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魔王の花嫁  作者: yaasan


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天使のエリンちゃん

「お前らをこのまま行かせると思っているのか? 魔族の王とやらには、ここで死んでもらう」


 巨大な槍を持つ魔人がそう言うと、その背後からさらに五人の魔人が姿を現した。


「え? 何か……増えたんだけど」


 マルネロが顔を引き攣らせている。


「ち、ちょっとエネギオス、私の相手、筋肉ごりらを入れて、六人もいるんだけど」


「知るか。何とかしろ」


「えー? 酷くない? ヴァンエディオやトルネオの相手は一人ずつだったのに、何で私だけ六人もいるのよ!」


「ぎゃあぎゃあうるせえな。おい、スタシアナ」


 エネギオスが顔を顰めながらスタシアナに視線を向けた。スタシアナは首を左右に振る。


「ぼくはクアトロと一緒じゃないと嫌なんですよー。エネギオスが残ればいいと思いますよー」


「駄目だ。俺の相手は古代種の竜だ。あれが出てきたらクアトロ一人だと荷が重い」


 荷が重いと言われては、クアトロも気分が悪い。


「エネギオス、俺なら一人でも余裕だ」


 根拠はないのだがクアトロが反射的に反論する。


「魔人に腕を切り落とされた奴が何を言ってやがる」


「は? あれは油断しただけだ。近くにアストリアもいて、下手すれば巻き添えにしちまうからな」


「クアトロ、お前はもう黙っていろ。話がややこしくなる。おい、スタシアナ!」


 エネギオスが再度、スタシアナを促す。


「ぼくは嫌です! 嫌だと言ったら、ぼくは嫌なんですよー」


 スタシアナが両手をばたばたさせなから、ぷんすかと怒り始める。そして、エリンに青色の瞳を向けた。


「そうです、エリン! エリンが残りなさい」


「えー? 嫌よ。爆乳第百夫人と一緒だなんて。私はいつでもスタシアナ姉様と一緒なんだから」


「エリンは少しうるさいのです。黙ってぼくの言うことをききなさい!」


 スタシアナが無茶苦茶なことを言いながら、右手の拳を振り上げた。エリンは、ひっと言って両手で頭を庇う。


「お、おい、スタシアナ。無理強いはよくないぞ」


 さすがにエリンが可哀想になってクアトロは口を挟んだ。


「クアトロに怒られたのー。ふえー」


 スタシアナが今度は泣き始めてしまう。


「クアトロ、スタシアナを泣かすな。あとが面倒だ」


 クアトロの横でエネギオスが渋い顔をする。


「わ、悪い、スタシアナ。怒ったつもりはなかったんだ」


 なぜ自分が謝らなければいけないのか分からないまま、取り敢えずクアトロはスタシアナに頭を下げた。


「とにかく、ぼくはクアトロと一緒に行くんです。ここに残るのは、マルネロとエリンなんです!」


 最早、どこにも理屈はなかった。スタシアナがそう一方的に断言すると、エリンはがっくりと首を垂れた。


「分かったわよ。スタシアナ姉様は、昔から言い出したらきかないんだから……」


 エリンは溜息混じりでそう言うと、茶色の瞳をマルネロに向けた。


「ほら、そこの爆乳。さっさと行って、ちゃっちゃっと終わらせるわよ」


「はあ? 省略し過ぎでしょう。この平坦娘が!」


 マルネロは視線をエリンの胸に向けると鼻で笑って見せる。


「あら、クアトロはこういうのが好みなのよ」


 エリンも負けじと胸を反らせて鼻で笑って見せる。


 いや、違うぞ、エリン。大きく間違ってるぞ。

 そういうのが好きだとか言うと、衛兵さんに怒られるんだからな。

 クアトロは心の中で呟く。

 

「貴様ら、いい加減にしろ! 魔人最強の槍使いと恐れられたこのウギルコスを前にして、何を騒いでいる! 貴様ら全員、ここで死ぬのだ!」


 堪忍袋の緒が切れたとばかりに魔人が怒声を放った。


「はあ? 馬っ鹿じゃない? さっきから言っているじゃない。初対面で個人名を出されても、分かるわけがないじゃない!」


 マルネロが見事なまでの逆ぎれを見せる。


「じゃあマルネロ、エリン、任せたんですよー」


 スタシアナがそう言って、とてとてと歩き出した。ダースは生真面目に一礼をして、そんなスタシアナの後に続く。次いでクアトロとエネギオスもそのあとを追った。


「き、貴様ら、話を聞いているのか!」


 ウギルコスと名乗った魔人は怒り心頭のようだった。額にいくつもの太い血管を浮かび上がらせて、巨大な槍を水平に構えるとクアトロたちに向けて突進してくる。

 

 クアトロが長剣を、エネギオスが大剣を構えて即座に振り返ったが、クアトロたちの手前でウギルコスは見えない壁に弾かれる。

 

ばいーんといささか間の抜けた音が周囲に響き渡った。


「えへっ。天使のエリンちゃん特性の音響効果つき障壁魔法なんだぞ。魔人ごときじゃ破れないんだから。○に変わってお仕置きだぞっ」


 エリンがどこかで見たような妙な振りつけをしながらそんなことを言っている。

 

 それを見て某所に怒られない内に、この場を早く立ち去ろうと思うクアトロだった。

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