。そして、実際に回復魔法を使えるマリアが教えることで教えを受けた者達も自分達がいずれ回復魔法を使えるようになると信じた。異獣の力は強い意志があればそれに答えてくれる。そしてマリア以外の誰かが回復魔法を実際に使えるようになればそれが可能なことであるという共通認識を作り上げることで出来ることでそれを更に強固にした。


「……何だが途轍もなく無茶苦茶理屈ですけど実際に異獣の力を見るとそれも可能にするのが納得出来ますね」


「でも話を聞いた限りではマリアはこんなことをするようには思えないですけど……どういうことでしょうか?」


 当時のマリアの行動と今のマリアの行動を比べてミレーアにはとてもじゃないが同一人物に思えなかった。それこそ似てはいるがその名を騙る別人にしかミレーアには思えなかった。しかし、マリアの動きは間違いなくミレーアの師匠の戦い方を自己流にアレンジしたものである。彼女の正体は一体っとミレーアが考えているとその当人の声が響き渡るように聞こえてきた。


「なら答え合わせをしようか」


「!?」


「何処に!?」


 何処のいるのか分からず構えるミレーア達。しかし、周囲には人影のようなものは見えず隠れられるような遮蔽物もなかった。


「ふふ……此処だけど見えないのかな?」


「……!! あそこです!!」


 索敵が出来るミレーアが真っ先に気づき指差した方向に残りの者は視線を向けた。そこには下半身が異獣の遺骸と一体化したマリアの姿があったのだった。

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