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第百話 吸収

「速い!?」


 突如として爆発的に速度の上がったフォレスト・タイガーに驚くリュウだが慌てず冷静に彼は躱した。河躱されたフォレスト・タイガーの前足の一撃は木々を数本薙ぎ倒す程の威力を発揮していた。其処から速度だけでなく威力も相当上がっていることが伺えた。


「これは……さっきよりも厄介なことになったな!!」


「一体何がどうなってるんだ? アギトは先程何かが呟いていたがフォレスト・タイガーに何が起こったのか分かるのか?」


「推察も混じるが、おそらく中にいた寄生虫の方が異常進化したんだろう。そして、速度が上がったのは寄生虫によってフォレスト・タイガーの生物としてのリミッターが外された可能性が高い」


「……火事場の馬鹿力という奴か」


「そういうことだ」


 動物は基本的に全力を出せば体が壊れ破綻してしまうため、脳が無意識でリミッターをかけている。ただ非常事態となればそういったリミッターが解除され普段は出せない力を出すことが出来るようになる。そして、それは魔力で体を強化出来る魔獣や魔物も変わらない。しかし、方法は不明だが現在のフォレスト・タイガーはそのリミッターを内部で変異した寄生虫によって部分的に外され通常以上の力を発揮し続けていた。


「見るに堪えないな……」


 先程よりも力も速度も上がっているが動きは単調であり、リュウ達には回避も反撃もスピードに慣れてしまえばそれ程苦では無かった。そのためリュウ達の反撃によって大小の手傷を負っていくフォレスト・タイガー。そしてその傷口が無理な力の行使の代償として裂け血が噴き出していた。このまま戦闘を続ければそのうちフォレスト・タイガーは力尽きることになるだろう。しかし、そうなっているにも関わず痛みなどに感じないと言わんばかりに暴れ出しているフォレスト・タイガーの姿を見てリュウ達も流石に哀れに思った。


「体の中の寄生虫に体を無理やり動かされてる。……多分もう脳まで浸食されているんだろうね」


「さっさと終わらせて上げるのが情けかもしれない、か」


 無理やり寄生虫に動かされ破綻していく体を見ていられず直ぐに終わらせることを決めたミレーア達だが最大問題はどう終わらせるかだ。


「エリアルさん、アーマーサウルスと同じ手は駄目なんですか?」


「……動きは単調になっているけどフォレスト・タイガーとしての警戒意識は残っていると見ると迂闊な魔法の準備は命取りになりそうかな。アギトの方もあれは駄目なの?」


「おそらく気配でばれる。仮に使えたとしても外せば少しの間は俺は戦力外だ。可能性があるとすれば……」


 アギトはそこで言葉を止めミレーアの方を見た。その視線の意味することを分からないミレーアではなかった。


「あれですか……ですけど、あれも時間が足りません」


 フューアと融合することで使える異獣の捕食能力。しかし、どちらも使用した時は相手が殆ど抵抗出来ない状態にした時のみだ。今のように動き回る相手には使用したことは一度もなかった。使えれば大した時間はかからないとはいえ常に相手に触れていないといけないため、俊敏に動き回るフォレスト・タイガーには流石に厳しいと言わざる得ない。仮に中途半端に成功し、逃げられればフォレスト・タイガーは二度とミレーアに近づくことはないだろう。


「っ!?」


 前衛でフォレスト・タイガーとせめぎ合っていたリュウは突然動きを変えたフォレスト・タイガーから生えていた寄生虫の脚に目を見開いた。今の今まで攻撃らしい攻撃をしていなかった脚が突如として鋭い脚の先端をリュウに向かって振り下ろしたのだ。突然の事態に反応が遅れ後手に回ったリュウに対して数本の脚が襲い掛かった。一本目はリュウが躱したことで地面に鋭い先端が突き刺さり、二本目がリュウが躱した先を予測するよう繰り出されそれを剣で防ぐが勢いを完全に相殺することが出来ず彼は態勢を大きく崩したところに三本目の脚が止めを刺しにかかった。


「させん!!」


「はぁああ!!」


 三本目の脚をハロルドが抑え込み続いて動き出した四本目をミレーアが高く跳び拳で破壊した。五本目は強めの魔力を込めたリナの魔力矢によって間接部分を撃ち抜かれた。立て続けに二本の脚が破壊されたことで警戒しそこで攻撃を止め、回避行動へと移った。


