第百一話 聖女の無念
「……何か様子がおかしいな」
マリアを見て最初に違和感に気づいたのはアギトだ。先日会った時あまにも雰囲気が違い過ぎた。前に会った時は何処かミレーアに似た雰囲気があったが、今は別人かと見紛うほど禍々しい雰囲気を醸し出していた。
「向こう側の私に封じられていたが前にそこにいる妹弟子に向こう側の私を存在が削られたことで漸く表に出ることが出来た」
「……あなたは何者ですか?」
マリアを見て先頭に出たアレクシアが問いかけた。問いかけられた方のマリアは一度、アクレクシアを値踏みするように見ると合点がいったという表情となった。
「ああ、その雰囲気……何もかもが懐かしい。あの人の子孫だね?」
「……誰のことを言っているかは分かりませんが、私のこの国の第一王女となります」
「なら間違いなくあの人の子孫だね。なら私はあなたに答える必要がある……私は初代聖女の無念。その意味は子孫である第一王女には分かるかな?」
「そういうことですか……確かにそれなら何故残っていたのか納得は出来ます」
マリアの返答に何か知っているのか全てが繋がったという表情となったアレクシア。
「そ、前までの私はそれを抑え込んでいた理性そのもの。だけど本体は私であったために徐々にだが抑えは効かなくなっていた。それでも完全に表に出るにはまだ時間がかかる筈だった。だけど前の戦いで思わぬ収穫があった」
そこでマリアはミレーアの方を向いた。それで何が原因だったのかミレーアは察した。
「私が前回にマリアにあれを使ったのが原因ってこと?」
「そう、あれによって向こう側の私の存在が削られこの私が表に出ることが出来た」
「表に出るのに時間がかかる筈だった……つまり本体は今のお前……数日前に会ったお前はそれを抑えていたということか」
「その通りだよ。本来此処に来る予定はなかったんだけど最後の抵抗であなた達に前に引き摺り出される羽目になったけど」
やれやれと面倒くさそうな仕草で溜息を吐くマリア。
「成程、マリア自身は何れこうなることが分かっていたということか。そして、そのための対策になる存在を探していた。……となると候補としたのは同じ師から学んだミレーアが第一候補だな?何度か接触したのも鍛えるためで合っているか?」
「……正解。忌々しいね。師のことを知っているだけにその薫陶受けた私がどういった行動を取るか予測は付きやすいってこと?」
アギトの言葉を否定せず顔を顰め肯定するマリア。
「お前達の師は行動そのものは単純だからな。単純故に動き出したら止めようがないがな……それで此処まで来ることになったお前はどうするつもりだ?」
アギトにそう問われたマリアは少し困ったような表情で頬を指で掻いた。何度かミレーア達にも視線を送り何処か戦いたそうだ。その辺りは変わらないんだなとミレーアは考えているととりあえず方針を決めたのかマリアは拳を構えた。
「とりあえず寝起きのウォーミングアップにつき合って貰おうかな? 拒否権は無いよ……!!」
そういうと一気に疾駆しミレーア達に接近するマリア。最初に反応し前に出たのはミレーアだ。マリアも前に出たミレーアを最初の標的にし、疾駆する勢いのまま拳を繰り出すとそれに合わせるようにミレーアも拳を振るった。
「っ!! 重い!!」
「へぇ……こうして私が直接拳を合わせるのは初めてだけど。うん……ちゃんと鍛錬は欠かしていないようだね。ならもっとギアを上げても大丈夫そうだ」
そうマリアが呟くと拳の圧が急激に高まった。
「っ!!」
それを感じ取ったミレーアは自身の力を高めマリアに対抗する。それによって周囲の空間にも感じ取れる程の何らかの圧が生まれ始め周囲の小石など弾かれるように跳んだ。マリアの方は涼しい顔をしているがミレーアは力を制御にするのに手が一杯なのか何処かか必死に形相だ。
「ぐっ!!くっ……!!」
