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魔王アリスは、正義の味方を殺したい。 後編  作者: ボヌ無音
第二章 化け物たちの恋
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初めての外出

「帝国に行きたい、ですか」

「い、いき、いきたい」

「……」


 ユータリスは手に持っていた資料から目線を外し、都合が悪そうな顔でスケフィントンを見やる。

 国民をアリスの教徒に作り変えつつ、一国の管理を任されている身として、日々頭の痛い日常を過ごしていたユータリス。そこに、再び頭痛の原因が投下される。

 珍しくスケフィントンが、「話がある」と言うものだから、聞いてみたらこれだ。

 モジモジと恥ずかしがりながら、スケフィントンは外に出たいと申し出た。

 これが他の部下ならば、少しだけ考えて了承を出していただろう。表舞台に立たない――気味の悪いクリーチャーであるスカベンジャーであっても、ユータリスは許可を出した。


 スカベンジャーもエクセターも、まともな思考と対話能力を持っている。見た目は奇妙なれど、人間と接するにあたって一番必要な部分が足りているのだ。

 それに見た目など、魔術で何でもごまかせる。

 だがスケフィントンは、そうはいかない。彼は思考どころか、対話すらままならない。

 会話出来るどころか、感情のコントロールも上手く行かず、都合が悪くなればすぐに癇癪を起こす。そんな部下を、管理下ではない土地へと送り込めるだろうか。


「……アリス様に確認を取ってみます。私だけでは、送ることは出来ませんから」

「お、おね、おねが、し、おねがいま」


 ユータリスはスケフィントンを一瞥しながら、アリスに通信魔術を送った。

 アリスは忙しくないのか、比較的早めにそれに応じる。


「お忙しいところ申し訳ありません。スケフィントンが帝国に行きたいそうで、確認のための通信となります」

『へ~、なんで行きたいの?』

「恐らく文通の相手に会いたいのだと思います」

『文通の相手……。ふぅん』


 アリスは否定することもなく、ただ含みのある物言いをする。

 何かを考えているようだが、それがいい方向なのか悪い方向なのか分からない。

 ユータリスとしては、はっきりと断るものだと思っていた。スケフィントンはどこに出しても、上手くやれることが出来ない。

 彼が一番この世で褒められることは、拷問くらいだろう。


「アリス様?」

『うん、いいよ』

「よろしいのですか?」


 意外な返答だった。

 否定が戻ってくるものだと思っていたため、すんなりと了承するとは思わなかった。

 アリスはそんなユータリスの驚きを察知したのか、すぐに言葉を続けた。


『リーレイの様子も確認したかったし。ベルが手すきだから、スケフィントンの監視も含めて連れて行こう。どうかな?』

「全く問題ありません」

『それじゃあそれで。そっちにベルを送るから、それまで待っててね』

「はい」


 ユータリスが返事をすると、通信魔術はプツリと切れた。

 そわそわと落ち着きのない様子で待っていたスケフィントンは、ユータリスを伺うように見つめている。

 ユータリスは小さくため息を吐いてから、スケフィントンへアリスからの了承を伝える。


「アリス様から許可がおりました。ベル様が付き添いだそうです」

「べ、ベベベ、ベルさま」

「いい子にするんですよ?」

「も、もち、もも、もちろ、ん」


 数分としないうちに、アリスはベルを連れてユータリスのもとへとやって来た。

 スケフィントンのためなんぞに、アリスがやって来たことに、ユータリスは少しだけ心苦しい。主人をそんな我儘のために動かしてしまったことを、後悔しているのだ。

 アリスはスケフィントンの入った呪詛箱を回収すると、ベルとともにすぐに帝国へと発った。

 ユータリスはできるだけ、丁寧にアリスたちを見送っていた。


 発った、とは言っても。アリスは既に帝国への〈転移門〉を生成できる。

 魔術を用いて門を開き、あとはくぐるだけだ。船に揺られて数日経る必要などない。

 人気のない港の影で、呪詛箱を持ったベルを転移させると、アリスはすぐに魔王城へと戻っていってしまった。


