捨て犬
短いです
さて、魔王城。一時帰宅をしたアリスの目の前には、仁王立ちのエンプティが立っていた。
腕を組み、怒りの表情でアリスを見下ろしている。
「アーリースーさーまー?」
「はい」
「返してきてください」
「やだ!」
「あら、かわい……じゃなくて、こんなにペットを連れてきて! どうするつもりですかっ!」
それに対して、アリスはエンプティの前に座らされていた。いわゆる、正座である。
何でもかんでも拾ってきてしまうアリスに、今度ばかりは許せないエンプティ。
ハインツと共に、アリスを叱っているのである。
実際、拾ってきたのが一匹ならばまだしも。
彼女が最終的に連れてきたのは、全部で五匹である。
しかもそれぞれが巨大な体躯を有しており、日々拡張が進んでいる魔王城とて収容に困ってしまったのだ。そもそも魔獣を室内飼いするというのは、あまりにも非常識だが。
「だってほしかったんだもん!」
「それで何匹も何人も拾ってきましたよね? ちゃんと世話出来ていますか?」
「定期的に情報確認してるもん!」
「うふっ、もんって可愛いですね」
「エンプティ!」
アリスが捨て犬を拾ってきた小学生のように抗議をしている。
エンプティはそれに気を取られて、自分の意思を失いそうになっていた。横からハインツがツッコミを入れれば、彼女もハッと我に返る。
アリスのわがままは、今までも何度も聞いてきた。
しかし捕虜や人質、勇者などでもなく、そもそも人間でもない。拾ってきたのは魔獣だ。
アリスは城にいないことが多いため、一体誰が世話係をするのだろう。その懸念もあって、エンプティは今回ばかりは許可を下ろせないのだ。
「……ごほん。駄目といったら駄目です。今度ばかりは量が多すぎます。人間ならばまだしも、会話も不可能な魔獣ではありませんか」
「ちゃんとお世話するから~~!!」
しまいには、アリスは床に寝転び、ジタバタと抵抗を示す。
もはやおもちゃを買ってもらえない子供である。
そしてそんな女魔王に対して幻滅するわけでもなく、好感度が最高値まで達しているエンプティはそれを見てニコリと笑う。
「まぁ……可愛いです……♡見て、ハインツ」
「しっかりしろッ、エンプティ!!」
「はっ、そうだったわ、可愛さで誤魔化そうだなんて……。……ごほん! アリス様。いいですか。雑魚魔獣とはいえ、軍の魔族と比べれば強いです。管理するものも限られてくるんですよ?」
「うぅ……」
正論である。
幹部には幹部の仕事があるがゆえに、ペットの世話などできない。
となれば軍の方に仕事が回っていく。ハインツが育成を進めているとは言え、それでも平均レベルはまだまだ低い。
魔獣と戯れて問題ないほどの強者は、滅多にいない。数少ない貴重な人員を割いてまで、やるほどの仕事でもなかった。
「ふむ! もういっそのこと、施設を作ったらどうでしょうか!?」
「施設を……」
「犬小屋のようなものですッッ! そこでスライムに管理をしてもらうというのはッ!?」
「なるほど!」
――そんなわけで。
アリスは現在、大森林にいた。山ほどある木を伐採し、魔獣専用の小屋を作っている最中である。
「ガァウ!」
「おや、ルカ」
魔術による全自動で伐採を進めているアリスのもとに、一匹の魔獣が寄ってくる。
ルカとは、合成魔獣から生まれた子供の魔獣の名前だ。パッと思いついたものだったが、ルカ自身も気に入ったようだ。
「グル!」
「遊んでほしいの? 今私は仕事してるからなぁ……」
「グゥ……」
「わかった、わかったよ」
アリスがそういうと、森の影からガサガサと巨大な魔獣たちが現れる。
どれもがアリスの連れてきた魔獣たちだった。
ルカほど懐いてはいないものの、彼らの傷を全て癒したことと、あの悪魔たる場所から連れ出したことで信頼を得ていた。
一緒に遊ぶくらいには、仲が良くなったのだ。
「……まさか、作戦か」
最も仲のいいルカに頼み、アリスが遊んでくれるように仕向けたのだ。
よく出来た子たちだ、とアリスは感心した。
「さて、なにしたい?」
アリスが尋ねると、魔獣はどれもごろりとその場に寝転んだ。
キラキラと瞳を輝かせて、アリスの方へと目を向ける。犬猫を飼っていたことのないアリスでも、その瞳はなんとなく分かった。
(おぉ、これが噂に聞くもふもふ系転生か……)
相手にするのは凶悪じみた魔獣たちだが、魔王たるアリスにとっては些細な事だ。
アリスは彼らの要望通り、ワシャワシャと撫で回してやる。
「おー、よしよしよし。みんな傷も全快して、ゴキゲンだねぇ~」
魔獣達は、連れてきた際に全て治してやった。それもあって、殺気立っていた彼らは元気よく駆け回っている。
再びこんな自由が得られるとは思わなかったのだろう。
「なーんか忘れてる気がするなぁ……、……あ!」
勢いのまま魔王城に戻ってきたが、ヨナーシュたちをジョルネイダに置いてきたままだったのである。
宿は確保してあるゆえに困ることはないだろうが、指示を待ったままずっとその場に放置しているのだ。不安にもなるだろう。
それに宣戦布告をした以上、その敵地にずっと置いておくのは危険があった。
今すぐにでも回収に行かねばならない。
「やばいやばい、回収に行かないと」
「ガウ!」
「ん? 行きたいの?」
ルカはキラキラとした目を、アリスに送っている。
一番懐いているルカとしては、アリスとずっと一緒にいたいのだ。
「しょうがないな。ルカだけだよ」
「キュウ……」
「ブルル……」
「後でいっぱい遊んであげるから!」
ルカを連れて、アリスはジョルネイダへ。三人を回収しに戻るアリスだった。




