逃げるトルネオ
「偉大なる創造主、神の慈悲をその身で感じて消滅なさい! それがせめてもの慰めです! 神光!」
天使長ミネルの言葉とともに、金色の球体がトルネオたちに向かって放たれた。
いやいや、これはかなり不味い状況ですね……。
トルネオは心の中で呟いた。
「ほえー! エリン! 急ぐんですよー! 早くしないと、ぼくたち消えちゃいますよー!」
スタシアナが両手をぱたぱたと上下に動かして、防御魔法を展開するようエリンを急かす。
「は、はいっ! スタシアナ姉様! 絶対障壁!」
エリンの詠唱が終わると同時に、トルネオたちの前に見えざる壁が出現する。巨大な金色の球体がその見えざる壁と激しく衝突した。
「ス、スタシアナ姉様、駄目……かもです」
エリンは早くも根を上げ始めていた。
「こ、こらあ、エリン、頑張るんですよー」
スタシアナは小さな手で握り拳を作ると、泣き言を言うエリンの頭をぽかぽかと叩き始めた。
どう見ても懸命に頑張っているエリンを、スタシアナが見事なまでに邪魔していた。
「い、痛い、痛いです! スタシアナ姉様!」
スタシアナにぽかぽかと頭を叩かれて、エリンはすでに半泣きだった。
そんな騒ぎを横目で見ながら、さてどうしたものかとトルネオは考えていた。自分だけ空間転移の魔法で逃げ出すことは可能だったが、それではあとで皆に何を言われるか分かったものではない。
ならば……。
トルネオは両手を広げて空に向かって突き上げる。
「秘技! 魚群ほねほね団!」
以前と少し名前が違う気もしたが、細かいことは気にしないでおくことにする。
そんなトルネオの言葉とともに、ミネルの頭上からばらばらと骸骨群が降ってきた。
だが……。
「ふんっ!」
ミネルが頭上に向けて片手を振ると、そこから金色の光が放たれる。その光に飲み込まれた骸骨たちは、瞬く間に消え去っていってしまった。
あっという間……ですね。
鼻息で飛ばされたぐらいの消え去り方でしたかね。
分かってはいましたが、やはり私と天使の相性は最悪なようで……。
トルネオは他人事のように心の中で呟く。
「トルネオ、全然駄目じゃないですかー!」
「トルネオー!」
こんな状況でもスタシアナはぷんすかと怒っている。
エリンは当然、半泣きだ。
ならば……仕方がないですかね。
トルネオは溜息を吐いた。
「スタシアナさん、エリンさん、非常に残念なのですが、私はここで失礼致します。ではまた……」
転移する瞬間、可愛らしい声ながらも怒りのこもったスタシアナの声と、エリンの泣き声が聞こえた気がした。
「貴様らは……何者だ? 何で魔族ごときが、ここまで強いのだ?」
クアトロたちに捕らえられた魔人がそう尋ねてきた。そんなこと知るかとクアトロは思う。それに質問しているのはこちらの方なのだ。
「誰が質問していいと言いましたか?」
ヴァンエディオがそう冷徹に言った瞬間、魔人の口から絶叫が溢れ出た。どうやら灰色の渦巻く球体に、残る左腕にあった指の二本を飲み込まれたようだった。
「止めろ! もう止めてくれ!」
耐え切れずに魔人が泣き声混じりの悲鳴を上げた。
「なぜ、天使と魔人が行動をともにしているのでしょうか? あなた方は敵対しているのでは? 違いますか?」
ヴァンエディオが先刻からの質問を繰り返す。
「分かった。話すからもう止めてくれ……」
魔人は泣き顔となりながら言葉を続ける。
「魔人と天使が敵対しているというのは……便宜上の話だ」
便宜上?
言っていることが……まるで分からない。
横目でクアトロがエネギオスを見ると、エネギオスは呆けたような顔で口を開けている。
ああ……こいつもまるで分かっていないな。
クアトロはそう思うと、自然と自分の顔に笑みが浮かんできてしまうのを感じる。




