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魔王の花嫁  作者: yaasan


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ばいーん、ばいーん攻撃

 小鬼たちは無事だろうか。

 無事にクアトロさんたちに会えるのだろうか。

 それとも、すでにクアトロさんたちに会えたのだろうか。

 

 鉄格子に阻まれた狭い部屋の中でアストリアはそう考えていた。


 小鬼たちが身振り手振りで、クアトロたちに状況を説明しようとする姿を想像すると、囚われている状況にもかかわらず、少しだけ笑みが溢れてくる。


 クアトロはきっと目を白黒させながら、小鬼たちの意図を汲み取ろうとするだろう。


 自分がなぜ連れ去られたのかは分からないし、このような場所からは早く逃げ出したい。少しでも早くクアトロたちに早く助けてほしいと思う。


 でも、それによってクアトロも含めて皆が傷つくことは嫌だった。


 自力で逃げ出せればいいのだけれどもとアストリアは思う。鉄格子に向かって何度か神聖魔法を放ってみたが、それらは全て弾かれてしまった。恐らくは特殊な魔法処理が施されているのだろう。


 なす術がないというのはこういう状況なのだろう。アストリアは少しだけ溜息を吐いた。


 焦っても仕方がない。

 この先にあるかも知れない、逃げ出す機会をうかがう他にないようだった。


 アストリアがそう考えていた時だった。轟音とともに鉄格子の前にあった天井が崩れ落ちた。

 舞い上がる粉塵の中、天井に大きな穴が空いたのが分かる。クアトロたちが助けに来てくれたのかと一瞬、アストリアの胸が高鳴った。


 だが、天井に空いた穴に現れたのは竜の巨大な顔であった。





 「魔族の分際で魔人に楯突こうなどと、笑止千万! 魔人最強と呼ばれる槍使い、ウギルコスがこの槍でその身を貫いてくれるわ!」


 ウギルコスが怒声に近いような声を張り上げた。


「うっさいわね! 魔人最強だか何だか知らないけど、だからって魔族より強いことにはならないでしょう!」


「下位眷属が何を言ってる?」


「はあ? 下位眷属だからって上位眷属より弱いってことにはならないって言ってるの! 馬っ鹿じゃない? 筋肉ごりら二号の分際で、無理に小難しいことばかり言っているんじゃないわよ!」


 マルネロの言葉にエリンも珍しくそうだ、そうだと同意している。


 魔人が七人。しかも一人はいかにもといった感じの筋肉ごりらだ。

一方、こちらは口が悪いだけの天使と自分しかいない。

どうにも分が悪いわねとマルネロは思う。


 ただここを早く切り抜けて、クアトロたちと再び合流しなければいけない。アストリアを連れ去った魔人の実力を考えると、この先もどのような魔人が出てくるか分からない。


 そう考えるとクアトロ、エネギオス、そしてスタシアナとダースだけでは不安がある。それに何よりも連れ去られたアストリアが心配だ。


 ヴァンエディオとトルネオも大丈夫だろうか。

 無事に切り抜けられたのであれば、もうこちらに追いついてもいい頃だ。


「魔人最強の槍使い? こっちは魔族最強の爆乳よ! 勝負は見えたわね!」


 マルネロの気持ちも知らず、エリンが胸を反らしてそんなことを言い始めた。


「しかも、ただの爆乳ではなくってよ。第百夫人の残念おっぱいよ! さあ、マルネロ、行っちゃいなさい! 残念おっぱい流ばいーん、ばいーん攻撃の発動よ!」


 エリンがウギルコスを指さして高らかに宣言する。


「エリン! 人の気も知らずにあんたねえ!」


 マルネロは頭の中で、ぶちっと音がしたような気がした。


「きゃあ、きゃあっ! スタシアナ姉様、助けてー! おっぱいお化けが怒ったー! 怖いー!」


 形相が変わったマルネロを見て、エリンがきゃあきゃあ言いながらとてとてと周囲を逃げ始めた。


「待ちなさい、エリン! 今日は本当に許さないんだから!」


 マルネロが手にしていた杖を振り上げて、きゃあきゃあと逃げ回るエリンを追いかける。


「こ、この状況だというのにき、貴様ら、ふざけおって!」


 自分を全く無視された状況に自称魔人最強の槍使い、ウギルコスが怒声を放った。


「馬鹿騒ぎをしたまま死ぬがいい!」


 ウギルコスは巨大な槍を水平に構えると、どっしりと低く腰を下ろした。


「我が渾身の一撃で砕け散れ、秘技……」


 その時マルネロが怒りの表情で、燃えるような赤い瞳をウギルコスに向けた。


「筋肉ゴリラ二号が! いつまでも、うっさいのよ!」


 マルネロはそう言い放つと、手にしていた杖の先をウギルコスに向けた。杖の先には渦を巻く赤黒い炎が見える。


「神炎……爆式!」


「なっ! その呪文は魔神の……」


 ウギルコスの言葉はそこまでだった。その身は瞬く間に赤黒い炎の渦に飲み込まれる。


 炎が消え去ると、そこには巨大な槍どころか消し炭一つとして残っていなかった。


「な、な……ウ、ウ、ウギルコス様?」


 目にした状況が信じられないのか、残った魔人の一人が喘ぐように言った。


「ほらっ、早く逃げないと、おっぱいお化けに皆、燃やされちゃうんだぞ」


 エリンが少し離れた場所から、某所に怒られるに違いない振りつけをしながらそんなことを言っている。


 急激な魔力消費で荒い息を吐いていたマルネロだったが、エリンの言葉を聞いて再び頭の中で何かが切れる音を聞いた。


「あんたたち、みんな燃えちゃいなさいー! 神炎……爆式……改!」


「きゃあー、スタシアナ姉様、残念おっぱいが、ぶち切れたのー。燃やされちゃうよー」


 そんなエリンの言葉と一緒に皆が赤黒い炎の渦に巻き込まれていく。

 

 炎が消え去ったあとに残っていたのは、荒い息を吐くマルネロとどろどろに溶けてぽっかりと外まで見渡せる大穴。そして、辛うじて魔法壁に守られたらしいエリンだけだった。


 マルネロはエリンの存在を認識すると、怒りで燃えるかのような赤い瞳をエリンに向けた。


 エリンが喉の奥で短い悲鳴を漏らした。

 そして一瞬の間の後、マルネロはそのまま倒れ伏したのだった。

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