古代の遺物
大広間全体に僅かな衝撃が感じられた。程なくして正面に位置していた壁の一部が、音を立てながらゆっくりと上に持ち上がっていく。
「凄い仕掛けだな。どういう仕組みになっているんだ?」
エネギオスが驚きの声を上げた。
「まあ、大した物ではないですね。言うなれば、古代の遺物といったものでしょうかね。最早、無用の長物ですよ」
トルネオは何故か淡々と寂しげに言って更に言葉を続けた。
「先頭はエネギオスさんとスタシアナさんにお任せします。最後尾はヴァンエディオさんにお願いをしますね。この先に自称、神が……もしくは自称、魔神がいます。できれば穏便に話を済ませたいところなのですが……」
トルネオはそこで言葉を切るとアストリアに顔を向けた。
「どうかされましたか? トルネオさん」
トルネオの視線に気がついたアストリアがそう尋ねる。
「いえ、アストリア様には申し訳ないのですが、彼らの思いも分かります。わたしもある意味ではそれを望み、そして不死者となったのですからね」
「はい……」
アストリアが要領を得ていない感じながらもトルネオに向かって頷いた。
「おい、トルネオ、いい加減にしろ。謎かけみたいな話はもう十分だ。さっさと行って決着をつけるぞ!」
先ほどからトルネオが言おうとしていることがよく分からず、実のところクアトロの中では苛々が募るばかりだった。
「ほら、言われている意味が分からなくて、私たちの馬鹿ちん王が怒りだしたわよ。さっさと行きましょう」
そんな様子のクアトロを見てマルネロが苦笑混じりで言う。
「マルネロ、それは言い過ぎなんですよー。クアトロは馬鹿ちんじゃなくて優しいんですよー」
マルネロの言葉にスタシアナが、急にぷんすかと怒り出した。クアトロがマルネロに非難されたということなのだろう。
「スタシアナは黙ってて。優しいとか優しくないの話をしているんじゃないんだから!」
マルネロが怒り始めたスタシアナを見て、面倒くさそうに顔を顰める。
「あら、おっ化けはもう怒り始めたのでして?」
エリンがそんな二人に割って入ってきた。
「怒り始めたのはスタシアナでしょう? それに何よ、エリン。おっ化けって?」
マルネロは燃えるような赤い瞳をエリンに向けて更に言葉を続けた。
「……言わなくても何となく分かるけどね」
「はあ? おっぱいお化けの略じゃない」
馬鹿ねえと言わんばかりにエリンがマルネロに向けて嘲笑を浮かべた。
「エリン、あんたねえ!」
マルネロが怒声を放った。その手には早くも赤い炎が揺らめいている。それを見てアストリアが慌てて止めに入った。
「マ、マルネロさん、落ち着いて……」
「さっきからうるせえぞ、お前ら! 少しは緊張感をだな……」
エネギオスも緊張感の欠片すらないこの騒々しさに耐えられないとばかりに割って入ってくる。
「はあ? うるさいって何よ? 筋肉ごりらは黙ってて!」
「ごりら言うな!」
「ち、ちょっと、エネギオスさんも落ち着いて……」
アストリアが必死にエネギオスの巨体を押し留めている。
「さて皆さん、そろそろいい加減にしましょうかね……」
ヴァンエディオの低い言葉に皆が一斉にごめんなさいと頭を下げる。いつもの光景といえばいつもの光景だった。
すると、トルネオが不意に笑い声を上げた。
「……どうした、トルネオ? 急に笑い出して気持ち悪いぞ。知らない間に何か変な物でも勝手に食べたのか?」
クアトロは気持ち悪そうな顔をトルネオに向ける。
「えー? トルネオ、また落ちてる物を食べたのですか? ぼくがいつも言ってるじゃないですかー。拾い食いは駄目なんですよー」
「何かわたし、随分と酷い言われようですね……」
珍しくトルネオが落ち込んだようなことを言う。一瞬だけ取りなそうかと思ったクアトロだったが、すぐにその考えを否定する。変に言葉を掛ければこの面白おっさん骸骨は図に乗るだけなのだ。