「ほらほら頑張らないと腕が無くなるよ!!」
更に圧を高めたマリアの前に徐々に押され始めたミレーア。リュウ達は援護に入ろうとするはミレーアとマリアが生み出した圧に阻まれ近づくことが出来ずにいた。一体これは何だとリュウ達は考えるがこれが何であるか考察するよりも突破する方法を考える。
「アギト!! これを突破する方法はないか!?」
「俺もこんなのを見たのは初めてだ。どうやら二人の戦いが妙な干渉を起こしているみたいだな……こうなっては迂闊に手を出すよりも見守る他ない」
そう答えたアギトから視線をミレーアの方に向けるリュウ。視線の先ではマリアに押され追い詰められるミレーアの姿。手出しが出来ない事態に歯痒い思いをするアギトだが、今はミレーアが自力で何とかするのを期待するしかない。
「ふふふ、こんなものかな? あっちの私がいろいろとやっていたようだけど全部無駄がったみたいだね!!」
「づっうく!!」
ミレーアに煽るように語り掛けるマリア。必死の形相で押し返そうとするミレーアだが実力差は如何ともし難くどうにもならなず益々圧されていくだけだ。
「負けない……負けるわけにはいかない!!……敵対していたけど姉弟子が私が止めることを期待してたのならそれに答えて見せないとぉ!!」
ミレーアは負けてたまるかと言わんばかりに叫び力を引き出そうとするが右腕に激痛が走り始めた。無理な力の代償にフューアと融合している状態でもミレーアの体が耐え切れず悲鳴を上げ始めたのだ。一方で自身以上の力を出している筈のマリアは涼しい顔をしている。
「ほらほら!! それじゃあ私には勝てないよ!!」
「ぐぅ!?」
更に力を込めミレーアを押し込もうとするマリア。堪らず膝をつきそうになるがミレーアは寸前のところで耐えた。どう考えてもマリアの方が全ての面で上回っており、一朝一夕でその差を埋められるものでは無い。ならば自分の長所で活かすしかない。ミレーアは自分とマリアの違いを必死で考えそれが打開策にならないか考えた。
(……フューア聞こえる)
(みゅあ!!)
もしやと思いミレーアは心の中でフューアに声をかけてみれば反応が返ってきた。それに少しだけ内心でほっとすると真剣な声音でミレーアはフューアに問いかけた。
(フューアにはこの状況を何とかすることは出来るの?)
(―――みゅあ)
少し間を置いてミレーアは方法が有るような返事を行った。あるにはあるだけど出来れば使いたくはないという思いが融合していることもありミレーアにも伝わっていた。それは使えば自身が使えばただで済まないからではなくミレーアに何が起こるのか不明だからだ。
(私なら大丈夫……だからやって)
(みゅぁ!!)
フューアも覚悟を決めたのかミレーアに答えるように力を解放した。フューアによって解放された力はミレーアの体の隅々まで行き渡り体を内側から変質させてゆく。其処に痛みや恐怖はなくただ体全身に行き渡る力に身を委ねるだけだ。
「つぅ……成程ね!!」
「これは!?」
何かを掴んだ風なミレーアに対してミレーアのしたことに驚愕するマリア。それと同時に今まで押されている一方だったミレーアの拳が逆にマリアを押し返し始めていた。
「成程ね……そう来るとは思わなかったよ!!」
「勝つためなら手段は選べそうにないからね!!」
既に形成は逆転し遂にはマリアを押し飛ばした。
「ふう、軽いウォーミングアップのつもりが本気を出すことになるとはね」
空中で態勢を立て直し地面に着地したマリアはミレーアとぶつかり合った腕を見た。マリアの腕はミレーアとのぶつかり合いによって肉だが裂け血塗れとなっていた。それでも回復魔法が使える彼女にとってその程度の傷は直ぐに治る程度のものだ。
「……かつての決戦の地。そこで待っているよ」
それだけを伝えるとその場から飛び上がりマリアは高速で空を飛びこの場から離脱したのだった。




