冷静な解説
「スタシアナ姉様、少しは私やダースの身を心配して下さい! 私たちはいきなり、あの耳長女に吹き飛ばされたんですよ! 凄く可哀そうなんですよ!」
薄い灰色の頭を痛そうに擦りながら、エリンがダースとともにスタシアナの傍に来て不平を言っている。
エリンの隣にいるダースの顔はと言えば、アストリアが連れ去られたために、この世の終わりをそれは見事に体現していた。見ていて何だか可哀そうになるぐらいだ。ただ幸いなことに、二人とも目立った怪我などはないようだった。
少しだけ安堵の溜息を吐いた後、マルネロはヴァンエディオに視線を向けた。
「ヴァンエディオ、クアトロたちの行き先は分からないの?」
「さすがにすぐには無理ですね。今はまだ検討もつきません。時間をかけてクアトロ様たちの魔力を辿れば……といったところでしょうか」
マルネロにヴァンエディオが淡々と言葉を返してくる。
クアトロに命じられたとはいえ、あの面白骸骨、随分と勝手なことをしてくれたものだ。
「おい、クアトロたちの心配をしている場合じゃなさそうだ。ほれ、でかいのが出てくるぞ」
エネギオスがそう皆に注意を促した。見ると自分たちの正面に巨大な魔法陣が出現している。やがてそこから、人の三倍以上はありそうな巨大な人型の物体が姿を現した。
「わー。凄く大きいのですー」
スタシアナが小さな口をあんぐりと開けて、感心したようにそれを見上げている。スタシアナの横では、エリンも同じように口を開けてそれを見上げていた。確かにスタシアナが言うように、自分たちの前に現れた物体は縦にも横にも大きかった。
「へ? 何これ? 泥人形?」
マルネロは思わずそんな言葉を漏らした。だが、こんな泥人形をマルネロは見たことも聞いたこともなかった。表面は禍々しい不気味な黒褐色で、その素材は光沢があって何かの見知らぬ金属のようだった。
「どうやら天井が開くようですね」
ヴァンエディオが呟いた。
「へ……?」
マルネロは思わず間が抜けた返事をする。
天井を見上げると、鈍い音を発しながら天井が左右に割れていく。同時にぱらぱらと小石のような物も雨のごとく降り注いでくる。
「へ? だってここは地下でしょう? 違うの?」
マルネロの素朴な疑問を無視するかのように、天井は完全に左右に開ききってしまう。そして、その後は当然のように頭上には見事な青空が広がった。
どのような仕組みになっているのか、もはや意味が分からないとマルネロは思う。
そして案の定と言うべきなのか……その青空には、空が白い翼で染まってしまうと思えるほどの天使たちがいた。その数、二百ぐらいだろうか。マルネロの顔に暗い翳りが浮かぶ。
「天使が現れたということは、魔人たちも姿を見せるでしょうね」
ヴァンエディオが淡々と言う。
「はあ? 何、さっきから冷静に解説しているのよ! ヴァンエディオは!」
マルネロは思わずヴァンエディオに向けて甲高い声を発した。やがてヴァンエディオの言葉通り、泥人形の背後にいくつもの空間の揺らぎが起こり、そこから魔人たちが次々と姿を現してくる。その数、百程度だろうか。
「はあ? 次から次へと毎回、虫みたいに湧いてきて! もう! こいつら何なのよ!」
「泥人形はこの部屋の守護者。天使と魔人は神とやらが私たちに襲われたので、駆けつけてきたといったところでしょうかね」
ヴァンエディオがなおも淡々と解説をしている。
「はあ? 守護も何も、ここにいた主は、アストリアを連れてどこかに行っちゃっているじゃない! 来るのが遅いのよ! 全然、守護してないじゃない! 天使たちもそうだけど、今さらわらわらと出てきて何をするつもりなのよ!」
「私たちの……排除でしょうね」
マルネロの悪態にヴァンエディオが冷静に言葉を返す。その冷静さがマルネロをさらに苛立たせる。
「分かっているわよ!」
マルネロは吐き捨てる。
何か血が上り過ぎて頭が痛いと思う。
「おい、来るぞ!」
エネギオスが皆に鋭く注意を促した。




