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9/19

第9話 会えなかった日

 今日は夕方からアルバイトの日。


 大学の講義が終わり次第直行して、

 夜には家に帰るのがいつものルーティン。



 午後四時。

 陽太は自宅近くのファミリーレストランへ。

 制服に着替え、バックヤードへ入る。


「おはようございます」

「おう、佐藤。待ってたぞ」


 店長がじっと見る。

 こういう時の嫌な予感は大抵当たる。


「悪いんだが。一人、熱出して夜のシフトがな……」

「あー……」

「ラストまで頼めるか?」


 予感は当たった。

 配信は気になるが、断る理由にはならない。


「分かりました」

「すまんな!助かる!」


 店長は両手を合わせて頭を下げる。

 学生バイトに頼り切っている職場の事情も知っている。


 世話になってる身としても無碍には断れない。

 それが良いことなのか悪いことなのかは分からないけれど。



 店内は思った以上に混みだした。

 ごった返す店内を奔走する。


 気付けば時計は午後九時半を回っていた。


「佐藤ー!」

「はい!」

「店員さん、まだー?」

「今行きます!」

「ビール来ないんだけどー!」

「すぐ出します!」


 呼ばれる。

 走る。

 戻る。

 また呼ばれる。


 そんなことを繰り返しているうちに、午後十時を回っていた。


「もう始まってるよな……」


 配信開始の時間だったが、もちろん見られるはずもない。



 閉店作業が終わった頃には、 午後十一時を回っていた。


「お疲れー。いや、ほんと助かったよ」

「お疲れ様です。お役に立てたなら良かったです」


 制服を脱ぐことも億劫になる疲労感だ。



 帰宅したのは午後十一時四十分。


 シャワーを浴びて、冷蔵庫から麦茶を取り出す。

 ようやく人心地ついた頃には、 時計は零時を過ぎていた。



 椅子に座る。

 パソコンを立ち上げる気力もあまりないが、

 それでも、なんとなく動画サイトを開いた。


【エリシア・アルヴェイン】


 アーカイブが一件増えている。

 当たり前だ。

 配信はもう終わっている。


「まあ、明日見るか……」


 

 そう言いながらも結局、再生ボタンを押していた。


 見慣れた石造りの部屋。

 見慣れた青い瞳。


 コメント欄はすでに止まっている。


 少しだけ寂しい、と思う自分に苦笑した。


『本日は上手くいかないことばかりでした』


 エリシアが言う。

 珍しかった。

 少し疲れて見える。


『議会で説明しても、伝わらなかったり、

 納得していただけないこともあります』


『失敗もします』


 王なのだから当たり前だ。

 むしろ、上手くいくことの方が少ないだろう。


『ですが、それでも明日もやるしかありません』


 エリシアは小さく微笑んだ。

 静かな声だった。


『王ですから』


 コメント欄が流れる。


:頑張れ

:健気

:無理するな

:泣けてきた

:王様も大変だな


 エリシアは首を振った。


『ありがとうございます。

 ですが、皆様も同じでしょう?

 お仕事や学業で大変な日もあるはずです』


『ですので』


 一度言葉を区切る。


『明日も一緒に頑張りましょう』


 自然な笑顔だった。


 動画が進む。

 だが陽太は少しだけ画面から目を離した。


「……お前が言うか」


 思わず笑う。


 どう考えても、自分よりも、視聴者よりも、

 エリシアの方が大変そうなのは間違いない。


「王様に言われたらなぁ」


 肩の力が抜ける。

 不思議だった。


 疲れが消えるわけではない。

 バイトが楽になったわけでもない。

 課題だって残っている。


 それでも、少しだけ気持ちが軽くなっていた。


 動画が終わり、画面が暗くなる。


「明日も、か」


 ぽつりと呟く。


 明日だけではない。

 毎日向き合わなければならない、たくさんのことがある。


「よし、頑張るか」


 心から、そう思えた。


 リアルタイムでは会えなかった。

 それなのに、いつもより近くに感じた夜だった。

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