調査結果
「でっきたー!」
ようやくアリスの作っていた犬小屋――魔獣の家が完成した。
十分に魔獣が駆け回れるスペースに、防御魔術の付与された安心して眠れるスペース。戦闘たとしても破壊されないほどの強度。
他国の要塞と比べても、見劣りしないほどの強さを持った犬小屋である。
レベル130付近の魔獣を収容するのだから、これくらいが十分なのだ。
(作ってる最中に思ったけど、エンプティのスキルで収容しとけばよかったかもなぁ)
そうすればアリスがいつでも世話をできる。
エンプティのスキル〈亜空間完全掌握〉があれば、ずっと手元に魔獣を置いていられるのだ。
アリスの力があれば、常に空間内を大自然にしておくことは可能だ。しかしそれは魔術空間に生み出されたものにすぎない。
本物と雰囲気も何もかも変わらないだろうが、やはり心の持ちようだ。
「でも本物の自然の中で遊びたいよね?」
「ガウ!」
「うんうん」
小屋を手に入れて嬉しそうにしているルカを見て、アリスは頷いた。
自分が建てた小屋は間違っていない。彼らのためになった、と。
そしてルカだけではなく、同じく連れてきていた魔獣も楽しそうに駆け回っている。気に入ってくれたようで、アリスもホッとした。
「ついでにルカ以外の名前も決まったから、発表するね。みんなおいで」
ルカを始めとする、五匹の魔獣がアリスの元へと駆け寄ってくる。
どれも規格外のサイズで、そのほとんどがアリスを見下ろしている。
ルカ以外の魔獣は、ドラゴンから始まり、戦馬に白虎、そして植物タイプのモンスターだ。
「まず、ドラゴンちゃん。君は〝パーシ〟だよ」
「ギャウ!」
パーシと名付けられた魔獣は、青く巨大なドラゴンだ。体についている美しい鱗は、治癒の効果を持っている。
アリスが見つけた状態では、それらは人間によって剥がされていた。なんとも痛々しい姿になっていたのだ。
現在はアリスの魔術ですべて癒やしたため、本来の姿へと戻っている。
「それで、馬の君は〝ロット〟」
「ブルル……」
ロットは炎を纏う黒い戦馬である。
現在のように戦う状態でなければ、足先だけが小さく燃えているのだが、戦闘になると全身が燃え上がる。
見た目の美しさとは裏腹に、その炎の強さは絶大だ。闘技場でも、さぞ人気だったことだろう。
「白虎の君は〝ヴィエール〟だ」
ゴロゴロと巨大な甘えた声を出している白虎、ヴィエール。
彼は前足がなく、そのせいで群れから捨てられたのだと言う。アリスが足を生やすことも可能だと伝えたが、彼にとってはそれがアイデンティティだそうだ。それに彼いわく「相手に対するハンデ」だという。
それにヴィエールをただのホワイトタイガーだと侮っていると、戦闘で痛い目を見る。
彼の模様は、戦闘時に剥がれ落ちて剣となりて戦うのだ。
そういう魔術かと思ったが、もともとそういう種族らしい。
「残りの君は〝リスタ〟だよ。あ、ここの土はリスタ用だから、使っていいよ」
「♪」
リスタは植物系のモンスターだ。
体は大量の葉に覆われ、ギラギラと光る目だけが見えている。周囲には、ツタやツルなどの伸びているものがウニョウニョと蠢いている。
出会ったばかりは栄養も土も、何もかも奪われており非常に弱っていた。あまり強くなると、闘士たちが勝てなくなるからだろう。
連れてきてからは、水や肥料などを与え、どんどん元気になっていった。
「さて、気に入ったかな?」
巨大な魔獣たちは、それぞれの言葉で喜びを表現している。
少なくともアリスの付けた名前は嫌がられなかったようで、アリスもホッとする。いつまでも名無しでいるわけにもいかないため、安心したのだ。
「それはよかった」
「アリス様」
アリスの作った小屋に現れたのは、スライム美女であるエンプティだった。エンプティはアリスを呼びに、小屋にやってきたのである。
そんなことを知らない魔獣たちは、素早くアリスを囲った。まるで守るかのように動いたのだ。
とはいえそんなことをしても意味はない。
エンプティは敵ではないし、もっといえば敵対した場合彼らは勝つすべはない。
レベル200たるエンプティと、最大でレベル124程度の魔獣では勝ち目がないのは見えている。
「こらこら。エンプティは敵じゃないよ」
「グルルル……」
「よしよし」
「チッ、魔獣の分際でアリス様に愛でられるなど……!」
「君も対抗するんじゃないよ」
エンプティもエンプティで、高レベルの余裕の態度――ではなかった。
アリスのこととなると周りが見えなくなり、冷静な判断が下せないのか、魔獣相手に張り合おうとしている。
というより、愛でられているのが気に入らないというところもあった。
「で、どうしたの?」
「はい。幹部の準備が整いました」
「あぁ、うん。行くよ」
魔獣と部下が〝じゃれている〟ところ悪いが、アリスは他の幹部を呼び出していた以上行かねばならない。
アリスが幹部を召集していたのは、先日まで行っていたジョルネイダについての報告だ。
これから戦争も控えることとなるため、特に軍は準備の必要がある。他の幹部もジョルネイダの動きに注意をして、警戒をしなければならない。