「あぁーん! ベルちゃん!」

「久しぶり〜、リレたん」

「寂しかったぁ! 僕一人なんだもぉん」

「よすよす」


 リーレイとは既に調整済みだったようで、転移先に彼が待機していた。

 ベルたちの前に、少女のような少年が現れる。人形のように透き通った白い肌に、独特な斜めに切りそろえられた頭髪。青色のガラス玉のような瞳。

 人形のような――とはいったが、彼は〝設定〟では機械人形(オートマトン)である。


 リーレイは、ベルなどの初期メンバーとは違って、アリスがこちらの世界にやって来てから追加で作成された幹部。

 運用にあたって、同等の能力を持つベルが手合わせをしたのだが――それがまた悲惨なものだった。

 お互いに頭に血がのぼり、ヒートアップした結果。ベルはほぼほぼ本気を出して、リーレイも同じくベルを殺しにかかった。

 最終的にアリスにより止められたのだが、良い結果であったとはいえない。

 それでも、機能テストとしては十分だった。


 開始こそよくなかったものの、ベルとリーレイは仲が悪いわけじゃない。

 むしろ、ベルとリーレイ、そしてルーシーは三人で仲良しなほうだ。

 だからこうして久々の再会を喜んでいる。


「それでぇ? スケフィントン……だっけぇ? 会いたい子がいるってぇ?」

「そ。出発前に、待ち合わせ場所を決めといたの」

「僕達はそれを見守ってればいいってことぉ?」

「そういうこと」

「日付はぁ?」

「いつだろ。スケフィントン」


 ベルが話しかけると、スケフィントンの入っている箱がカタカタと鳴る。

 スケフィントンが何かを言っていたり、主張していたりする証拠だ。

 しかしアリスや、直属の上司であるシスター・ユータリスとは違い、ベルとリーレイにはそれが理解できない。

 ベルはムッとした表情で、スケフィントンに言う。


「ユタちんとかじゃないんだから、あたしは何言ってるか分かんないよ」

「出てきて喋ってぇ?」


 ズルズルと呪詛箱から、スケフィントンが這い出てくる。

 のっぺらぼうとも言える何もない顔では、表情が掴めないが――リーレイとベルを前にして、少しだけ畏怖しているようにも見えた。

 50もレベル差があり、拷問に特化した〝インドア〟なスケフィントンとは違い、ベルもリーレイも戦闘向けの幹部だ。

 その力の差は、幼稚なスケフィントンでも理解できていたのだろう。

 それに普段、彼らとは顔を見合わせることなどない。余計に恐ろしさが増したのだ。


「ひ、ひひ、ひづけ、て、手紙の日、から、い、いい、いしゅ」

「一週間後ぉ?」

「そ、そそそそ」

「おっけー」


 帝国に来る前に手紙を出したとは言え、その手紙が届くまでタイムラグが発生する。

 スケフィントンの文通相手がそれを知るまで、まだまだ時間があるのだ。


「ねぇねぇ、だったら観光しようよぉ。僕ぅ、案内するぅ」

「そうだね。暇だしぶらぶらしよっか」

「ぶ、ぶぶぶ、ぶら、ぶら、ら……ぼ、ぼく、も、もも、戻る……」


 スケフィントンはいそいそと、自身のいつも入っている箱へと戻っていく。

 そして箱は、ベルの目線の高さでフワフワと浮き始めた。彼の移動方法は、いつもこれだ。

 普段ならば、エクセターの付近をフワフワと浮いているのだが、今回の旅にはエクセターは存在しない。

 ベルがついてくると聞いていただけあって、ベルの付近で浮遊をしている。


「いくら魔術に明るい国だからってぇ、流石に目立つよぉ?」

「じゃああたしが抱えてるよ。それでいいよね?」

「なら大丈夫ぅ!」


 ベルは浮いている箱を取ると、そのまま両手で抱えた。

 スケフィントンの視覚がどこにあるのか分からないが、ガタガタと抗議するように揺れないことから、この持ち方で問題ないのだと納得する。


 そのことを確認したリーレイは、ベルにキラキラとした視線を向けた。

 ずっと帝国で単独任務を行っていたリーレイ。久々に幹部に会ったため、興奮をしているのだ。

 それに〝設定年齢〟も近いベルだ。余計にそれは加速する。

 早く一緒に国を見て回りたいと、ソワソワしているのだ。


「ベルちゃん! 早くぅ、早く行こぉ?」

「はいはい」


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