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魔王の花嫁  作者: yaasan


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それぞれの戦い

 ざっと二百名はいるようだった。揺らぐ空間から、空を埋め尽くすばかりに天使たちの集団が姿を現した。そして、その集団の中央には天使長のミネルがいる。


 これは不味い。さすがに逃げられないかも。

 エリンは心の中で呟いた。


「ミネル、久しぶりですねー」


 エリンの気持ちも知らず、端正な顔に厳しい表情を浮かべているミネルにスタシアナが呑気な声でそう言った。


「スタシアナ……エリンもですね。あなたたちは、やり過ぎましたね」


「やり過ぎ?」


 スタシアナが、こてっと首を傾げて見せた。


「ミネルが魔族の皆を虐めるからですよー」


「経過した時が余りに長すぎましたね。だから、こぴーをしても、あなたたちのような劣化した者が生まれてしまう。悲しい現実ですね」


 こぴー? 劣化?

 エリンにはミネルの言おうとしていることが分からなかった。


 いえ……違う。

 分かる……。


「劣化? 違うんですよー。こぴーを繰り返したから、ぼくは分かってきたんですよー」


 スタシアナはそう言うと両手で杖を構えた。


「エリン、トルネオ。遠慮はいらないです。ここの天使たちを根絶やしにするんですよー」


「ほう、根絶やしですか。これは過激な。でも、いいでしょう。スタシアナさんの頼みとあらば……」


 トルネオがそう言って一歩前に踏み出した。


 何かが分かりそうな気がしていた。大事なことだ。とても大事なことだ。

 それは天使の根源に関わることで……。

 駄目だった。考えがまとまらない……。


 まあいい。こうなってしまった以上、天使の側にはもう戻れないのだ。ならば、スタシアナ姉様とともにどこまでも行くだけ。


 エリンはそう決意すると、茶色の瞳で目の前に現れた天使たちを睨みつけるのだった。





 「どうやら来た……ようですね」


 ヴァンエディオが呟くように言う。


「随分と……早かったな」


 エネギオスがそう言って、ゆらりと立ち上がった。


「え? え? そうなの? 何も感じないけれど」


 マルネロがそう言って周囲を見渡す。次いでマルネロは探るような顔でクアトロを見てきた。

 

 クアトロは微妙にその視線を外して口を開く。


「来ていると言えば……そんな感じもしなくもないな」


 その言葉にマルネロが呆れた顔をした。


「何、その頭が悪そうな答え……まあ、いいわ。それより、何人ぐらいなのかしら?」


 マルネロがもっともな疑問を口にする。


「さあ、どうだろうな。多くはないが、百か、二百か」


 エネギオスがそう応じて、クアトロに視線を向けた。


「クアトロとダースは、ろりろり姫と後方で待機だな。俺たち三人で迎え撃つ。一番強くて偉そうな奴をとっ捕まえるぞ。何、奴らもここに俺たちがいるとは思ってないはず。不意打ちで半分は殲滅できるだろうしな」


 エネギオスの言葉に皆が頷く。そこでマルネロが思い出したようにアストリアに向かって口を開いた。


「そう言えばあの古代種の竜はどうしたのかしら?」


 その言葉にアストリアが首を傾げた。


「気がついたら、どこかに飛び去って行ってしまっていて……」


「そう。まあ、いいんじゃない? あんなに大きいのがいても邪魔だしね。奴らの中に天使がいたら、戻って来るかもしれないし」


 マルネロはそう言って笑顔を浮かべた。


「はい……あの、マルネロさん、気をつけて下さい。皆さんも気をつけて下さい。守られているばかりで、何もできない自分がもどかしいです」


「大丈夫よ、アストリア。あなたは魔族の王、クアトロの花嫁なんだから。臣下の私たちが守るのは当然なの」


「ですが……」


 なおも何かを言おうとするアストリアをヴァンエディオが押し留めた。


「アストリア様、お気になさらずに。我ら魔族は強者と戦うことを欲します。それに個人的にも、この顛末には多いに興味があります」


「はい……本当に申しわけないです。皆さん、気をつけて下さい」


 アストリアがそう言って頭を下げた。


 魔人や天使が相手なのだ。エネギオスが口にするほど楽な相手ではないはずだった。だが、敢えてアストリアが負担だと思わないように、エネギオスたちがこのような言い方をしていることは間違いなかった。


 アストリアもその思いは承知しているのだろう。そのことには触れずに頭を下げている。


 さて、とクアトロは思う。いずれにせよアストリアだけではない。四将も含めて最後は自分が全部守ってやる。

 う〇こ騎士のダースも含めて……な。

 クアトロは改めてそう思うのだった。


「では皆さん、行きましょうか。狭い宮殿内よりも、外で迎え撃った方がよいでしょう」


「そうだな。長期戦になるだろうからな。マルネロ、でかい魔法を撃ちまくるなよ。またすぐに魔力が底をつくぞ」


 ヴァンエディオの言葉に頷いたエネギオスがマルネロに顔を向けている。


「分かっているわよ。失礼ね!」


 エネギオスの言葉にマルネロが反論する。


「エネギオス、ヴァンエディオ、そしてマルネロ、頼む!」


 改めてそう言ったクアトロに三人は無言で頷いたのだった。

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