情報共有と、部下たちの顔を見たいという意味も含めて、会議を開くのだ。
「クーン……」
「ごめんね~。やることがあるから行かなくちゃ。スライムを残しておくから、困ったら頼るんだよ」
「ガウ!」
アリスはそう言うと、スキル〈スライム生成〉でクローンを作成した。
このスキルで生成できるスライムにはレベル上限はあるものの、この魔獣たちと遊ぶ程度なのであれば十分なレベルだ。
スライムに動物と会話可能になる魔術を付与し、魔獣が存分に遊べるように耐久値も上げる。戻ってくるまでに残っていればいいけど……などと心配しつつ、アリスは玉座へと向かった。
玉座の間に辿り着くと、すでに幹部が待機していた。
そこをアリスが通り、玉座へと座る。後ろからついてきていたエンプティは、待機していた幹部の中に混じって傅いた。
集まれる幹部はここへやってきているが、遠方で仕事をしている者たちは通信魔術での参加。いつものスタイルだ。
「おまたせー。それじゃあジョルネイダの勇者に関して、だよね」
「人間種の分際で、アリス様のお背中に傷を負わせた愚者ですね」
「なっ!? それは事実か、エンプティッッ!」
「ヨナーシュが言っていたわ」
(……げっ、あれ見られてたんだ……)
勇者との戦闘の際は、すでに逃げているものかと思っていた。そのため油断をしていた。
それにまさかエンプティに報告を上げるとは思わなかった。
エキドナのスキルで傷はすぐに癒えたものの、それなりに深くザックリと切れていた。あの遠かった観戦席からでも分かるくらいには、怪我を負っていたのだろう。
幹部たちはアリスが怪我をしたことでもちきりだ。このままでは話が進まない。
アリスはパンパンと手を叩く。すると幹部たちはすぐに静かになった。
自分のことで怒ってくれるのはとてもありがたいことだが、いちいちそこで会話が止まっては報告会の意味もない。
「はーい、落ち着いて。私は何ともないから。脱線しないの」
「失礼致しました……」
少々不服そうだが、気にしないふりをして話を進める。
咳払いをして、アリスは続きを切り出した。
「まぁ、確かに愚かな子供という意味では合っているかな。純粋なのが命取りだね。彼らは大人に、良いように利用されている」
その点を考えると、オリヴァーはまだ安定していた。
王国も余裕があったため、子供を騙すような手も使っていなかった。
そもそも王国は勇者を召喚したのではないため、それもそうだろう。必要として喚んだのではなく、たまたま生まれた英雄の子が勇者となっただけなのだ。
転生していた彼からすれば、中身から違ったのかもしれない。
前世について語り合う機会はなかったが、中高生のまま転移させられてきたジョルネイダ勇者とは違って、中身は成熟した人間だったのやもしれない。
オリヴァーも死んだ今となっては、どうでもいいことだ。
「天真爛漫といえば聞こえはいいけど。物事を知らなすぎるかな。勇者ならば、闘技場のやっていることを止めそうなのに。彼はそこで見世物として戦っていた」
「上の人間に騙され、言いくるめられて信じていた、と」
「うん。だって、崇高な勇者様なら、魔獣と魔獣を組み合わせて作ったものなんて、命に対する冒涜だと思いそうでしょう?」
「そういうものなのですか?」
「………………うん。普通ならね……」
完全な同意を求めていたわけではないが、予想以上に不思議そうな反応が戻る。
彼らは魔王軍であるため、倫理や善悪から逸脱していてもおかしくないのだから、当然と言えば当然だ。
何かを期待していたアリスのほうが間違いなのである。
「それに些細な問題だけど、今回の相手する勇者は三人ともレベル199だ」
「ふむッ! 少しは戦えそうということですか!」
「そういうこと。宣戦布告はしたから、向こうもちょっとは私達を意識してくれると思うよ」
『ではイルクナーでは、他国からの上陸確認をより厳しく致します。ジョルネイダ側からの入国が認められた場合、即座に伝達させて頂きます』
「よろしく、ユータリス」
上陸してくるのはイルクナーに限った話ではないが、立地的には一度イルクナーに上陸したほうが近いだろう。
最短距離を取った場合、魔族や魔物のウジャウジャいる大森林を通らざるをえない。
そこで兵士の大多数が減る可能性も考えれば、パルドウィンのように無難に玄関口から入ってくるのがベストだろう。
「それにあたって、パルドウィンも警戒したほうがいいよ」
『まぁ、まぁ……。敵国ですが、そうなのでしょうか……』
「ジョルネイダはパルドウィンが、敗戦したのは知ってると思う。スパイを忍ばせて、敗戦国の状況を調べるんじゃないかな?」
『なるほど……。ブライアンには警戒するよう……お伝えします、お伝えします……』
(しかし、ブライアンか……。そろそろワンゼルムでも使うかな)
パルドウィンもとい、ブライアンは完全な従属の姿勢を見せたわけではない。アリスの絶大な力のもと、屈しただけだ。
それにかなう勢力が手に入れば、すぐにでも反旗を翻すだろう。
アリスは今まで温存してきていた、〝人質〟を開放することに決めた。




