第百三話 教会本部
「それで父上……どうしますか?」
「状況証拠だけど決定的な証拠は無い。古の盟約に則るなら強制介入は現状でも難しい……だが、このまま捨て置けないのも間違いない」
アレクシアは父でもある国王に何があったのか直接伝えたが予想通り返答だった。
「視察という形で向かうのは可能でしょうか?」
「ふむ……それくらいならば何とかなるだろう。それで護衛の方はどうする?」
「少なくとも彼女達は連れて行った方が良いと思います」
「私は会ったことが無いがお前が思うのならそうすれば良い。細かいことは私の方で何とかしよう……それと例の剣を持っていくのも許可する」
「有難うございます」
最低限自身の望むものが許可されたことに安堵し退室するアレクシア。自身の部屋へと戻ると大きく息を吐きお気に入りのソファーに深く座り込んだ。
「はぁ……何とかこれで前に進める。とりあえず後は父上から話があるまでの待機か。その間に何もなければ良いけど」
その後数日間手の者にも探らせたが異獣や異獣の影響を受けた魔獣、魔物のによる被害がピタリと止まっていたという。辛うじて見つかったのは何者かによって肉を引き裂かれ、骨は砕かれたことで無残な姿となった第二フェイズの異獣の死体だった。一体に何者がと思いもしたが同日に待ちに待った国王である父親からの返事が来たため、アレクシアはそちらを優先することにしただった。
「漸く呼び出しが掛ったけどいろいろと決まったのかな?」
「どうかな? ここ数日は異獣関係のことは何もなかったからもしかしたらその話かもしれないけど」
異獣関係の依頼があれば直ぐにでも出られる準備をしていたミレーアとリナだが不自然な程に平和な数日だった。尤もこれが普通であるとはミレーアはリュウから聞いており、寧ろ日常が戻ってきたとも言える。ミレーアとリナはいつもの場所へと向かうとそこにはアギトとアレクシアがいた。
「あれ? リュウさん達は?」
「今回は彼らには王都に残って貰うことにしたの。何かあった時に対応出来るのは彼らしかいないから」
王都にいる冒険者の中で今回の事態に一番慣れたのは間違いなくリュウ達であり、彼らもいなくなったらもしもの時には異獣や異獣影響を受けた魔物、魔獣に対応出来る人材がいなくなってしまうため苦渋の決断ではあるがアレクシアはリュウ達は王都に残ってもらうことにした。
「それで俺達だけで行くということは特殊な場所なのか?」
「向かうのは教会本部。一応、視察が目的だけど何かあった時は臨機応変に対応ね」
「教会本部か……まぁ間違いなく何か起こるだろうな」
それが狙いだろ言わんばかり声音でアギトが呟くとアレクシアはただ微笑むだけだ。つまりはそういうことかと理解したミレーアは自分の役割の確認をすることにした。
「私は教会本部についたら索敵ですか?」
「そうね。一度はやってもらいたいわね。それと……ミレーアとリナは服を用意したからそっちに着替えて」
突然着替えてと言われ困惑するミレーアとリナ。そんな様子の二人を見てアレクシアは呆れたように指摘した。
「教会本部に行くっていうのに流石にその姿で行かせるのはね」
アレクシアに指摘され自分達の服を見るミレーアとリナ。洗濯も手入れもされているがミレーアとリナの服は少し草臥れている。冒険者として活動する分には問題無いだろうが格式高い場所に行くと言うならアレクシアの指摘通りそれ相応身嗜みに整えた方が良いだろう。
「え~と、そういった服はどうやって着れば……」
そこまで言いかけたミレーアはそれに気づいたリナと共に後ろを見た。二人の後ろにはいつの間にか給仕服を着た女性が二人いた。意図的に気配を出したことで気づいたがそうでなければ索敵する以外でミレーアには気づきようもなかった。
「……あの~」
「その二人は私の侍女。持ってきた服の着付けは二人に任せなさい」
「殿下の命によりお世話させて頂きます」
「あ、はい……よろしくお願いします」
目を白黒させるなか丁寧な口調でそう言われたことでミレーアは思わずそう答えた。「ではこちらへどうぞ」と言われ大人しくついて行くミレーア。リナの方も戸惑いつつも同じようについていった。
「うう……落ち着かない」
「こんな良い服今まで来たことがなかったんだけどぉ……」
「ふむ、似合っていると思うが」
今まで着たことが無い上質な布で作られた服を着て何処か落ち着くない様子で馬車の中に腰かけに座るミレーアとリナ。ただいろいろとアレンジがされているのか動くことに支障は全く感じない。戦闘は問題なくこなせそうだがこれだけの上質の布で戦闘し汚したり破れたりするのが純粋に怖い二人であった。そんな二人を見て似合っているという評価を出したアギトは元より鎧姿の上にその鎧には傷は殆ど存在せず磨けば綺麗な光沢を放つことから多少の手入れをしたくらいだ。
「……慣れなさい。冒険者としてのランクが上がればこういった服を着る機会も出て来るのだし」
「そうなんですか?」
「冒険者のランクが上がれば必然的に冒険者ギルドから信頼があるということのなの。そういった冒険者には貴族からの依頼を回すから関わることになるの。依頼を達成すれば直接会うこともあるしそういった時のために服を用意することになる。エリアルもそういった所に出ると立ち振る舞いは完璧よ」
「……自分は出来る気がしないです」
「ふふ、あなたみたいな将来有望な冒険者は間違いなくお呼ばれさることになるわよ」
アレクシアの言葉にその時の姿を想像してゲンナリした顔になるミレーアとリナ。どこからどう見てもそうなったら面倒くさいから何とか断れないだろうかという表情である。そんな表情を見てエリアルも当時そんな表情をしていたことを思い出したアレクシアはクスクスと上品に笑った。
「……どうやらついたようだな。歓迎の準備は整ているようだ」
馬車の中から外を見ずに何かに気づいたかのようにアギトがそう呟いた。
「……一体何を言って?」
「これは……」
アギトの呟きの意味をアレクシアが問い質そうとするとミレーアも何かに気づいたような反応をした。その様子に危機的何かを感じたアレクシアは馬車を止めさせ外に出ると間近まで迫っていた教会本部に視線を向けた。
「何これは?」
教会本部から漂うに異様な雰囲気にアレクシアは戸惑った。アレクシアが此処に来たのはこれが初ではなく何度か訪れたことがある。記憶に残る教会本部とのあまりにも違い過ぎているため、本当に同じ場所なのか一瞬疑った程だ。
「次元をずれているな……マリアが何かしたのかもしれん」
「次元がずれている?」
聞きなれない言葉にで首を傾げるミレーア。リナもアレクシアも詳細を聞きたそうな表情をしていた。アギトの方はどう説明したものかという雰囲気を出していた。
「この世界ではまだ分かっていないようなことだが……説明は必要か?」
「……時間もないし分かりやすく例えて」
「この一帯だけで異空間になっている。此処でどれだけ暴れても通常空間では何のか影響も無い」
ミレーアとリナはそれを聞いても話の内容を理解していない表情をしているが、王族としてこの国最高の教育を受けているアレクシアは少なからず理解出来るのか難しい表情をして教会本部に再び視線を向けた。
「つまり向こうは戦う準備は整っているということね」
「そういうことだ」
それを聞いたアレクシアは自身の得物の柄に手を添えて何時でも抜ける態勢だ。アギトの方も既に戦闘態勢に入っている。
「やっぱりこうなるんだね」
「もう慣れたでしょ?」
うんざりした表情となるミレーアにリナは半ば諦めた様に声音で返したのだった。




