野遊び
確かに気持ちがいいとクアトロは思った。
日差しは柔らかく、景色は丘一面が新緑に包まれている。新鮮な空気を吸い込むと、疲れた心も癒されてくる気がしてくる。
しかも隣には風に揺れる明るい栗色の髪を押さえている美しい少女がいるのだ。
もっとも、その隣には難しそうな顔をしている自称護衛騎士のダースもいるのだったが。
「ん、この辺りが一番景色もよさそうですね。では、お昼にしましょうか」
アストリアがそう言って微笑む。
「あ、ああ……そうだな。そうするか」
その微笑みに一瞬、見惚れていたクアトロは少し顔を上気させて頷いた。
「ダース卿もこちらに来て下さいね」
「はい……」
アストリアに促されてダースが近づいて来る。ダースの顔が少し強張っているようにクアトロには見えた。
クアトロもそうなのだったが、ダースも正直どのような顔をすればいいのか分からないといったところなのだろう。
「お二人とも、お座り下さい」
アストリアにそう言われて、クアトロもダースも無言で頷きながら、新緑の上に腰を下ろした。
腰を下ろした三人の間を心地良い風が駆け抜けて行く。隣に座ったダースがいなければ、アストリアと二人で何ていい日なのかと感じるところなのだ。結局、ダースはいつでも邪魔なだけなのだとクアトロは結論づける。
アストリアが、甲斐甲斐しく食べ物を敷物の上に並べ始めた。クアトロも手伝おうと手を伸ばしたのだが、アストリアにやんわりと拒否された。こういう時、殿方は大人しく待っていればいいとのことらしかった。
クアトロは手持ちぶさたになり、何となくダースに視線を向けた。ダースも同じだったようで、クアトロに視線を向けて来た。二人の視線が合い、気まずさを覚えて互いにすぐさま視線を逸らす。
「何か……お二人とも、思春期の男女みたいになっていますよ」
アストリアが笑いを堪えるように言う。
「アストリア様、からかわないで下さい」
ダースが憮然とした顔でそう言うと、黒色の髪を片手でぐしゃぐしゃと掻き回した。それを見てアストリアは小さく笑うと、口を開いた。
「さあ、準備ができましたよ。いただきましょうか」
クアトロとダースは返事をして、アストリアが並べてくれた食事に手を伸ばした。
「うまい……な」
クアトロはひと口食べて思わず呟いた。隣のダースも同意見なようで、うまいと言いながら食べている。
美人で料理も上手となれば怖いものなしだなと思い、クアトロがアストリアに目を向けると、アストリアは恥ずかしそうにして俯いてしまう。
「美味しいと褒めてくれるのは嬉しいのですが、実は作ったのは私ではなくて、マルネロさんなのです」
「マルネロが?」
意外な名前が出てきて、クアトロは思わず聞き返す。
「はい……あっ、でも私が作った物もありますよ。これですけど……」
アストリアが恥ずかしそうにして指し示したものは……小麦粉を焼いたものに食材を乗せたものだった。
「そ、そうか。でも、これもうまそうだな」
「アストリア様がお作りになられたものだ。うまいに決まっている」
ダースがそう言うと横から手を伸ばして、それを口に入れる。
「ん、おいしいです」
ダースの言葉に負けていられないとクアトロも手を伸ばして、それを口に入れる。
「ん、うまいぞ」
その二人の様子にアストリアは耳まで赤くして縮こまる。
「そんなに褒めないで下さい。食材を載せただけなのですから」
「そ、そんなことはないぞ。何というか、何だ、そう、気持ちが感じられる。な、ダース、そうだよな」
クアトロは慌ててダースに同意を求める。
「そ、そうですね。アストリア様の優しさが感じられます」
「もういい加減にして下さい。そこまで言われてしまうと、馬鹿にされている気がしてきます」
「そ、そうか。でも、本当に美味しかったぞ」
クアトロの言葉にダースも同意を示して頷いている。
「ありがとうございます。それにしてもマルネロさんは、とてもお料理が上手でした」
「それは初耳だな。意外と言えば意外なのだが……」
クアトロはマルネロとは、それなりの長い付き合いとなるのだが、料理が上手などと聞いたことはなかった。ましてやマルネロが料理をしている姿を見たことなどない。
「マルネロさん、調理の火加減が抜群に上手なのですよ」
「そ、そうか。マルネロは炎を扱うのが得意だからな」
「クアトロさん、魔法の話ではないですよ。火加減の話なのですからね」
アストリアが少しむくれる。クアトロは少しむくれたアストリアの顔も可愛いと感じるのだった。
アストリアは顔の造形が整っていて、大人びた美しい顔立ちをしている。だが、むくれたりするとまだ子供らしさが顔を覗かせて、非常に可愛らしくなるようだった。
こんなことを言うと、また皆にろりこん大魔王などと言われてしまうのだろう。だから、今の感想は自分の胸の奥に秘めておこうとクアトロは思う。