「やはり動きの詰めが甘い!!」


 逃げる先を予想しそこで待ち構えていたアレクシアの剣がフォレスト・タイガーの後ろ右脚を切り落とした。万全な状態のフォレスト・タイガーならこんなことにはならなかった。寄生虫に半ば操られている状態のため、今まで培ってきた経験が活かしきれていないのだ。


「へぇ……」


 足を切り落とされたフォレスト・タイガーを見てアレクシアは小さく呟いた。傷口から得体の知れないもの出るとそれらは蠢きまるで義足のように切られたフォレスト・タイガーの脚を補完した。それは表面が波打ち動いていることから何であるのか直ぐに察することが出来た。


「……別の寄生虫か」


「寄生虫自体は野生の生き物や魔獣や魔物なら不思議なことではないが……此処まで影響が出るのは異常だな」


 異獣に関連することで一番知識のあるアギトから見ても今のフォレスト・タイガーの違和感があるのかそれが何なのか探っているようだ。


「ミレーアは何か感じられるか?」


「……探ってみましたが特にこれといっておかしない反応はないです」


 この中で索敵に一番優れているのはミレーアだ。その彼女が異常がないと言うのなら間違いはないだろう。


「みゅあ!! みゅあ!!」


 そこに何かを訴えるようにミレーアの肩に乗り鳴くフューア。


「フューア?……そっかやってみるよ」


 最初は訝しんでいたミレーアだがフューアが何を言いたいのか察しのかミレーアはフューアと融合し改めて索敵を行った。


「……いました!! 心臓付近に異獣の反応があります!!」


「発見されないように偽装していたといことか?……奴らはそこまで出来る程なのか」


 アギトも異獣が自身の反応を偽装してミレーアの索敵を欺いていたことに驚いたようだ。しかし、同胞であるフューアには欺くことが出来ず、ミレーアと融合したことで彼女にも存在を確認されることとなった。ミレーアにとってもまさかフューアと融合することで索敵能力が向上するとは思いもよらなかったことだ。


「話に聞いていた寄生するという進獣か!!」


「フォレスト・タイガーの中にいた寄生虫が異常成長したのもそれが原因だろうな……宿主だけでは不利と感じて寄生虫を使ったんだろうがそれが本体の知性を下げることになり逆に不利になるとは皮肉な結果だな」


「種が分かったのは良いが対策は?」


「このまま攻め続ければ問題ない。異獣による異常変化ならこれ以上の変化は第二フェイズでは難しいだろうからな」


「そうなのか?」


「ああ、それが第二フェイズの限界でもあるからな」


 話を聞いていたミレーアは街で戦った異獣に寄生されて変異したワイバーンのことを思い出した。状況が不利になると変化を繰り返していたが最後にはその変化によって空を飛ぶことが出来なくなりミレーア達に討伐されることになった。そして今も変化によってフォレスト・タイガーの持ち味である知性が低下したことで戦況がミレーア達側へと傾き始めている。


「身体能力はまだ上がっているようだが比例するかのように攻撃が単調になっているな……お陰でどんどんやり易くなっていくな!!」


 高ランクの冒険者にとってみれば知性の無い単純に力だけの魔獣など木偶の坊であり、これなら同じ大きさだった場合単純な故に強力な猪魔獣の方が余程脅威である。しかし、それが理解出来ないのかフォレスト・タイガーの中にいる異獣は只管同じ失敗を繰り返している。力が有れば強く速度があれば有利になる。しかし、本来の用途とは違う無理な変化に徐々に素体であるフォレスト・タイガーの体が耐えられなくなり始めていた。


「どうやら頭打ちのようだな?」


 ついに体が耐えられなくなり崩れ落ちるように倒れたフォレスト・タイガー。今がチャンスだと言わんばかりに止めを刺すために詰め寄るミレーア。


「……下がれ!!」


 何かに気づいたアギトがミレーア向かって叫ぶと彼女は足に力を込めて急停止すると頭上から落ちてきた何かがフォレスト・タイガーの頭を掴むと光の粒子が溢れ出し、掴んだ何か吸収されていく。それはミレーアが今まさにやろうとしたことであり、この世界で出来る者はいない筈のものだ。


「いや、同じ師を持つあなたなら出来る可能性はあったか」


 そうフォレスト・タイガーを吸収したのはミレーアの姉弟子でもあるマリアであった。

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