不死者の王として
「クアトロー!」
上空から聞き覚えのある天真爛漫な声が聞こえてくる。
「へ?」
クアトロが慌てて仰ぎ見ると、スタシアナが漆黒の翼を広げて上空から急降下してくる。その背後にはエリンもいた。
「え?」
隣のマルネロもそれ以上の言葉が出てこないようだった。
スタシアナは一直線に急降下してくると、そのままクアトロの首に自分の両手を回してぶら下がる。
「ス、スタシアナ、何で……?」
満面の笑みを浮かべているスタシアナに、クアトロは辛うじてそれだけを言った。
「えへっ。ぼくもエリンも、こぴーで復活なんですよー。ほら、見て下さい。ぼく、翼の色も染め直したんですよ。前よりも、もっと綺麗な漆黒なんですよー」
「へ? こぴー?」
「そうなんですよー」
スタシアナは嬉しそうに頷いている。
「天使は個体の複製という手段で、永遠に近い時間を生きていますからね。そうでなければ、人と同じ形態の生物が、数百年も生きているなんておかしな話じゃないですか。それこそ不死者じゃあるまいし」
トルネオがもっともらしい口調で、そんなことを言っている。
駄目だ……。
トルネオの言っていることがまるで分からない。
クアトロは説明を求めてマルネロに視線を向けてみた。しかし、マルネロも死んだと思っていたスタシアナとエリンが、急に何事もなかったかのように現れたので、呆けたような顔をしているだけだった。トルネオが言ったことを理解しているようには見えなかった。
「まあ、クアトロ様とマルネロさんには……少し難しかったですかね」
あ、今、おっさん骸骨が馬鹿にした。
トルネオの言っていることは何だかよく分からなかったが、自分が馬鹿にされたことはよく分かるクアトロだった。クアトロが長剣を握っていた手に力を込めると、それに気がついたトルネオが慌てた様子で口を開く。
「い、嫌ですよ、クアトロ様。ちょっとした冗談じゃないですか。それよりも、こぴーを行ったのはこの私ですからね。完璧ですよ。完璧! 記憶も含めて、外見的にも内部的にも劣化なんて少しもありませんからね!」
トルネオが早口で捲し立てる。
「そうなんですよー。クアトロに、ぱんつを見られたことも、覚えているんですよー」
「そうでしてよ。私もクアトロに、ぱんつを覗かれたことを覚えていてよ」
スタシアナに続けてエリンもそんなことを言い出した。
いや……衛兵さんに怒られそうなそんなことは、劣化とやらで忘れてもらってよかったのだが……。
それに、エリン、皆が誤解する。
あれは覗いたんじゃないぞ。見えただけだ……。
クアトロは心の中で呟く。
「まあ、今はクアトロ様がもの凄い変態大魔王という話は置いといてですね……」
「トルネオ、本当に斬るぞ……」
「へ? あは、あはは……」
トルネオは笑って誤魔化すと、次いで真面目な口調で話を始める。
「クアトロ様、エネギオスさんたちを呼んでいただきましょうか。そろそろ、この一連の話に決着をつけてもよい頃合いかと。何せ、この神殿の地下には自称、神がおりますからね。」
「え? トルネオが何でそんなことを知ってるわけ?」
マルネロが不思議そうな顔でもっともな疑問を口にした。
確かに以前からトルネオは、この一連の出来事に関して、ある程度のことを知っているような素振りをみせてきた。
理由は知らないが、面白おっさん骸骨のくせに生意気だぞとクアトロは思う。
「まあ、私は不死者の王ですからね。大概のことは知っていますよ」
マルネロの問いかけに対して答えになっていないことを言いながら、トルネオが偉そうに胸を張ってみせた。そして、さらに言葉を続ける。
「それよりも今回の一件、私はかなり気に入らないですね。自称、神とやらには不死者の王として、ひとこと言わないと気が済みません」
何でトルネオがここまで偉そうなのか。加えてなぜ、ここで不死者の王の名が出てくるのかが分からない。
しかし、クアトロはそんなトルネオの言葉に押されるようにして黙って頷いたのだった。




