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魔王の花嫁  作者: yaasan


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宙を舞う右腕

「光弾!」


 空中でスタシアナが古代種のドラゴンに向けて魔法を放つが、全てがドラゴンの眼前で霧散してしまう。

 それを見てスタシアナが、むーといった顔をしている。

 古代種のドラゴンはスタシアナたちが仇敵の天使と分かるのか、マルネロたちには目もくれなかった。


「ま、まあ敵を引きつけてはいるわよね」


 マルネロは呟くと今のうちにと思い、アストリアやダースの方へと駆け出した時だった。マルネロとアストリア、ダースの間に黒い影が空中から降り立った。やはりと言うべきか黒い影は先日の魔人だった。魔人はマルネロに視線を向けると、にやりと笑う。

 その時、ダースが背後から音もなく上段から長剣で斬りかかった。


「衝撃!」


 魔人の片手が斬りかかってきたダースに向けられ、その言葉と共にダースが後方へ飛ばされる。壁に激しく全身を打ちつけられたダースは呻き声と共に崩れ落ちた。

 アストリアが短い叫び声を上げてダースに駆け寄ろうとする。そのアストリアの片手を魔人が無造作に掴んだ。


「離して!」


 アストリアが手を振り解こうと身を捩る。


「離しなさいよ、爆炎!」


 マルネロは叫びながら、片手から炎の渦を魔人に向けて放った。炎の渦が魔人を捕らえるかに見えた瞬間、炎が霧散してしまう。

 魔法防御、それもかなり高度な防御魔法を操れるようだった。厄介ねとマルネロは思う。魔人の魔法防御を上回る魔法を放てば、アストリアを巻き添いにしかねない。

 その時だった。


「アストリア!」


 クアトロが長剣の切先を向けて一直線に飛び込んで来た。長剣の切先が魔人の眼前で、ぴたりと止まる。クアトロは片手を魔人の顔に向けると、そのまま無造作に魔法を放った。


「雷炎!」


 魔人の上半身が大きく後ろにのけぞった。だが、衝撃だけだったのだろう。顔には傷一つ付いてはいなかった。

 顔をのけぞらせながら魔人が右手を僅かに動かした。その瞬間、長剣を持つクアトロの右腕から赤い煙のようなものが上がる。同時にアストリアから絶叫のような叫び声が上がった。

 

 長剣を握ったままで、クアトロの二の腕から先にある右腕が宙を舞っていた。クアトロが僅かに顔を顰めて片膝を地に着けた。


 クアトロの異変を察したのだろう。スタシアナが上空から舞い降りてくる。その背後から古代種のドラゴンが炎を吐き出した。


 一瞬で岩も溶かすと言われるドラゴンの炎だ。即座にスタシアナの背後にエリンが回り込んで防御の魔法を瞬時に展開した。しかし流石に完全には受け止めきれないようで、宙でじりじりと後退する。


「スタシアナ姉様、少し不味いみたい」


 エリンが歯を食いしばりながら、スタシアナに泣きごとを言っている。片手を飛ばされたクアトロは心配だが、スタシアナが向かっているのであれば大丈夫だろう。


 そう。魔族の王はこんなことで死んだりはしない。


 古代種のドラゴンの方もエリンがもう少しぐらいは引き止めておくことができるはず。ならば最優先は捕らえられたアストリアの救出だ。


 至近距離からありったけの魔力を魔人の顔面に叩き込む!

 マルネロはそう決意すると、魔人に向かって走り出した。魔人は自分に向かって駆け出して来たマルネロを横目で見ると、にやりと笑った。


 魔人に片手を掴まれたままでクアトロに駆け寄ろうと暴れるアストリアの顔に、魔人は残る片手を向けた。それを見て一瞬、マルネロの背筋が凍る。しかし、最悪の事態にはならなかった。眠りなどの精神魔法だったのだろう。アストリアは膝から崩れ落ち、それを魔人が両手で抱きとめた。


「貴様、アストリアを離せ」


 片膝をついていたクアトロが、ゆらりと立ち上がった。失われた右腕からは、夥しいほどの鮮血が噴き出している。


「クアトロ、動いちゃ駄目!」


 宙より舞い降りたスタシアナが必死にクアトロを押し留めようとしている。

魔人の注意がクアトロやスタシアナに向けられている今ならば……


 魔人の顔に向けて体内にあるだけの魔力を込めてマルネロが叩き込もうとした瞬間、魔人はにやりと笑って、アストリアを抱えたままで宙に浮遊した。紙一重の差でマルネロの攻撃が空振りに終わる。


「貴様、待て!」


 クアトロが残る左手を伸ばし、宙にいる魔人に魔法を発動しようとする。その腕をスタシアナが両手で引き寄せる。


「駄目、クアトロ! 魔法なんて使ったら本当に死んじゃうのー!」


 魔人はそんな地上の様子を見ながら、再びにやりと笑った。


「他愛もないな、魔族の王。行くぞ、古代種のドラゴン」


 魔人はそう言い残すと、アストリアを両手に抱いたまま上昇して行く。炎を吐き続けている古代種のドラゴンが、ぶるっと体を震わせた。炎の勢いが更に激しくなったようだった。


「も、もう、駄目。スタシアナ姉様ー」


 エリンが炎に押される格好で地上に向かって炎と一緒に落下してくる。


「え、えー? エリン、あんたもう少し頑張んなさいよ!」


 マルネロが思わずそう叫んだ。

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