不死者
「生き残っていた中で、偉そうな奴を捕まえてきた。どうやら、防御魔法を展開して助かったみたいだな。あの馬鹿げた魔法を防いだんだ。それだけ能力がある奴なんだろうよ。もっとも、片腕は吹き飛ばされたようだが」
魔人の右側にある二の腕から先は失われていて、魔人は残る片手で止まらない血を止めようと必死に押さえていた。
「こいつらがヴァンエディオを……」
今にも倒れてしまいそうな顔をしながらも、殺意がこもった呟きをするマルネロをエネギオスが押し留めた。
「気持ちは分かるが、まあ待て。こいつには少し喋ってもらう必要がある」
それを見てそういうものなのかとクアトロは思い、鞘走らせた長剣を再び鞘に仕舞い込んだ。
「おら、知っていることを話せ。でないと、そこの姉さんがあっという間にお前を燃やしちまうぞ?」
しかし魔人は無言だった。その額に脂汗を浮かべながらも、口は固く結ばれたままだった。
「聞いても無駄よ。どうせ喋りはしないんだから、さっさと燃やすわよ」
魔力などもう残ってはいないはずなのに、マルネロが物騒なことを口にする。少しだけエネギオスはそんな様子のマルネロに困った顔をして見せて、クアトロに視線を向けてきた。
そのエネギオスの両目が驚きからなのだろう。極限にまで開かれた……。
エネギオスの視線はクアトロではなく、その背後に注がれているようだった。あのエネギオスがこんなにも驚く顔なんて見たことがない。何事かとクアトロも背後を振り返った。
びっくり……した。
人生で一番びっくりしたかもしれない。もう今後の人生の中で、これ以上の衝撃はないのかもしれない……。
「おやおや、四将の筆頭ともあろうお方が、随分と生ぬるいようですね」
そこには首のないヴァンエディオが立っていた。いや正確に言うと、首のないヴァンエディオがその片手で自分の頭を持ちながら立っていた。
「え? え?」
マルネロは口をぱくぱくとさせている。
「ヴァンエディオ、お前、生きて……」
クアトロはそう呟いたが、胴体と頭が離れていて生きているも何もないだろうと頭の片隅でそう思う。
「はい」
ヴァンエディオは何事もなかったかのように言葉を返してくる。
「いやいや、はい……はおかしいだろう。そんな状態で……何で生きているんだ!」
クアトロは思わず声を荒げる。
「私は不死者ですから」
「へ?」
「え?」
「何だ?」
クアトロ、マルネロ、エネギオスが同時に声を発する。
「な、何だ、それ? 聞いたことないぞ!」
クアトロがそう言うと、自分の片手に抱えられたヴァンエディオの顔にある口角が左右に持ち上がった。
「聞いたことがないのも当然です。言ったことはありませんからね。不死者ですので、首を落とされたぐらいでは死にません」
死にませんって不死者だから死んでいるのでは?
クアトロはそんなどうでもいい言葉を飲み込む。
「いやいや、そういう話じゃねえだろう」
エネギオスが呆れた声で言う。
「そうよ、私の涙を返しなさいよ!」
マルネロもそれに同意している。
「そうだ、そうだ。大体、不死者のくせに、何で骸骨じゃないんだ!」
クアトロがそう言うと、エネギオスが隣でそういうことじゃないといった顔をしてみせた。
「ふむ……何で皆さんが怒っているのか分かりませんが、今はこの魔人から話を聞き出すのが先決のはずですね」
そんなヴァンエディオの言葉にマルネロが大きな溜息を吐いた。
「もういい。後は任せるわ。私は少し休むんだから!」
マルネロはそう言い放つと、ふらふらと神殿の中に消えて行ってしまう。
神殿にはアストリアやダースがいるはずで、彼らに介抱して貰えば問題ないだろう。
「さてと……」
自分の手の平に載せられたヴァンエディオの口が再び開く。
「クアトロ様、敵対する相手から話を訊くとは、こういうことかと」
小さな灰色に渦巻く球体が出現すると、その球体は魔人の片足を飲み込んだ。途端に魔人の口から大音量の絶叫が迸る。
「早く話した方がよいですよ。でなければ、ゆっくりと順番に残る手足を失くしていただきます。そして、最後にはその首を失くしていただききますので……」
鬼畜だ……外道だ。
あの魔人が可哀そうになってくる……。
というか……早く頭と体をくっつけろよ。
気味が悪いんだけど……。
そう心の中で呟くクアトロだった。




