↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王アリスは、正義の味方を殺したい。 後編  作者: ボヌ無音
第二章 化け物たちの恋

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/154

眼

差し替えました。

誤字報告もいただきまして、とても助かりました。ありがとうございます!

 一番初めに紙を手に入れたとは言え、さすがに入り口に戻るのも一番乗りなのは少々厄介である。

 適当に森の中をふらつきながら、入り口付近の探知をする。

 三番か四番目程度が妥当だと考えているアリスは、他の参加者に出くわさない程度に森を散策する。

 森の中は、魔物が大量に配置されている以外は普通だ。アリスの住んでいる大森林とさほど変わりは無い。

 そんな代わり映えのない場所をぐるぐると回りながら、早く合格者が出ないかと欠伸をする。


 五分ほど待てば、入口に人間が増えた気配がする。

 その誰もが森からやって来ている。合格者だと考えて間違いないだろう。

 アリスもぼちぼち向かうか……と、足を向け始めた。



 ◆



「ったぁあ! ギリギリ間に合ったぜ! って、俺が最後か!」


 アリスの後――つまり、五番目に到着したのは、ターナーであった。

 この虫ケラでも生き残ることが出来るんだなぁ、とアリスは少しだけ感心する。

 見つからないようにそっぽを向いていたが、ターナーにまんまと発見されてしまった。


「あ! 兄ちゃんも受かってたのか!」


 駆け寄ってきたターナーを無視しつつ、アリスは改めて周りを見た。

 用意された紙の数だけ、ここに合格者がいる。誰かが欠けると予測されていた難易度だったが、やはり自信を持って受験するだけあって、手練が揃っていたらしい。

 一人は……おかしな者もいるが。


 設置されていたテントから、美しい少女が出てくる。

 誰もが目を奪われる彼女こそ、この帝国の光である。聖女・ジュリエットである。

 ジュリエットは予想以上の合格人数を見て、キラキラと目を輝かせた。


「まあ、こんなに……。今日は豊作ですね。では――殺し合ってください♡」


 ざわめきが起こる。

 それもそうだ。聞き間違いだと思うくらい、ありえない単語が飛んできたのである。

 ――殺し合い。

 自分の耳を疑った。聖女たる女が、人を殺めろと命令を下した?

