管理する者とされる者
そんな時、マルネロがアストリアとダースに連れられて、再び姿をみせた。魔力不足でまだ青い顔をしているが、やはり黙って寝ていられなといったところなのだろう。
マルネロに肩を貸していたアストリアが、そんな魔人の言葉を聞いて口を開いた。
「それは……魔人と天使が敵対していると、人族や魔族に思わせたいということでしょうか?」
魔人は黙って頷いた。その額には玉のような脂汗が浮かんでいる。
「予想を超えて、魔族や人族はその数を増やしすぎた。結果、それらを適切に管理するためには、魔族と人族を互いに争わせた方がいいということになったのだ」
魔人の言葉にエネギオスが顔を顰めてみせた。
「おい、おい、管理とは随分と上から目線だな。俺たちが増えようが減ろうが、お前たち魔人や天使には関係ない。それこそ俺たちの勝手だろう」
「仕方ないだろう。俺たち魔人、そして天使にしても、お前たち魔族や人族を管理するために作られた存在なのだから」
「ほう……魔神と神にですか?」
ヴァンエディオが興味深げに言う。
「その通りだ。もっとも、魔神と神は同じ存在なのだがな」
諦め切ったのだろうか。魔人は抵抗なく話し始めて、さらに言葉を続けた。
「魔神と神を別の存在としているのも、お前らを管理しやすくするためだ。その方が互いに争わせる時には都合がいい」
「ふむ……」
ヴァンエディオはそう呟いて考える素振りを見せたあと、再び口を開いた。
「では、アストリア様が鍵や器とはどう言う意味なのでしょうか? かつて邪神を封じた一族の血を引くとも聞いていますが」
「鍵? 器? そこにいる人族の娘のことか?」
魔人はアストリアに視線を向けた。
「器という意味では、お前たち魔族や人族全てがそれに当てはまる。あとはもっともらしい意味を持たせるための後づけでしかない話だ。もっともらしいだけで、そこに意味などない。」
「るほど……で、その器には一体、何が入るのでしょうか?」
「魔神、もしくは神だ」
魔人が低い声でそう言い放つ。
「おい、適当なことを言うなよ。どうやって魔神や神が、アストリアの中に入るんだ!」
クアトロは思わずそう叫んだ。
「それは我らのあずかり知らぬことだ。魔神や神のお考えなど、我らでも分からないさ」
「ふむ……では、そもそも魔神や神とは何者なのでしょうか?」
ヴァンエディオの言葉に魔人は軽く首を捻った。
「詳しくは俺も知らん。俺自身、会ったこともないのだ。ただ、かつてはこの地上の支配者だったと聞いている」
「会ったことがない……ですか。魔人や神に、あなた方は作られたというのにですか? では、魔神や神はどこにいるので?」
「さあな。復活の時を待って眠っているらしい。だが近々、神の一人が復活されると聞いている」
「なるほど。それであなたがたは、急ぎ器が必要となったと……」
何がなるほどなのかとクアトロは思ったが、ヴァンエディオは納得したように頷いている。
「まあ、小さな疑問点はいくつかあるが、大体の筋は通っているな。ただ、何でろりろり姫が、それに選ばれたのかが分からん」
エネギオスが大筋は理解したといった感じで頷いている。筋肉ごりらのくせに生意気だと思いながら、クアトロはマルネロに視線を向けた。
「マルネロ、分かったか?」
「はあ? 神が復活するから、そのためにアストリアの体を欲しがっているってことでしょう?」
「そのまんまだな……」
「何? 文句があるわけ?」
魔力が底をついて青い顔をしているというのに、マルネロはもう喧嘩腰になっていた。何かにつけて元気な女らしい。
「マルネロさん、落ち着いて下さい」
横で支えているアストリアが、怒り始めたマルネロを見兼ねてそんな言葉をかけていた。
「何だかよく分からないが、その復活する神とやらをどうにかすればいいんだろう? おい魔人、その復活する神はどこにいる?」
クアトロがそう言うと、魔人は気丈にも笑い声を上げてみせた。
「はあ? お前らの王は馬鹿なのか? お前ら魔族ごときが、神や魔神をどうにかできるなどと……」
「調子に乗らないでいただきたいですね。我らの王が尋ねているのですよ?」
ヴァンエディオの赤い瞳が危険な色を帯びて細まった。途端に捕らえられている魔人の瞳に気弱なものが浮かび上がってくる。
もうすでにヴァンエディオの怖さを、十分に熟知しているといったところなのだろう。




