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魔王の花嫁  作者: yaasan


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28/106

突入

 「あっさりと中に入れたわね……」


 マルネロが拍子抜けしたように言っている。

 実際、門前にいた護衛兵に咎められることもなく、クアトロたちは敷地内に侵入できたのだった。


 さらに信徒などの出入りも多いためか敷地内に入ってからも咎められることは一度もなかった。もっとも、さすがにいるだけで目立つトルネオは宿屋に残してきていたのだったが。


 天使や大司教がいるだけでなく、今日は国王も来ているというのに不用心なことだとクアトロは思う。


 敷地内にいる者たちの会話を盗み聞いたところによれば、練兵場で国王や大司教とともに、天使がその姿を現すとのことだった。敷地内に入ったクアトロたちは、そのまま練兵場に足を向けるのだった。





 練兵場の入り口はさすがに警護の者が立っていた。警護の者たちは中に入る者を一人ずつ確認しているようだった。おそらく、ダナ教騎士団に属している者以外は通すつもりがないのだろう。

 

 強行突破をするわけにもいかず、クアトロたちは遠まきにそれを見ていた。


「クアトロさん、どうしましょうか。このまま立っていても、怪しまれるだけでしょうし……」


 アストリアの問いに対して、クアトロはマルネロに視線を向けた。


「忍び込めない以上は強行突破しかないわね」


 マルネロが人の悪そうな笑みを浮かべている。


「天使や国王が姿を見せれば、何らかの反応があるはず。そしたら一気に行くわよ」


「何か行き当たりばったりなのー」


 かつての同族と戦うことになるかもしれないというのに、スタシアナがなぜか嬉しそうにしている。

 突破することは難しくないだろうが、突破したあとはどうするのだ。

クアトロがそう考えていると、練兵場の方から歓声が上がる。天使たちがその姿を現したようだった。

 

 不意にマルネロがアストリアを振り返った。


「これからたくさんの人族が傷つき、死んでしまうかもしれない。私たちの仲間を傷つけようとするのなら、私たちはそれを躊躇しないからね」


 人族のアストリアには酷な言葉だっただろう。だが、マルネロの言葉にアストリアも真剣な眼差しで頷いた。


「はい。私はもう魔族の仲間ですから」


「よし、いい子ね」


 マルネロはアストリアの明るい茶色の頭に手の平を置いて、声を張り上げた。


「行くわよ!」


「行くですよー」


 マルネロに続いてスタシアナも嬉しそうに駆け出して行く。


 策も何もあったものではないとクアトロは思う。


 このまま天使も含めて、その場にいる者全てを排除するつもりなのだろうか。


 もっとも、クアトロとしても、それが一番手っ取り早い気もするのだったが……。

 そんなことを考えながら、クアトロはそのあとを追うのだった。





 先頭をマルネロとスタシアナが駆けて行く。


 マルネロが放った炎系魔法で入口の警護に当たっていた者たちが、爆音とともに吹き飛ばされる。生じた爆煙の中に躊躇いなくクアトロたちは走り込んで行った。


 練兵場に突入すると、場内は爆音とともに現れた乱入者で騒然としていた。


 ざっと二百名ほどがいるのだろうか。

 何事が起こったのかも分からずに右往左往するダナ教騎士団に向かって、マルネロが炎の魔法を乱射している。それに合わせて、あちらこちらで爆音と悲鳴が上がる。

 

 果敢にも怯むことなく斬りかかって来た者が、ダースによって一刀で斬り伏せられた。


「アストリア様、もっとお近くに!」


 ダースがアストリアに注意を喚起する。アストリアのことはダースに任せていれば問題なさそうであった。


 そう考えながら、クアトロは練兵場の奥に目を向ける。思った通り、練兵場を見渡せる高台があってそこに人影が見える。それらが天使や国王と考えて間違いないだろう。


 さて、どうする。

 天使が一筋縄でいかないのは分かっているが、その殺害を試みるか、それとも連れ出して説得を試みるのか。


「マルネロ、ダースと一緒にアストリアを頼む! スタシアナ、正面だ。突っ込むぞ!」


 クアトロは叫ぶと長剣を握り直して走り出した。マルネロも頷いて、アストリアの傍に寄り添う。

 

 剣を抜いて抵抗する者、逃げ出そうとする者。それらをことごとく斬り伏せ、魔法で吹き飛ばしながらクアトロは走った。


 気づくと自分の近くに漆黒の翼で飛翔するスタシアナがいる。


「あっ!」


 そのスタシアナが短く叫んだ。


「クアトロ、ちょっと離れているんですよー」


 何を思ったのかスタシアナはそう言うと、低空のまま宙で停止する。


「消滅!」


 スタシアナが差し出した両手から金色の光が放たれ、その直線上にいた者たちがことごとく消滅して行く。一直線に放たれた金色の光が薄れると、そこには一本の道筋ができていた。スタシアナはその道を漆黒の翼を広げて滑るかのように飛翔して行く。


「お、おい、スタシアナ! 一人では危ないぞ!」


 しかしスタシアナが止まることはなかった。高台の直前で急上昇すると、その高台の上に静かにスタシアナは降り立つ。


 国王、大司教と思しき人物が腰を抜かしたように座り込んでいる。高台の上に降り立ったスタシアナは漆黒の翼を広げて、なぜか仁王立ちになっている。


 その瞳の先には、十歳にも満たないような少女が唖然とした顔で立ちつくしていた。


 その薄い灰色の髪と茶色の瞳を持つ少女の背中には白い翼が見える。少女が天使であることは間違いなかった。


 スタシアナが少女を睨みつけながら、いきなり片手を振り上げた。それを見上げる少女の顔が恐怖で歪んだように見えた。


 ぽてっ。

 スタシアナの拳が少女の頭に振り下ろされる。そしてもう一度。さらにもう一度……。


 ぽてっ。ぽてっ……。


「痛い、痛い、スタシアナ姉様!」


 少女は自分の頭を両手で庇いながら、泣き声を上げ始める。

 

 え? スタシアナさん、何を……?

 クアトロは心の中で呟きながら高台に駆け寄った。


「こらっ、エリン! こんな悪いことをして! ぼくは怒っているんですよ!」


 スタシアナはそう言いながら、自分の頭を両手で庇ってうずくまっている少女の薄い灰色の頭をぽてぽてと叩き続けている。


「だ、だってスタシアナ姉様が、魔族のところに行ったまま帰って来ないから。魔族を滅ぼせば、スタシアナ姉様も帰って来るって思ったのー」


 天使はそう言って、今度はわんわん泣き始めてしまった。

 そんな時だった。


「く、黒の翼? き、貴様、魔族に与したという堕天使か!」


 驚き座り込んでいた大司教が気丈にも立ち上がって、スタシアナを指差してき始めた。


「うるさい人族です。お前はもう消えちゃいなさい!」


 スタシアナはそう言って、片手を大司教に向ける。瞬く間に大司教は黄金色に包まれて、淡い湯気となり消えてしまう。


「エリン、こんな騒ぎを起こして! あとでぼくがたっぷりとお仕置きをするんですからね!」


 そんなスタシアナの言葉に、天使の泣き声は一層高まったのだった。

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