 誰もが混乱していた。

 否、一人を除く誰もが混乱していた。


「おや? 聞こえませんでしたか……?」

「な……、狂ってる!」

「まさか、生還者がいないのって」

「うふふふふ♡」


 ジュリエットは意味ありげに微笑んでいる。

 はっきりとは言わないが、それがイエスだと受け取れるのは簡単なことだ。


「な、なぁおい、兄ちゃん。棄権しようぜ。命がありゃ、なんだって――」


 ターナーがアリスにそういったとき――アリスはパチンと指を鳴らした。

 すると、辺り一帯の時が止まる。誰もがその場で制止し、動かなくなった。

 アリスと、ジュリエットを残して。

 ジュリエットは異様な空間に残されて、目を丸くして驚いている。


「……あら?」

「ふぅ。バレてるなら直接話したほうが早い」


 ジトリ、とアリスはジュリエットを見た。

 ジュリエットはアリスと目が合うと、柔らかく微笑んだ。アリスにはそれが作り笑顔なのだとすぐにわかった。


 この女、聖女ジュリエットは、アリスが〝アレス・トーランド〟ではないことを察していた。

 彼女がこの場所に現れた瞬間、直感的に「バレた」とわかったのだ。

 さすがは聖女と言うべきなのか、とアリスは感心を寄せた。


「まぁ! 気付いているのもご存知なのですね。それでは、取り繕う必要もありませんか」

「随分とエグいステータスを持っている聖女様だ。私のことも分かってるんだろう」

「なんと……私のことを読み取れたのですか?」


 ジュリエットは愛想笑いをやめようとしない。

 時間が止まっているこの空間には、アリスとジュリエットしかいないというのに、まだ彼女は自分を偽っている。

 それが気に食わないアリスは、早くこの化けの皮を剥がしてやりたいと苛立つ。


「聖女というより、帝国の勇者だな。レベル199はその程度だろう。それに君のスキル――〈真実を覗く者(ウォッチャー)〉。私すら見抜けるスキルだ」

「そこまでお分かりなら素晴らしいです! うふふっ」


 アリスが読み取ったステータスの中に記載されていたひとつ。〈真実を覗く者(ウォッチャー)〉。

 相手の正体や隠密など、全てを見破るスキル。

 これはスキルだけではなく、魔術も含む能力の中で最強と呼ばれるスキルだ。

 こんな規格外なスキルであるから、取得できる人間は限られてくる。

 だからこそ、レベル199である聖女ジュリエットが手に入れられたのだ。


 それはそうと、ジュリエットはそのスキルによって、アリスが魔王であることを見抜いていた。


「あなた様はどうしてこちらに?」

「君に会いに来た」

「まぁ……!」

「語弊があるな。君に頼みたいことがあってきた。世間で流行ってる魔術器具を、ちょこっと褒めて欲しい。アレは私の作品で――」

「あの素晴らしい作品ですか!? もっと大々的にアピールしましょう!」


 グイグイと寄られ、食い気味に話を進めるジュリエット。

 あまりの食いつきに、アリスは余計に不快な顔をする。

 レベル的には、帝国の勇者だというのに、こんなに魔王に擦り寄っていて良いものなのか――と、敵ながら疑いの目を向ける。


「そんなわざとらしいのはいらない」

「なぜ!?」

「あからさますぎる」

「……まぁ、分かりましたわ」


 渋々、と言った様子だったが、ジュリエットは納得した。

 アリスはチラリと周りを見る。時間が止まっているせいで、合格者たちは動くこともない。

 彼らの顔は、ジュリエットによる発言のせいで驚愕に染まったままだ。

 これをどうするか。


「それで。こいつらを殺せば良いのか?」

「えぇ。あなたを騎士として選びたいです」

「では解除するぞ。元の場所に戻れ」


 ジュリエットが時間を止めた際の位置に戻ったのを見ると、アリスは時間停止魔術を解除した。

 時間が動き出せば、生き延びたいと叫んでいたターナーの声が再び響く。


「――命がありゃ、なんだって出来るんだから!」


 と、同時に。ドスリ――と鈍い音もした。

 音の根源に目をやれば、それはターナーの胴体。ターナーの胴体には、深々と大剣が突き刺さっている。

 そしてその剣は、アリスの持っている大剣だった。


「……え? ……がはっ」


 アリスは勢いよく大剣を引き抜いた。

 ターナーはそのままよろめいて、地面に膝をついてしまう。

 腹部にはポッカリと大穴が空いていて、たかが狩人レベルでは生きられない。

 ターナーも例に外れることなどなく、そのまま前方へと倒れた。


「な……ん、で」

「……」


 薄れゆく命のターナーの疑問に、アリスは答えることなどない。ただ冷ややかな目を送って、死体になりつつあるターナーを跨いで歩く。

 それに、ほかの合格者もだ。ターナーの「なんで」という言葉通り、アリスの行動に疑問を抱いた。

 普通であれば、ここでは殺さない。

 人を殺してまで、聖女の護衛になりたいと思えない。清らかな乙女に仕えるのであれば、その正義が大切になってくるはずだから。


 アリスは躊躇いなどなく、呆気に取られている残りの三人にも剣を向けた。

 三人も、ただ黙って殺されるわけもなく。各々の武器を取りだしてアリスに挑むが、彼女には通用しなかった。




 数分と経たないうちに、その場は血の海へと作り替えられていた。

 四人の死体が転がり、傷一つない一人の剣士が立っている。

 アリスは大剣を大きく振って、付着していた血液を飛ばした。


「殺しました」

「はい♡彼と結婚します♡」

「はぁ!? ジュリエット様!?」

「ち、違います……、しません……」


 ジュリエットの側近たちは、彼女の発言に驚いている。

 普段から我儘を極めていた彼女だったが、こんなことは一度もなかった。

 そもそも、ジュリエットのお眼鏡にかなう存在がいなかった、ということもあったが。

 それに彼女は帝国の第二皇女だ。そう簡単に、結婚など結べるはずがない。

 貴族相手ならばまだ検討のしようがあれど、目の前にいるアリス――アレス・トーランドは、爵位すらない普通の青年なのだ。


「しますっ!♡」

「しませんってば。あの、助けてください……。私が欲しいのは護衛騎士の称号です」

「そんなのあげます♡」

「誰か助けて……」


 アリスの制止を聞かず、ジュリエットは腕を組んですりすりと頬ずりをしている。

 いつものジュリエットを知っていれば、彼女がここまで懐いている相手は貴重だ。その異様な光景に、助けることも出来ず誰もが眺めているだけだった。

 アリスは誰も止めてくれる人が居ないと理解すると、再び時間を止めた。


「いい加減にして」

「どうしてですか!?」

「ちょっ……、あのさ。私は君と結婚するために、来たんじゃないんだよね」

「存じております♡」

「本当に魔王だと分かってるの?」

「はい♡」


 ジュリエットの返答がどうにも締まらないので、アリスは嘆息しながら姿を変えた。

 驚かせてやろうと体に闇を纏いながら、青年から魔王の姿へと戻っていく。

 平凡的な茶髪は、サラリと伸びた長い白髪へ。瞳の色は白と黒の反転した目に。着慣れた民族衣装(アオザイ)を纏い、レースの羽衣をふわふわと浮遊させている。

 頭部には黒く大きな角がまみえており、肌には鱗が点在している。

 ジュリエットを威圧するかのように、魔力を溢れさせた。


「――これでも結婚だって?」

「……ッ、はぁん、……ぁは♡♡はい♡♡」

「はあ……」


 アリスは頭を抱えた。

 自分の周りには、こんな子しかいないのだろうか――と。

 もしも好かれるのならば、ガブリエラのような天真爛漫な少女のほうがまだいいものを、と思っていた。

 しかし、好いてくれるのは頭のネジが一本外れている者たちばかり。エンプティはアリスがそう設定したため仕方ないとしても、茜やジュリエットはどうしようもない。

 そもそも、魔王を好きになるということ自体、頭のネジが外れているのだろう。

 そう思えば納得することだった。


「ところで……わたくしの護衛となれば、四六時中、一緒にいることとなりますけれど♡」

「大丈夫。代わりを置いていく。緊急時は、私と入れ替わるよ」

「んもう……! 寂しくなりますわっ」

「つい今会ったばかりですけど」


 アリスは時間停止魔術を解除すると、護衛としての契約を結び、魔王城(じたく)へと帰ることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 聖女さんいいキャラしてるなー笑 [一言] こういうキャラすこすこのすこ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。